一期一会

日々是好日な身辺雑記

「RAGE 怒り」ボブ・ウッドワード

2021年02月21日 | 日記

今週は在宅時間はボブ・ウッドワードの「RAGE 怒り」を読んで過ごした。
ボブ・ウッドワードのトランプ本として2冊目で、アメリカでは9月に発売されたちまち150万部を超えるベストセラーとなり、日本では12月上旬に発売となった。トランプ本は一刻も早く読みたいのと、永久保存本としてその馬鹿さ加減を後から確認したい意味で、ボブ・ウッドワードの前作「恐怖の男」は買ったが、今回は落選決定の後だったので、図書館から借りて読むことにした。

同じトランプ本でも「恐怖の男」と違うのは、オンレコという形でトランプの了解を得て記録を残し、それを元に描かれたものだ。2019年12月大統領執務室での75分のインタビューから始まり、2020年7月まで17回のインタビューが行われ、何回かトランプからの電話も受けている。トランプ以外へのインタビューは(ディープ・バックグラウンド)という情報は全て使用して良いが、情報を提供した人物については明かさないというジャーナリストのルールに基づいて描かれている。

話の骨格としては、ティラーソン国務長官、マティス国防長官、コーツ国家情報長官という主要閣僚の解任・辞任劇、モラー特別検察官のロシア疑惑捜査、弾劾裁判の原因となるウクライナのゼレンスキー大統領へのバイデン親子の捜査要請、北朝鮮金正恩との3回の会談と親書のやり取り、Black Lives Matter運動への対応、新型コロナウィルスへの公衆衛生機関とトランプ政権の対応が描かれている。いづれも各メディアで報じられている事なのでそれについては触れないが、この本を読んで感じるのは、何故トランプはこのインタビューを受けたのかという事だ。
ボブ・ウッドワードはニクソンを辞任に追いつめたウォーターゲート事件で、ピューリッツァー賞を受賞した名物記者だし、(恐怖の男 トランプ政権の真実)では批判的立場で描いているのは承知しているだろうに。

トランプは自分にとって都合の悪い話題についてははぐらかしたりするが、ボブ・ウッドワードの質問は厳しく、答えが得られるまで繰り返し尋ねる。そこで改めて浮き彫りになったトランプの性格は、他人の話は遮り聴かない、自分の主張だけ一方的に述べ、嘘をつくというものだ。
それと臆面もない自画自讃ぶりで、Black Lives Matter問題に関しては(自分はアメリカ史上どの大統領よりも黒人問題の解決に力を尽くした)と言う。
トランプ自身が披露したのだと思うが、金正恩からの手紙についても詳しく描かれている。
コロナウィルス対応については、3Mの医療従事者向けサージカルマスクN95を国防生産法に基づいて増産させたと、自分の手柄話として2度も自画自讃している。

トランプがこのインタビューを17回も受け、自らも何回かボブ・ウッドワードに電話したのは、著名なジャーナリストに認められたいという自己承認欲求の強さから来ているのだろう。そんなトランプの想いとは違い、この本の最後には次の文章で締め括られている。

「私は50年近くかけて、ニクソンからトランプに至る大統領9人について書いてきた。
  大統領は、最悪の事態や、悪い報せと良い報せを、進んで国民と分かち合わなければならない。ことに危機に際しては、世界に向けて真実を告げるという対応が必要だ。
ところがトランプは、個人的な衝動を大統領の職務の侵しがたい統治原則にしている。
 大統領としてのトランプの業績全体からすると、結論はたった一つしかない。
 トランプはこの重職には不適格だ」



この本の後日談が日経新聞のボブ•ウッドワードへのインタビュー記事で明かされた。
本を書き終えた8月にトランプから電話があり、イスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)との和平合意について触れられないかと言われ、(もう終わりました)と答えたうえで、(大統領、これは厳しい本になります。あなたとは一致できない判断があります)と話したとし。
(新型コロナウィルスについて書いたのか)と聞かれ(もちろん大きな話です)と説明した。
その電話を切った1時間後にトランプが、(ボブ・ウッドワードの本はフェイクニュースになる)とツィートしたという。いかにもトランプらしいエピソードだ。