【俺は好きなんだよ】第1859回
『6888郵便大隊』(2024)
原題は、『THE SIX TRIPLE EIGHT』。
『6888大隊』ですね。
物語。
1942年、第二次世界大戦下のアメリカ。
チャリティー・アダムズ大尉率いるアメリカ陸軍婦人部隊所属の有色人種女性から成る部隊は、厳しい訓練をしていたが、戦場に行く指令は出ない。
軍内部でもあくまで大統領の要請による女性部隊、しかも、有色人種部隊は役立たずというレッテルを貼られ、厄介者扱いになっていた。
だが、1942 年 5 月、彼女たちに6888大隊として、欧州戦線に参戦するよう指令が下る。
それは、欧州戦線からアメリカ国内に郵便が届いていないという苦情が政府に上がり、議員夫人がそれを取り上げ、大統領の命令が出た郵便配達という兵站任務だった。
あの厳しい訓練は何だったのか……。
アダムズ大尉は、ただ仕事を与えておけという様子に怒りを禁じえず、与えられた時間の半分もあればと中将に豪語してみせる。
しかし、着いた欧州戦線は思いの外広く、アメリカ軍の情報は混乱しており、郵便は止まってアメリカどころか欧州にも配達できておらず、1700万もの郵便物が半年以上も放置されている目も当てられない状態だった。(3桁に近いコンテナに無造作に放り込まれていた)
これを6ヶ月で欧州戦線に郵便網を確立し、仕分けて配達せねばならない、という不可能ミッションに6888郵便管理大隊(約800名)は挑む。
だが、彼女たちに、さらに人種差別や性差別による、過酷な労働環境などが襲いかかる。
第二次世界大戦の欧州戦線で、黒人婦人部隊約800名が放置された1700万通を処理し、半年で通郵網復活させる不可能ミッションに挑む実話戦争ドラマ。
見所。
第二次世界大戦の欧州戦線において、実際に存在した有色人種女性部隊による郵便大隊の実話を実写映画化。
『マデア』シリーズなどのヒットメイカーのタイラー・ペリーが監督・脚本を務めた。(article) (as Kevin M. Hymel)
主演の一人に、指揮官を『ジャンゴ 繋がれざる者』などのケリー・ワシントン。スーザン・サランドン、ディーン・ノリスなどが脇を固めています。
戦争もので、戦闘シーンは少ないが、戦場で郵便網をつくるというお仕事ものになっており、見慣れない郵便配達という戦いを見ることができる。
だが、配達ものは映画においては、一つの王道ジャンル(ゲームでも)であり、最近では『1917 命をかけた伝令』がまさにこれに該当するし、手紙ものもまた王道ジャンルで、『グリーンブック』『ストーリー・オブ・マイライフ/若草物語』のサブストーリーはこの手紙ものであった。
実話戦争ものので新たな部署に光りを当てている。
戦場郵便の話というよりは、広大かつ膨大な戦場で放置された、1700万通つまり一国クラスの人口分(半年分)の郵便物を、たった約800人の非専門家が、どう仕分けして、郵便網を確立するのか、という部分。(おおよそだが第二次世界大戦の欧州戦線におけるアメリカからの従軍数は約1500万人)
部隊は約800人ですから仕分け班が半分としても単純計算で一人約4万通を取り扱わねばならないわけです。(しかも、日々増えていく)
実際には、兵站補給があるので、その補給部隊に郵便物を渡せばいいのだが、広大かつ変化する戦場を把握という作戦本部クラスの情報戦を繰り広げることになる。
しかも、黒人女性部隊ゆえ作戦本部どころか軍からも差別されている状態で。
落ちこぼれ部隊物は数あれど、最上級の難易度。
これを群像劇ですが、まずは一人から、二人と視点を増やしていくスタイルでの群像劇で見せていくので、非常に見やすく仕上げている。
お仕事ものの面白さを戦争ミッション的にしつつ、恋愛模様や隊内でのもめごとなど、ドラマをうまくちりばめているので、置いていかれない。湯瓶物の放置に対抗したかのような丁寧なシナリオ。
その分、戦闘シーンは少なく、ちょっと現代のものとしては弱いが、あくまで必要と要求に応えたという感じ。
人種差別ものもやはり時代が古いときついのだが、そこを実力ではね返していく様に快哉を叫びたくなる。
陰惨じゃない戦争ものとして、胸熱くして見られます。
郵便を届けるって、個人を尊重する行為なわけで、数にされてしまう戦場で、人を見せる物語なのです。
いうなれば、ヒューマン戦争もの。
心にもメッセージを届けてくれる一本。
スタッフ。
監督・脚本:タイラー・ペリー
製作:ニコール・アヴァント、アンギ・ボーンズ、カルロタ・エスピノーザ、タイラー・ペリー、ケリー・セリグ、トニー・L・ストリックランド
撮影:マイケル・ワトソン
編集:メイジー・ホイ
音楽:アーロン・ジグマン
出演。(役名)
ケリー・ワシントン (チャリティ・アダムス大尉)
エボニー・オブシディアン (レナ・デリコット・キング)
ミローナ・ジェマイ・ジャクソン (ノエル・キャンベル大尉)
カイリー・ジェファーソン (バーニス・ベイカー)
シャニース・シャンティ (ジャニー・メー)
サラ・ジェフリー (ドロレス・ワシントン)
ペピ・ソヌーガ (エレイン・ホワイト)
モライア・ブラウン
ジャンテ・ゴッドロック
ジェイ・リーヴス
ジェフリー・トーマス・ジョンソン
バージャ・リン・オダムス
グレッグ・サルキン
ドナ・ビスコー
スコット・ダニエル・ジョンソン
ディーン・ノリス (ハルト中将)
スーザン・サランドン (エレノア・ルーズベルト)
サム・ウォーターストン (フランクリン・ルーズベルト)
オプラ・ウィンフリー (メアリー・マクロード・ベスーン)
Netflixで2024年の12月25日より配信。
ネタバレ。
6888大隊の功績は歴史書から外され国家的な注目を浴びることもなく無視されてきたが、2022年、アメリカ議会は6888郵便大隊に、議会黄金勲章(Congressional Gold Medal)が授与された。
この勲章は、アメリカで最高の市民栄誉の一つである。
実は、欧州戦線でも彼女たちの存在は知られておらず、郵便物が確立されただけだと思われていた。
なので、ラストの彼女たちが他の兵士から拍手されるというのは、フィクションだが、タイラー・ペリーは創作の自由を採用し、彼女たちの労をねぎらいたかったし、賞賛されるべき、という思いから入れたのだそう。
彼女たちの物語は、現在、ようやく歴史家やドキュメンタリー、存命者の証言によって知られるところとなり、今作へとつながったという。
映画撮影時には存命の4名が映っている。
レナ・デリコット・キングは存命で100歳を迎えており、彼女に見せるために、驚異的な速度で仕上げを急ぎ、2024年明けて早々にタイラー・ペリー自ら完成品をラスベガスの自宅に持っていき、上映した。
レナは、その直後の2024年1月18日に100歳で亡くなった。
2024年の公開時では、ファニー・マクレンドンとアンナ・メイ・ロバートソンの2名が存命。
指揮官チャリティ・アダムスは、最終的に中佐として欧州戦線を退いた。これは黒人女性兵士として最高位である。
第二次世界大戦中、女性陸軍部隊に従軍した 14 万人以上の女性のうち約 6,500 人が黒人だった。
劇中ではわずかに描かれていることの補足。
部隊は三交代制で 24 時間労働を行った。軍夫支援をあまり受けられない独立部隊だったため、自ら独自の食料補給、車両補給、生活活動を確保した。
部隊が掲げたモットーは「"No mail, no morale,"(郵便無くば、士気向上無し)」だった。
描かれていないことの補足。
放置されていた郵便物は盗難にもあっており、それを追跡し、取り戻す活動(警察行為)をフランス市民と協力して行っている。