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菱沼康介の、丸い卵も切りよで四角。

日々の悶々を、はらはらほろほろ。

帰宅という旅。 『ゴースト・トロピック』

2024年02月29日 00時00分50秒 | 映画(公開映画)

で、ロードショーでは、どうでしょう? 第2314回。


「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」

 

 

 

 


『ゴースト・トロピック』

 

 

 

ベルギーのブリュッセル、終電で終点まで寝過ごしたアラブ系中年女性が徒歩帰宅する一晩のほんわか旅を描くドラマ。

 

ゴースト・トロピック | Bunkamura

 

原題は、『Ghost Tropic』。
『魂回帰線』、『幽霊熱帯』。

 

「回帰線(tropic)」は、地球の表面の緯度23度26分の所に赤道と平行に引いた線のこと。
北半球を通るものを北回帰線、南半球を通るものを南回帰線という。
北回帰線上では夏至の日に、南回帰線上では冬至の日に、太陽の南中高度が90度になる。
両回帰線の間の地域が熱帯にあたる。
北回帰線を通過した太陽は赤道方面に向かい、南回帰線に達して、また戻ってくる。一年をかけて太陽が戻ってくるように見える。
そこから、ギリシャ語で「帰る(turn)」という意味の「tropos」に由来して名付けられ、 「回帰線」と訳された。
回帰線を天球に投影した赤緯線=天の回帰線は、かつては天球図にも描かれていたが、現代の星図には記入されない。
(ネットより)

ちなみに、「ゴースト(ghost)」には、幽霊のほかに、幻、幻影、痕跡、面影、幽(かす)かさ、わずかな可能性、弱弱しいもの、(生命の根源たる)魂などの意味もある。加えて、写真撮影で入射した強い光がレンズ面で反射を繰り返すことによって生ずる、ぼけた画像やテレビ画面で二重にボケた画像のこともいう。今作のポスターにも、このボケた二重画像がデザインされているものがある。

 

 

製作年:2019
製作国:ベルギー
上映時間:84分
映倫:PG12
配給:サニーフィルム
劇場公開日:2024年2月2日

 

 

 

カンヌ国際映画祭やベルリン国際映画祭でも注目を集めるベルギーの映画作家バス・ドゥボスの長編第3作。
日本では、2024年に第4作目『here』と共に初めて紹介された。

今作は、第72回カンヌ国際映画祭の監督週間に出品された。

 

 

物語。

2018年頃、アラブ系の中年の女性で清掃作業員のハディージャは、長い一日の仕事で疲れ、終電で眠りに落ちる。
町外れの終点で放り出された彼女は、現金はなく、もはや徒歩でしか帰宅方法がない。
ハディージャはあるアイディアを思いつき、寒い町をゆっくりと歩き出す。
それが長い夜の始まりだった。

 

スタッフ。

監督:バス・ドゥボス
製作:マルク・ゴイェンス、バス・ドゥボス、ナビル・ベン・ヤディル、ブノワ・ロラン、トマス・レイヤース
脚本:バス・ドゥボス
撮影:グリム・バンデケルクホフ
編集:バス・ドゥボス
音楽:ブレヒト・アミール

 


出演。

サーディア・ベンタイブ (ハディージャ)
マイケ・ネーヴィレ
ノーラ・ダリ
シュテファン・ゴタ (警備員)
セドリック・ルヴエゾ

Guy Dermul ... Homeless Man
Mazzel Mazzel ... Dog

 Maaike Neuville ... Gas Station Clerk
Nora Dari Nora Dari  (アデラ/娘)

 

 

 

 

『ゴースト・トロピック』を観賞。
現代ベルギーのブリュッセル、終電で終点まで寝過ごしたアラブ系中年女性が徒歩帰宅する一晩のほんわか旅を描くドラマ。
困りながらも、人々のちょっとした思いやりに触れる帰り道。
原題も『Ghost Tropic』。
タイトルに「ゴースト」とありますが、ホラーじゃないですし、幽霊も出てきません。『攻殻機動隊』でも使っていた「魂」に近い意味なんじゃないかと。そもそも「幽かさ」や「面影」、「二重画像」という意味もありますしね。
「TROPIC」は「熱帯」という意味で、劇中に南国の描写が出てきます。もう一つ「回帰線」の意味もある。赤道と平行に引いた線のことで、回帰線の間の地域が熱帯にあたり、太陽が一年かけて、北と南の回帰線を行って戻るため、ギリシャ語の「帰る(turn)」の意味の「tropos」に由来して名付けられ、「回帰線」と訳された。
会えて、おいらが邦題をつけるなら、『面影回帰線』や『魂回帰線』ってとこですかね。
これぞヒント・オブ・ペイン(痛みの手がかり)を味わえる大人の映画。
繰り返す日常も、ちょっとした輝きや痛みの交差点を何度か通って、辿り着いた場所で、ふと思い出し喜怒哀楽。
少しの優しさで相手を思いやる交流がほんのり笑顔をもたらす。そこ奥に流れる悲しみがさらにその夜を輝かせる。
日は毎日沈み、また昇る、過ぎゆく時間に思いを馳せる。
まるでドキュメンタリーのように、じっくりと帰宅に寄り添う。
夜のブリュッセルの風景を、粒子の荒い16ミリカメラの繊細な映像で美しく切り取っていることで、現実感があるのに、ファンタジックに世界を映し出す。
ミニマムなストーリーと技法で沁みるテーマを描き、国際映画でも注目されるベルギーのバス・ドゥボスの長編第3作で、第4作『Here』と同時公開で日本初紹介。
ドラマは小さくても、映画的な飛び道具技法も入れて、考えさせる行間がある。それも複雑ではなく、ちょいと脳の奥に旅させるくらい。
アピチャッポン・ウィーラセタクン風味もある。
ここからちょっと離れて、どこかに行きたい気持ちをわずかに満たす心の交流。
想像力があなたを冬から夏へと旅立たせる。
映画館を出たとき、目が変わったのを感じる。
映画浴。
白昼、夜明け、夕暮れの傾きの影に心の角度が導き出され、過ぎていった時間へ想いを馳せる。
帰り道が少し軽くなる一本。

 

 

 

 

Ghost Tropic (2019) - IMDb

Ghost Tropic - film 2019 - AlloCiné

Ghost Tropic (2019) | MUBI

Ghost Tropic (2019)

 

Premi e Nomination Ghost Tropic (2019) di Bas Devos - MYmovies.it

 

 

受賞歴

2019年の回路国際映画祭にて、最優秀監督賞(バス・ドゥボス)を受賞。

ほか、2つの賞を獲得。

 

 

 

 

 

 

 

 

ネタバレ。

タイトルが出るとき、「Tropic」だけが画面に残るので、タイトルそのものが薄れゆく面影や幽かさを重し出している。

 

犬の紐は、わざとどちらにもなるように、ふんわり結んでいたのかもしれない。
その起こりえる、いい方を想像したということだろう。
わざわざ、戻って、あのタイミングで、解ける瞬間を見れえるのはちょっと作為が過ぎる。
つまり、想像することで、自分を慰めてきた彼女の人生が投影されているように考えた。
もしかすると彼女の夫も捕まって死んだのかもしれない。

それが、現実かどうかもわからない、あの海のシーンにつながっている。
あの海を見ているのは、娘時代の彼女だろうか。
あの頃を思い出しえるのか、あの頃はあんな感じな瞬間があったなあというのをあのポスターのイメージと混ぜ合わせて思い出していたんじゃないかな。
それは、娘アデラのあの輝くような笑顔が呼んだのだろう。
いくつかのきかっけが重なったことで、思いが広がる。
日々の積み重ねのちょっとした偶然のレシピが心の温度を上げることがある。
過ぎ去った時間も心の作用で帰ってくる。

あの警備員さんも移民なんだろうな。
ちょっとしたルール違反が彼の何かを落とすかもしれないのイ、困った人のために少しだけそれを曲げる。彼自身がそうして欲しかったことがあるのだろうし、そういう心持ちの人なんだろう。
バスの運行休止にも声を荒げることなく、静かに次の道へと進んでいく。それは躾けられた悲しさかもしれないし、慣れ親しんだ諦めかもしれないし、事情を察する優しさかもしれない。

彼女もまた侵入して住んでいる青年を告発しない。それは間違っているかもしれないが、いづれどこかでその向きが来ることを知ってるからこそ今でなくてもいいという思いなのかもしれない。
だから、彼女は、今が重要な時に、通報する。
倒れていた路上生活者を、未成年にお酒を売る店を。
そして、彼の安否が今知りたかったのだ。
時間は常に押し流すように、流れ来て、流れ去るから。

街は変わっていく。
人も変わっていく。
想い出も変わっていくかもしれない。
今、思い出す想い出が、今の私の思い出。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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