「安倍晋三回顧録」を一週間かけて読み終えた。先週日曜日に日経新聞の広告でこの本を知り、早速ネットで図書館の検索をしたら未だ蔵書になっていなかった。丁度図書館に返却する本があったので、家に置いてある予約票に書き込み受付に出したら、現在注文中だという事と、既に15人の予約が入っているという事だった。これでは手元に来るまで半年近くかかるだろうと思った。
元々安倍政権というか、その基盤支持層である保守右派というものに対し抵抗感が強い。
毎月25日頃に出版される月刊誌「Hanada」や「Will」の広告が日経新聞に載るが、その攻撃的な目次を見ただけで不愉快になる。その執筆陣もセクハラ訴訟で賠償が最高裁で確定された山口某や、問題発言が多い杉田某とか筋が悪過ぎる。
今月号は両誌とも捏造発言で話題の高市大臣の援護記事がメインである。そして河野太郎攻撃記事なので、自民党寄りというよりネトウヨ的雑誌で論壇誌と言えるものではない。
こんな事を書いていると私が左派系の人間かと思われるかも知れないが、新聞は日経、テレビはNHK,テレビ東京、週刊誌は東洋経済などなので中道だと自負している。
そんな立場ではあるが、広告のキャッチコピーが(あまりに機微に触れると、一度は刊行が見送られた)とあったので興味を持ち、書店で手に取り読んでみた。
大体回顧録というのは、ゴーストライターによる自画自賛的な物が多いが、この本はインタビュー本となっており、聞き手が読売新聞編集委員の橋本五郎氏となっていた。
氏はテレビ番組や首相会見の幹事役として見ていて、ジャーナリストとしてバランス感覚と公平性があると思っていたので、図書館予約本を待たずに書店で購入した。
この本は36時間にわたるインタビューを394ページにまとめたもので、監修は安倍内閣で国家安全保障局長を勤めた北村滋氏があたっているが、出版社が中央公論なので、「Hanada」や「Will」のような単純な安倍礼讃本ではないだろうと思った。
プロローグが2020年のダイヤモンド・プリンセスの新型コロナウィルスから始まり、
第1章ではアベノマスク、一律10万円給付、黒川検事長長の定年延長、河井夫妻の逮捕など当時批判的に見ていた問題が取り上げられている。当時の岸田政調会長の広島選挙区2人区に河井安里氏を立てたり、低所得世帯への30万円の岸田案を一旦了承したが、それを覆した事などが安倍氏の理屈で語られている。岸田氏は安倍後継を期待していたかもしれないが、安倍氏にその考えは無かったのだろう。それにしても自民党本部から安里氏側に提供された1億5000万円の使途は明らかになっていない。
そして第2章から2003年の第1次安倍内閣発足、退陣。第3章から第10章まで安倍長期政権の元での政治的出来事が語られている。全てが興味深いものだが、それらは安倍氏自身の立場から語られるので、違和感を覚える事もある。ただインタビューする橋本五郎氏が予想通り、公平且つ客観的立場で質問しているのが良い。安倍氏が野党議員に(早く質問しろよ)と繰り返しヤジを飛ばした事を例に、野党との問答が荒くなっていると思いませんかとの質問があった。いわゆる御用聞き質問ではない。
2回にわたる消費税増税延期についても語られているが、増税延期の政治経済的理由は置いておくとして、その導き方が(国民経済にとって重い決断をする以上、信を問うべきだ)と、増税延期という国民受けする政策変更で解散をしたのは、狡猾な手法で当時強い違和感を覚え、政治の事は書かないポリシーにしていたが、何回かこのブログに書いた。
伊勢志摩G7サミットでリーマンショック級の世界経済の危機にあると言って、当時のIMFラガルド専務理事に、(そうは思わない)とやんわり否定された。
アベノミクスを支えてくれた経済学者として、浜田宏一エール大名誉教授、本田悦朗静岡県立大学教授、高橋洋一嘉悦大教授のいわゆリフレ派の名を挙げているが、エコノミストとしての評価はどうなのだろう?
高橋洋一氏は「Hanada」や「Will」によく寄稿している。
いづれにしてもアベノミクスの評価は、日銀の大量のETFや国債保有の中で、金融緩和の出口段階の長期金利上昇により、その評価は定まるだろう。
第1章から第10章までトランプ、プーチン評や各国リーダーとのエピソードも語られているが、全章にわたり財務省や外務省の官僚への不信感が感じられる。それが内閣人事局発足となったのだろう。また最も興味深かったのは終章での(私は小泉首相にいくつものポストに就けてもらいましたが、育てられたとは思っていない。〜中略〜小泉さんが私を幹事長にしたのは、自民党支持者の中で私の人気があったから選挙目当てで利用しようと考えたわけでしょう)と語っている。
退陣前までの小泉首相の支持率の高さからすると、これは思い上がりだろう。この辺が広告にあった(あまりに機微に触れる・・・)部分か。
プーチンのクリミア併合に対する意見など疑問符がつくが、とにかく長期政権下での政治的出来事が語られているので、興味深い内容だった。反安倍、親安倍に関わらず読み応えのある本だと思う。安倍元首相関連では「妖怪の孫」というドキュメンタリー映画が3月17日から公開されている。
プロデューサーが元経産省官僚の古賀茂明氏なので興味があるが、上映館が新宿ピカデリーなのでどうするか。
「べリングキャット」に次いで、図書館の予約待ちが長く購入したが、4月13日には村上春樹の6年ぶりの長編が発売される。村上春樹の本は殆ど持っているのと、現在読みかけの本もないので、
4月13日に買うつもりだ。