過日、大腸ポリープ切除というのをやった。私の場合、心臓病の関係で血液を固まりにくくする作用のある薬を二種類も飲んでいる。そのせいで、入院期間が長くなって5泊。やれやれである。もっとも、稼ぎの悪い自営業者なので、保険に二つも入っていると、入院していた方が実入りが多いというのだから喜ぶべきか、悲しむべきか。
さて、手術は痛くないという話だったが、痛かった。と言ってもポリープを切り取るのが痛いわけではない。腸の内側というのは痛覚がなく、痛みを感じないという。腸のなかに生理的食塩水(多分)だの空気だのをどんどん入れてふくらますので、丁度ガスがたまった時や下痢の時の様な差し込む痛みが徐々に強くなり、何とか耐えているという状態が手術の途中からずっと続いた。
脂汗を流しながら唸っている私を見て、
「我慢しないで、おならをしてくださいね」
と言ってくれるのだが、そう言われて出るものなら出している。出そうとして出るものではない。そのくせ私の意思とは無関係に風船の口を開いたように時々勢いよく出る。その度に全部出てくれと思うが、全部は出ない。その上、ガスが出て少し楽になったような感じがすると、大腸はしぼんでしまって、追加でまた空気だの生理的食塩水だのを入れる。痛みは無くならない。
そんな中、私の大腸に内視鏡を入れてポリープを切り取る。前の日から食事を少なくして、今日は絶食。加えて大量の下剤を飲んで腸のなかには空っぽにしているのだから、ガスは臭くないのだろうが、医者と言うのも大変な商売だ。
おならといえば、もう随分前だが、腹具合の悪い時があった。やたらにガスがたまる。ガスはたまるが、適当に出て行くので、べつに特に辛くはない。辛くはないが、いつもお腹が張っているようで不快だった。
私も所構わずブーブーおならをするようなことはしない。人前では気を使う。特に当たり前だが電車の中ではしない。歯を食いしばってでも我慢する。
会社の帰り、その頃住んでいた小田急線の玉川学園前まで新宿から電車に乗った。どうも腹が張る。でも何とか玉川学園前駅まで我慢した。降りてホームの端で電車の行き交う音にまぎらせて放屁。まだすっきりはしないがなんとか張りは取れた。
ところが、駅を出て自宅のある横浜市緑区の方へ歩き始めた途端、不意に実に気持ち良くおならが出た。それが女子高校生4~5人の集団とすれ違ったと同時だった。一歩、一歩、歩くごとに区切りよくブッツ、ブッツ、ブッーツと三回。おまけに最後は長く伸びて綺麗にリズムを刻んだ。我慢しようがなかった。高校生だけでなく、周りを歩いている人にしっかり聞かれてしまった。しまったと思ったが、もう遅い。でも、久しぶりに腸の中がすっきりした感じ。フーッとため息をついた。すると突然後方でけたたましい笑い声が。振り返ると、さっきの女子高校生の集団が立ち止まったり、座り込んだりして大騒ぎで笑っている。私を指さすわけでなく、非難するわけでもないが、彼女たちの笑い声の原因は間違いなく私だろうと思った。
私は軽くなったお腹で、やや足早に角を曲がって自宅の方へ坂を上った。
ところで大腸ポリープ切除の話はまた次回。