行政書士・社会保険労務士 大原事務所

人生も多分半ばを過ぎて始めた士業。ボチボチ、そのくせドタバタ毎日が過ぎていく。

たった2発の花火大会?

2016-09-02 00:35:48 | 日記・エッセイ・コラム

  もう今年の夏の花火大会は殆ど終っただろう。江戸川区にも毎年花火大会がある。江戸川の河川敷で14,000発の花火が上がる。実をいうと、花火大会自体はあまり良く知らないので、その14,000発が他と比べてどのくらい凄いのかよく知らない。

以前何回か河川敷まで見に行った時は結構すごいと思った。でも、子供が大きくなって、連れて行ってなどと言われなくなると、わざわざあんな混んだ所へ行く気はしない。だからここ10年位河川敷までは行ったことない。

始めて江戸川に引っ越してきたときはマンションの窓から遠くだが綺麗に見えた。二年程でマンションが林立して、全く見えなくなった。それでも近くの中川の橋の上の見晴らしのいいところへ行くと、やはり遠くに見えたのだが、丁度視界を遮るようにマンションが建って、そこも見えなくなった。

以来面倒になって遠くからでも見ることをしなくなった。自宅からだと音だけが小さく聞こえるだけだ。

20年近く前、出版社に居て、営業の仕事で全国を飛び回っていた。強行日程。朝の10時から夜の8時頃まで車で本屋さんを回る。その頃から地方は郊外店ばかり増えていて、駅から遠い店ばかり、電車より車の方が便利だった。

多分、秋田から北上に抜ける道だったと思う。夜、8時くらいだったか?まだ高速が秋田から東北道につながってなくて、一般道を走っていた。何時の間にか人家が無くなり、街灯も無くなった。曇っているのか、月も星も出ていない。暗闇にヘッドライトに照らされた道だけしか見えない。前にも後にも車一台走っていない。

私は子供が生まれたばかりの頃で、女房一人残して出張に出ていた。まだ1日1度電話をする程度には仲は良かった。携帯など普及していない頃で、持っていなかった。公衆電話が頼り。探しながら車を走らせるが、何せ山奥。道端にあるはずもない。

そんな時遠くに灯りが見えた。かなり遠い。でも山陰に見え隠れしながら徐々に近づいてくる。

何だろう?民家か?なにかの店か?と思いながら暫く走った。灯りのすぐ近くまで来てやっと判明。駅だった。でも、小さな、小さな駅。小屋のような建物の待合室だけの駅舎。電球が一つ。駅前に公衆電話があった。

トイレをすませて、自宅に電話。

「とりあえず元気だ。今、東北の山の中、どこか分かんないけど、この山を抜けたら多分北上。ホテルを探して何処かへ泊まるよ」

電話ボックスを出て、タバコに火をつけて、大きく伸びをした。その時、闇の中でボン、と音がした。大きくもないが、小さくもない音。音の方を見た。続いてヒューっと震えるような細い火が空に昇って行く。その火がスッと消える。花火?と考える間もなく、パンッと夜空に光が溢れた。大きな打ち上げ花火。溢れた光はゆっくり落ちてくる。照明弾が上がったようにまわりが照らし出された。

私は確かに山の中に居た。背後には駅舎とその向こうは多分深い谷。目の前には国道。その向こうは直ぐに入り組んだ山。それだけがサッと見えた。人家も、集落に至る道も見えなかった。いったいこの駅の利用者は何処に住んでいるのか。

それにしても綺麗な花火だった。駅の電球と公衆電ボックス以外灯りの無い真っ暗闇にたった一輪の火の花が咲いて散った。

でも、どういう訳かあとが続かない。たった一発の花火大会?まさかと思ったが、タバコ一本吸い終わっても次は上がらなかった。遠くでかすかに小さな音が続いているような気もする。してみると山の向こうの見えない所で小さな花火が幾つか燃えているのかもしれない。たとえば小学校の校庭で小じんまりとした村の花火大会でもやっているのか。

大きな花火は値段も高いと言う。小さな村の予算で、簡単に上げられる金額ではないだろう。都会ではない。スポンサーもつかない。

さて、そろそろ行くか、と自販機で缶コーヒーを買って車に乗り込もうとしたとき、目の前にもう一発上がった。さっきと同じ位の大きな花火。ちっとも複雑ではない。ただ赤に近いオレンジ一色で色が変わったりもしない。形の変化もない。大きく開いてゆっくり落ちるだけ。でもそれがたまらなく綺麗だった。雲や、煙や、ネオンやざわめきに全く邪魔されず、暗闇にポン、ヒューッ、一瞬間があってドーン。

待てよ、もっと上がるかも知れない、と思ってもう一本タバコに火を点けた。でもコーヒーを飲み終わっても、タバコを吸い終わっても、次はなかった。   

たった2発の花火。あの時見た以上の花火をその前もその後も見ていない。

 



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