で、ロードショーでは、どうでしょう? 第1146回。
「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」
『ハイドリヒを撃て! 「ナチの野獣」暗殺作戦』
第2次世界大戦の史実を基に、ナチス親衛隊大将ラインハルト・ハイドリヒの暗殺計画“エンスラポイド(類人猿)作戦”を映画化した実録戦争サスペンス。
ナチス占領下のチェコを舞台に、ハイドリヒ暗殺という過酷な任務に挑む2人の若者の悲壮な決意とその顛末を緊迫感あふれる筆致で描き出す。主演はキリアン・マーフィとジェイミー・ドーナン。
監督と共同脚本と撮影は、『フローズン・タイム』、『メトロマニラ 世界で最も危険な街』のショーン・エリス。
物語。
1941年12月、ナチス占領下のチェコスロバキア。2人の若者ヨゼフ・ガブチークとヤン・クビシュがパラシュートで降り立つ。
ロンドンに本拠を置くチェコスロバキア亡命政府の密命を帯びた彼らの目的は、ナチスNo.3と言われるラインハルト・ハイドリヒの暗殺。彼らの他にも仲間が潜入していた。
チェコ国内のレジスタンスと協力を結び、仲間と合流し、この難作戦へ挑む。
だが、レジスタンスの中にはナチスの報復を恐れ、暗殺に反対する者も少なくなかった。
リーダーのヨゼフとヤンが中心となって調査を開始するため、目立たぬように、女性レジスタンスのサポートを受けることになる。
だが、ヤンには精神的に脆いところがあった。
脚本は、ショーン・エリス、アンソニー・フルーウィン。
出演。
キリアン・マーフィが、チームのリーダーのヨゼフ・ガブチーク曹長。
ジェイミー・ドーナンが、ヤン・クビシュ軍曹。
シャルロット・ル・ボンが、マリー・コヴァルニコヴァー。
アンナ・ガイスレロヴァーが、レンカ・ファフコヴァー。
トビー・ジョーンズが、レジスタンスのリーダーのヤン・ゼレンカ=ハイスキー。
ハリー・ロイドが、アドルフ・オパルカ。
マルチン・ドロチンスキーが、ラジスラフ・ヴェネック。
アンナ・ミフロヴァーが、マリー・モラヴェッツ。
ビル・ミルナーが、アタ・モラヴェッツ。
サム・キーリーが、ヨゼフ・ブブリーク。
イジー・シメックが、カレル・チュルダ。
ヴァーツラフ・ネウジルが、ヨゼフ・ヴェルチク。
ミッシュ・ボイコが、ヤン・ハルビー。
アンドレイ・ボラークが、ヤロスラフ・シュヴァルツ。
ほかに、ショーン・マーホン、デトレフ・ボーズ、など。
スタッフ。
製作は、ショーン・エリス、ミッキー・リデル、ピート・シレイモン。
製作総指揮は、アニタ・オーヴァーランド、レオナール・グロウィンスキ、クリシュトフ・ムハ、ダヴィット・オンドリーチェク、ジェニファー・モンロー、クリス・カーリング。
撮影は、ショーン・エリス。
オペレーターも自身で行っています。
スーパー16で当時の空気感をつかまえています。
プロダクションデザインは、モーガン・ケネディ。
衣装デザインは、ヨゼフ・チェホタ。
多くのロケ地は実際の場所で撮影している。
編集は、リチャード・メトラー。
音楽は、ロビン・フォスター。
ナチス親衛隊№2、"プラハの虐殺者(またはプラハの者、金髪の野獣)"ハイドリヒの暗殺作戦を描く戦争サスペンス。
戦争で狂った世界での人の意思を淡々と積み重ね、ふいに差し込まれる抒情で胸に刺す。東欧の重い色彩が緊張と使命を倍増させる。
リアルな時間の流れを感じさせる演出と構成は時間にこだわるショーン・エリスならでは。
作戦の冷、現実の温の絶妙なバランス。
キリアン・マーフィーの冷静と相対させたジェイミー・ドーナンの繊細がよい。
人が数字になる、薬の苦みに副作用を思う果作。
おまけ。
原題は、『ANTHROPOID』。
"エンスラポイド"は、チェコ語で"類人猿"のことで、ハイドリヒ暗殺作戦の作戦名ですね。
上映時間は、120分。
製作国は、チェコ/イギリス/フランス。
映倫は、PG12。
受賞歴。
2017年のチェコ映画賞にて、観客賞をショーン・エリスが、受賞。
(チェコ映画賞で初の英語作品での作品賞ノミネートも果たしている)
ハイドリヒ暗殺は映画では、『死刑執行人もまた死す』(1943年。原題は『Hangmen also die』)、『暁の七人』(1975年。原題は『Operation Daybreak』)、『暗殺』(1964年原題は『Attentat』)でも描かれています。
ウィキによると。
ラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒ(Reinhard Tristan Eugen Heydrich, 1904年3月7日 - 1942年6月4日。享年37歳)は、ドイツの政治家、軍人。最終階級は親衛隊大将(SS-Obergruppenführer)および警察大将(General der Polizei)。18歳でドイツ海軍に入隊するが1931年(26歳)に不名誉除隊後、同年にナチスに入党。1936年(31歳)に国家保安本部(RSHA)の事実上の初代長官となり、ドイツの政治警察権力を一手に掌握し、ハインリヒ・ヒムラーに次ぐ親衛隊ナンバー2となる。ユダヤ人問題の最終的解決計画の実質的な推進者であり、その冷酷さから親衛隊の部下たちから「金髪の野獣(Die blonde Bestie)」と渾名された。二重人格的傾向があったという。フェンシングが得意で剣術の腕は確かだった。1928年のアムステルダム五輪のフェンシングの代表選手(23歳頃)に選出。フェンシングの他、乗馬やスキー、飛行機の操縦も得意で近代五種競技の選手にもなっており、親衛隊の体育監査官でもあった。そのせいかスポーツ選手には寛大な面もあり、ユダヤ系のスポーツ選手達がドイツ国外へ逃げられるよう手配したりしている。
以下は、おいら好みの話なので掲載。
ラインハルト・トリスタン・ハイドリヒの弟ジークフリート・ハインツ・ハイドリヒは、兵隊向けの新聞『Die Panzerfaust』を発行する出版社を経営するジャーナリスト。彼は1944年11月19日夜に東プロイセンにある所有の印刷所へ向かう特別列車の中で拳銃自殺をしている。ハインツの息子の証言によるとハインツは、兄ラインハルトの葬儀の後、ゲシュタポ本部の金庫の中に残る彼の遺したファイルから兄がユダヤ人絶滅政策を行っていたことを知り、これを見て真っ青になったハインツは、以降、出版業務の陰でユダヤ人達に偽装身分証を発行してユダヤ人達がデンマーク経由でスウェーデンへ逃れられるよう取り計らうようになった。ハインツが救出したユダヤ人の数は少なくない。
1944年11月に『Die Panzerfaust』の編集員達は州政府から調査を受けた。ハインツは偽造身分証発行のことが政府に露見したと思い、ゲシュタポの捜査の手が家族にも及ぶことを恐れ自殺。この捜査は『Die Panzerfaust』紙が新聞の発行を減らしていることの理由を捜査するためであった。
ネタバレ。
ウィキによると。
エンスラポイド作戦は、連合軍によるナチスの高官暗殺計画で唯一成功した作戦である。
イギリスのチェコスロバキア亡命軍から選抜された7人の兵士である、ヨゼフ・ガプチーク、ヤン・クビシュと2つの他のグループ(シルバーAとシルバーB)は、イギリス空軍により1941年12月28日にチェコスロバキア領内にパラシュートで降下した。
半年後の1942年5月27日に3度目の計画(最初の計画は列車内での暗殺だったが廃案、映画に描かれた森の中での計画が2度目でレジスタンスにより中止に)が実行され、ハイドリヒは怪我のせいで一週間後に死亡した。
ドイツ軍は大々的に捜査をするが、手がかりをほぼ得られず。カレル・チュルダがレジスタンス組織ハイスキーのメンバーであるモラヴェック夫人の関与などを密告。6月17日にモラヴェック家が捜索され、夫人は青酸カリで自決、息子アタと夫が逮捕され、拷問を受ける。アタの自白を基にさっそく、潜伏先の教会が700名以上のドイツ兵に包囲される。計画実行者の生き残り6人で2時間以上(6時間とも言われる)抵抗し、全員が死亡(自決含む)した。
この暗殺へのナチスの報復は凄まじく、5000人以上が殺害(1万以上とも。2つの村を破壊し生き残りは逮捕などしたので正確に数が分かっていない)され、それ以上の数の逮捕者を出した。
イギリスの戦時首相ウィンストン・チャーチルは激怒し、ナチスが破壊したチェコの村一つにつきドイツの村を三つ破壊することを提案さえした。だが、連合国側は報復を恐れ、準備中だったナチス高官の暗殺作戦計画を中止した。ハイドリッヒが殺された2年後、フォックスレイ作戦で連合国側はヒトラー暗殺を計画するが、これも中止している。(ウィキより)
トム・クルーズ主演の『ワルキューレ』(2008)は、ドイツ将校によるヒトラー暗殺のワルキューレ作戦を描いたもの。
ほかにも、暗殺作戦を描いた映画に、民間人によるヒトラー暗殺『ヒトラー暗殺、13分の誤算』(2015)、ソ連によるヒトラー暗殺、『ヒトラー暗殺 ヴェアヴォルフ・ハント作戦』(2008)、英国の狩りの名手によるヒトラー暗殺『マン・ハント』(1941)、映画館主と特殊部隊バスターズによる高官暗殺『イングロリアス・バスターズ』(2009)、などがある。
密告者のカレル・チュルダはドイツの偽名とドイツ人妻を得たが、戦争終了後の1947年に自殺を試みるが失敗。ナチス協力の罪で処刑されている。
最後の教会の表は実際の銃撃戦の現場。
中は実物と同じように巨大セットを組んだ。
アタが拷問を受けている場所も実際の場所だそう。
この映画の優れたコンセプトの一つは、観客がハイドリヒの顔がよくわからない点である。
写真も出るし、顔は写るし、攻撃もしてくる。
だが、この人物を殺すのだという特定感がない。
これは、殺される人物を人間にしないことで個性、人間性をはぎとり、情報に変えている。
ハイドリヒはナチスの高官で、「プラハの虐殺者」と呼ばれる酷い奴。
殺されるに値されるのだと。
特定の個人でありながら、ゲームの設定のように。
これによって、人が人を人だと認識しないことで人は人を殺せる。
これがユダヤ人虐殺でも起きていたことなのだろう。
それは、最初の森の小屋のシーンでも描かれる。
物語的にはいい人に見える助けてくれた人が告発者であり、それを殺すシーンであり、
でも、顔を見たら、それでもある種の印象をもってしまう。(観客にももたせるし、それにより誰も信じられない世界にいることを理解させる)
だから、ヤン・クビシュはその躊躇を手の震えとして見せ、相手が人だから殺せない。
ハイドリヒを殺せば、報復で千人単位で人が殺される。でも、殺さなければもっと死ぬかもしれない。
どちらが正しかったか。
暗殺に反対したレジスタンスのラジスラフ・ヴェネックは報復で殺される人を人として見ていたのかもしれない。
どちらが正しいので半句、戦争が人を人でなくすことなのだと伝えるのだ。