時事解説「ディストピア」

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不破哲三氏の「スターリン秘史」に物申す

2013-07-09 23:11:55 | 歴史全般
共産党の元指導者である不破哲三氏が現在、スターリンの他国への
干渉政策を雑誌「前衛」で連載していることは前々から知っていました。

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik12/2012-12-24/2012122405_01_0.html

インタビューも既に読んでいましたし、今年で83歳ですから
もうこのような学術研究に没頭するようになったのかなといった程度で
特に気にしてはいなかったのですが、今日その連載を本屋で読み、
「ちょっとこれはな・・・」とその問題点が目につき、
本記事を書いた次第です。


まず、連載の長所ですが、読みようによっては
スターリンが物凄くリアリズムに行動しているということが
よく伝わってくるというところはとても良かったと思います。

実際、スターリンは東京裁判にしてもアメリカと対立するのを
避けるため、基本的に欧米列強の言い分に賛同せよと命じていたり、
英仏がヒトラーを利用してソ連を攻撃させようとした際に、
これを逆手にとって独ソ不可侵条約をとり欧米を出し抜いたりと
共産イデオロギーに縛られない柔軟な策を打ち出しました。

私はこの手法は政治家としては200点満点だったと思います。
状況に応じてベストの策を打ち出す。

彼がもしイギリスかフランスの外相だったら
今日までの数々の罵声を浴びることもなかったでしょう。

(これは、スターリン外交をこれでもかと罵倒しながら
 同時代の欧米列強の帝国主義政策に関して何にも言及しない、あるいは
 これらと関連付けてソ連外交を語ろうとしない論者にむけての皮肉です。)

とはいえ、これはあくまで「政治家」としての評価であり、
コミュニストとしてはどうなのかと言えば話は別で、
私はスターリンは共産主義者というよりは
むしろ国家主義者だったと考えています。

そもそも社会主義という言葉は、国家と社会を対置すること
から生じています。古くはトマス・ペインですが、まず人間は
集団生活を送るに至って社会というものを結成する。

しかる後に、治安を維持するために国家が生まれるのだが
この国家がいつのまにか生みの親である社会を蹂躙するようになる。
そこで、国家ではなく社会の益を重んじる社会主義が登場するわけです。

ですから、社会主義の反対語は国家主義であり、
いわゆる国家社会主義という言葉は矛盾した言葉と言えましょう。

国家主義者というのは国家(体制)を維持・発展させることが
最大の目的ですから、場合によっては弾圧や搾取も平然と
行ってしまう所があり、スターリンも天才的な手腕を持って
ソ連を防衛した一方で、その代償として防衛に邪魔になる
であろう国内の分子の殺害や急速な近代化を推し進め、ソ連を
大国化させていきました。その詳細は日本の無数の「知識人」が
執拗に説明をしているので、ここでは深く問いません。

ともあれ、スターリンをソ連の防衛・発展を
第一に考えていたとするならば、一連の行動も
納得がいくのではないかなと思っています。

この点については不破氏と私の考えはほぼ一致しているので、
特に何か言うことはないのですが、このスターリン秘史、
スターリンとコミンテルンとの繋がりを指摘する性質上、
やはりここだけは譲れんぞという批判点もあるのです。

それは、簡潔にいえば「大国史観」になっているということです。

これは冷戦史で物凄く幅を利かせている考え方なのですが、
とにかくある物事を資本主義(アメリカ)対共産主義(ソ連)の
争いという構図で説明したがるもので、当事者たちの積極性を
無視しているものです。

例えば、岸信介ですが、こいつはCIAと繋がりのあった
元A級戦犯でしたけれど、繋がりを理由にして岸を単なる
アメリカの駒としてしか描かない論者がいて、私はそのような
考えは、岸自身の野心と責任を透明化させてしまうと考えています。

蒋介石とか李承晩とか戦後間もなくアメリカをバックに独裁体制を
開いた国がありましたけれど、アメリカの走狗として描くことで
彼らが行った弾圧を逆に矮小化してしまうのではないかと思うのです。

そうですから、コミンテルンの歴史にしても、
当時の各国共産党の自主性と言いますか、ソ連の息がかかっていても、
したたかにそれを利用していたという点を無視してしまうと、
実像がぼやけてしまうのではないかと思うわけです。

で、私が今日読んだ7回目の連載ですけれど、ここでは
スペイン内戦に言及していたのですが、これを読む限りでは
スペイン共産党が単なるスターリンの人形になっていて、
実のところ同党が当時のソ連とは全く異なるシステムを
狙っていたという事実はきれいさっぱり忘れ去られています。

たとえば、農業制度です。内戦において無政府主義者や
その追従者たちは「農地の集団化」を望んでいましたが、
スペイン共産党はこれに反対して、農民個人に対する土地の割当を
主張しました。これはソ連型のコルホーズに真っ向から逆らう動きであり
仮に彼らがスターリンの命令実行部隊であるならば説明のつかないことです。

で、実際にカタロニアではこの無政府主義者の政策の結果、
農業生産が低下し、大多数の農民が農地を放棄しました。

また、工業政策においても同様で、無政府主義者たちは
100人以上の労働者を抱えている企業で労働者の集団化が
義務付けられました。これは国家ではなく労働組合が権力を
掌握することを狙ったものでしたが、結果的に工業生産が
ガタ落ちになりました。

これが後のカタロニアでの暴動につながっていくのですが、
こういった経路を抜きにして不破氏は話を進めているので、
1937年5月以降のカタロニアにおける無政府主義者との
戦いも、いわゆるスターリン「お得意の」「でっちあげ」の
「虐殺」「恐怖政治」といった言葉で説明されるわけです。

確かにカタロニアにおいてアナーキストと追従者に対する
徹底的な弾圧がなされたことは事実です(今のところ。
というのも、信じがたい話ですが、わりと本気で研究者も
含め、ソ連に少しでも有利な事実はもみ消す暗黙の掟が
論者の中にありますから。ソ連タブーと私は読んでいます)。

しかし、それは何もスターリンが命令したからというわけではなく、
その原因はすでに一年前から起きていたスペイン一地方における
アナキスト達の権威化と、当時の人民戦線政府の指導者である
社会党のラバリョ・カバリェロがコミュニスト抜きの政治を
行おうとしたこと等々の事実があったのが大きな原因です。

なぜこう考えなければならないかと言うと、スペイン共産党は
1937年5月以降、社会党やカトリック教徒と協力をしているからです。

仮にスターリン方式を採っていたとするならば、
これら社会党やカトリック教徒に対しても同様の攻撃を
行い、人民戦線と言いながら、その実共産党一党支配の
体制へと改造したはずです。ソ連の防衛に邪魔な存在は
すべからく排除するのがスターリンのやり方なのですから。

どうもスペイン内戦に顕著なのが、このカタロニアの暴動をもって、
共産党とアナキストとの虐殺する側・される側としての構図を引きたがる
傾向で、この場合には、スペイン共産党と協力していた集団が完全に
無視されるんですよね。で、仮に言及していたとしても、なるほど
形式的にはそうだな!だが実際は・・・という表現をもって
強引に共産党一党独裁を主張したがるわけです。

その暴動の鎮圧の手段もまた、不破氏に言わせれば
スターリン虐殺と同じ手法だったと書いてあるのですが、
参考文献が載っていませんし、何と言いますか、かなーり
怪しいな~と思います。

スターリンの手先→弾圧が起きた→スターリン虐殺と同じ
という安直な発想が生まれているんじゃないかなと思います。

そもそも、スターリンの粛清では、少しでも嫌疑をかけられた
人間は、すべからく捕まっているのですが、当時のカタロニアでは
そこまで大々的な弾圧もなかったわけで、これを
「恐怖政治」とまで表現してしまう不破氏の論調は、
スペイン共産党が当時、人民政府に貢献した点を
ごっそり削除してしまうのではないかと思うのです。

不破氏によればスターリンはコミュニストとアナキストの
対立を見て、いっそのこと、この機に潰したら?と
言ったようですが、それ自体は事実としても、
具体的な方法は彼が行った粛清のそれとは異なります。

スターリン粛清の際には、そのシナリオを知る人間を
最後に殺して事件を闇に葬るのですが、当時のスペインで
同じことをやったかというとそれは違う。スターリンの
主導のもとで弾圧を行ったのかは非常に疑わしいです。

さて、その後、スペイン革命はナチスとイタリアの援助と
それに対する欧米の黙認によって敗北するのですが、
この点も社会主義国の批判を前提にした各書によると、
スペイン共産党が全責任を負うことになるようです。

しかし、スペイン革命は第二次世界大戦の前哨戦とも
言える戦いで、イギリスやフランスなどの当時バリバリ
植民地を持ち、同地での搾取と弾圧を行っていた国々の
動きも関連付けて総合的に判断しなければ、世界史として
スペイン革命を描くのは大変難しいのではと思います。

加えて、その後もフランコによる独裁政権は彼の死後
1975年まで継続し、その間、スペイン共産党は非合法の政党として
独裁に抗っていきます。最終的に議会制や多党制を重視する政党と
なり、他の左翼政党と組んで統一左翼を結成し現在も選挙に挑んでいます。

この統一左翼という考えは間違いなくスペイン革命時の
人民戦線をモデルとしたものです。スペイン共産党を
スターリンの走狗以上の何物でもないとする歴史観は、
革命後の共産党の動きを全く無視した暴論とも言えるものです。

以上から、私は不破氏のスターリン秘史は、まぁスターリンの
対外政策を語るという性質上そうならざるを得ないだろうなーと
思いながらも、なお各国共産党を単なる支部としかみず、彼らの
独自性や積極性を無視した(あるいは歪曲した)という問題を
孕んでいると考えています。

不破氏もこんなもん書く暇があったら当時の欧米の病的とも
言える反共政策を書いてほしいもんですが、やっぱ立場上
無理なんでしょうか?私はチャーチルやローズベルトが
善人扱いされる風潮にはどうも納得がいかないのですけどね。

そもそも、こういう歴史観は彼の・・・というより
一方的に不破氏につっかかっている加藤哲郎のそれなんですが、
まぁ・・・さすがに80歳を超えると現場で出張らせてくれない
のかなぁ・・・志位さんや市田さんが連日のように日本中を
駆け巡って選挙活動をしている中、ずいぶんとまぁ・・・ねぇ?

私は現在、ロシアで強権的な政治を行っているプーチン派と
対決しており、ソ連崩壊直後からのエリツィンによる新自由主義や
チェチェン紛争への反対を行っていたのが旧ソ連共産党だという
事実から、単純にソ連共産党=悪とする歴史観には非常に疑わしい
ものを感じるのです。そろそろ行き過ぎた反共ヒステリーに対して
コミュニストとして何か言ってほしいのですが、やっぱ反共が国策
となっているこの日本では政治的に無理なのかも・・・

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