散歩
齢の功
筏井 嘉一
ものごとにうとくなりつつ動ぜざる
これをしも わが歳の功とす
若い時はちょっとしたことにおどろき
もうこれで自分の人生も終わりかと思い
自分ほど不幸なものは世の中にあるまいと悲しみ
自殺を決意することもあったが
どうやらこの年齢までこぎつけてみると
感受性がにぶってきたのか
どんなことにも心おどろくことなく
淡々としょしてゆくことができる。
一面図太くなったともいえようが
どうやらこれも餅をたくさんたべたおかげというものであろうか
・・・ と
この人はものに動じなくなった老年の自分を肯定しているが ・・・
表むきはそうであっても その底にはどうも
そういう自分をさびしく悲しくながめている一面が
・・・ 秘められているようだ。
歳の功とす ・・・ と大見得を切ったところに
かえって 自嘲のひびきがありそうに思える。
本音は
・・・ 若々しい感受性の退化してきたことがなさけないのではないか。
年とって肉体の衰えてくることは
肉体の法則ゆえやむをえないにしても
感受性だけは私たちのこころがけによって
・・・ いつまでも若々しくもつことができるのではないだろうか。