行政書士・社会保険労務士 大原事務所

人生も多分半ばを過ぎて始めた士業。ボチボチ、そのくせドタバタ毎日が過ぎていく。

孫の手

2016-04-10 22:58:40 | 日記・エッセイ・コラム

 18年位前、女房が長期で入院したことがある。

 息子はまだ幼稚園の年中さんで手がかかる。勤めていた会社が理解があったのと、女房の両親がまだ元気だったのでなんとか乗り切ったが、入院がいきなりだったので、暫く苦労した。

 みんな細かいことなので、一つ一つはたいしたことはないのだが、次から次とトラブルがあるといささか荷ではあった。

 朝起きてから着替え、食事、幼稚園への送り迎え(お迎えと迎えてから夜、私の帰宅までの時間は人に頼んだ)、夕食、歯磨き、翌日の用意、就寝まで、最初はいちいちスムーズにはいかなかった。

 例えば朝食。朝は忙しいので簡単にすませる。ツナトーストにチーズを乗っけたものと牛乳。女房が朝息子に食べさせていたのを見ている。ツナは息子の好物だ。

ところが

「早く食べなさい。お父さんも着替えてくるからね」

と寝室へ戻って、着替えて居間に戻っても、息子は食事に手を付けていない。

曰く

「ミルクはお砂糖いれて、パンはお耳とって。お母さんのはそうだった」

かっとなった。時間が無い。

「てめー!黙って早く食え。バスが来ちゃうだろ!砂糖は身体に悪い。パンは耳が美味い。第一パンの耳をとるなんざあ、何処かのお嬢ちゃん、お坊ちゃんのやることだ。庶民はみんな食う!分かったか!食わないならお父さんが食うぞ」

言葉は乱暴だが顔は笑っているから怒っても効き目は薄い。

「食っていいよ、耳だけ食べて!」

このあたり、息子のほうが上手である。

母親とおなじには出来ない。色々と不便なことも多かった。

夏休み、息子を旅行に連れて行った。母親が入院しているが、それで毎年恒例の夏の旅行を無しにするのも息子が可愛そうだ。

日光の近くの保養所に泊まった。

何となく土産物を見ていて、ふと孫の手が目に止まった。そうして、このところ背中を掻くのに苦労していることを思いだした。

女房にいわせると私は背中と耳の痒い痒い病だそうだ。そのくらい年中背中や耳が痒いと言った。女房がいなくても耳は自分でかける。ところが背中の一部は自分では如何ともし難い。身体が硬い私はなおさらだ。ものさしを使ったり、柱の角に背中を押し付けたり、色々やってしのいでいたが、どうもすっきりしなかった。幼い息子ではうまくかいてくれない。一度眠ってしまったら、まさか背中をかかせるために起こすわけにもいかない。土産物売り場の孫の手を見た時それをハタと思い出した。

 これだ!これがあったじゃないか。それにしても、思い出してみると、この孫の手と木刀、土産物売り場には必ずと言っていい程売っている。旅とは何の関係も無い。どちらも、特に木刀など旅先から持って帰るには邪魔だ。何故売っているのか?不可解。

早速、その日から孫の手は重宝した。どういう訳か、ベッドに入って少し身体が温まって来た時が特に痒くなるようだ。

 



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