時事解説「ディストピア」

ロシア、イラン、中国等の海外ニュースサイトの記事を紹介します。国内政治、メディア批判の記事もあります。

継続するサウジアラビアのイエメン空爆

2015-12-26 00:31:57 | 中東
パリのテロ事件以降、シリアのロシア空爆は急に良い空爆にされてしまったわけだが、
多いときは1日に100回以上出撃するこの爆撃が果たして本当に市民を巻き込んでいないのか、
大いに疑問である。確かにISの掃討には効果があったわけだが、それでもなお全肯定は出来ない。

とはいえ、ロシアの空爆が現段階で民間人を巻き込んでいるかどうかハッキリしないのに対して、
はっきりと市民を殺害しているのがわかっているのに何もお咎めがない国がある。


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サウジアラビア軍の戦闘機が、新たに、イエメン各地を数回に渡り爆撃しました。

イエメンのサバー通信によりますと、サウジ軍の戦闘機は23日水曜、
新たな犯罪の中で、イエメン北部サアダ州にある複数の村を爆撃し、
これにより、女性2名と子供3名合わせて民間人5名が死亡、他6名が負傷しました。

サウジ軍はさらに、イエメン西部のフダイダ州のある居住区や、
首都サヌアのある地区を攻撃し、この中で、イエメン人の市民数名が死亡しました。

こうした中、イエメン軍と人民委員会は、サウジのこれらの攻撃への報復として、
イエメン南部タイズ州に進軍し、サウジの侵略軍を撤退させました。

イエメン軍はこの作戦で、同国南部ジャウフ州において駐屯地を解放し、
さらにサウジ軍の拠点を砲撃し、これにより、サウジ軍兵士数名が死亡しました。

http://japanese.irib.ir/yaman/item/60908-%
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サウジアラビアのイエメン爆撃は、あの国連でさえ少しは取り上げているのに、
どういうわけだか、日本のメディアの扱いはかなり悪い。

先月の記事だが、イランラジオのナジャフィー解説員は次のように述べている。



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イエメンにおけるサウジアラビアの犯罪と国連の消極性

サウジアラビアの空爆によるイエメン人の大量虐殺は、
イエメン各地で現在も続けられています。イエメン政党のカラマは声明の中で、
サウジアラビアとその同盟国の空爆は、イエメンの人々に対する戦争犯罪とみなされると表明しました。

この声明では価値観、国際法などに対するサウジアラビアの侵害行為について指摘しています。
カラマはサウジと同盟国の政権がイエメンの人々を虐殺した犯罪国家だとして、
サウジアラビアとその同盟国の政府関係者の国際刑事裁判所における訴追を求めています。

カラマはまた、イエメンの人々に対して行われたすべての犯罪を調査し、
国際法規に基づきその責任者を処罰する必要があるとしています。

この声明では、国連などの国際機関に対して、サウジアラビアのイエメン人に対する犯罪を
すぐに停止させ、陸・海・空によるイエメンの封鎖を解除する措置を取るよう呼びかけています。

イエメンの革命最高委員会のフーシ委員長は、
サウジアラビアの犯罪に対する国連と国際メディアの黙認を非難しました。

フーシ委員長はまた、イエメンの人道問題を担当する国連調整官と会談する中で、
「イエメンの人々はサウジアラビアの犯罪に対し国連が無関心であることに、
 憤慨し、失望している」と語りました。さらに、サウジとその同盟国の
イエメン各地の空爆と抑圧的な封鎖から生じている、イエメンの危機的な人道状況に触れ、
「この攻撃は人々の状況をより危機的に、より困難にしている」と述べました。

フーシ委員長は、「イエメン北部サアダ州の国境なき医師団の付属病院への攻撃は、
サウジと同盟国による、価値観や国際法規、人道に反する明らかな侵略行為を示すものだ」
と語りました。また、イエメンの人々が国連のアフメド・イエメン特使の立場に
不満を抱いているとして、「アフメド特使はイエメンを攻撃する側の代弁者であり、
サウジアラビアのアプローチを実行しようと努力している」と述べました。

さらに、イエメンにおける政党による政府の樹立と、
選挙の実施、民主主義の原則の強化の必要性を強調しました。



国連のイエメン人道問題担当調整官も、
この会談でイエメンへの各種の人道支援の用意を強調し、
サウジアラビアのイエメン人に対する犯罪に遺憾の意を表明しました。

国連がサウジの犯罪に消極的な態度をとり続けている中で、
国連のドゥジャリク事務総長報道官も、国境なき医師団の病院への空爆において、
サウジ主導の連合がその責任者だとしながら、「国連はこれに関する調査を開始することはない。
その調査に必要な設備もなく、またそれに必要な人材も有していないからだ」としました。

http://japanese.irib.ir/yaman/item/59419-%E3%
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上の説明に加えれば、イエメンの革命最高委員会は、以前から国連のアフメド・イエメン特使に
国連監視下でのハーディ元大統領との和平協議に参加する用意があると述べている


つまり、フーシ派政権は協議の容易ができている一方で、
それを問答無用でひたすら爆撃し続けているサウジ・アメリカ連合軍があるわけで、
冷静に考えれば、これは大いに報道されてしかるべきニュースになるはずなのだが・・・

空爆「まるで無差別」 ロシア介入後に急増「シリアを逃れるしか」

代わりにこういう記事が載せられる。
この記事はイドリブ県からの難民にインタビューしたものだが、
この地域はアメリカが軍事支援している自由シリア軍とアルカイダ系のヌスラ戦線が
共同して統治していたわけだが、上の記事ではあたかも自由シリア軍だけのように書かれている。

一方で、同記事が書かれた約2週間後の記事では、こういう記事を載せてもいる。

反体制派の「穏健派」と「過激派」をどう区分するかも難問だ。
 米欧やトルコが「穏健派」として支える「自由シリア軍」は、
 北西部の要衝イドリブ県を今春制圧した際、米国がテロ組織に指定する
 アルカイダ系武装組織「ヌスラ戦線」の支援を得た。食料や生活費を得るため、
「穏健派」とISやヌスラとの間を行き来する戦闘員も少なくない
という。」
(http://digital.asahi.com/articles/DA3S12126129.html?rm=150)

いやいや、あんたらも「穏健派」と書いてただろ?という話である。
朝日新聞は、自分が書いた記事の内容を半月もしないうちに忘れてしまうのだろうか?

しかも、素直に考えれば「穏健な」武装組織なんて今のシリアにはいないことはわかるはずなのだが、
どうも彼らの頭の中では自由シリア軍はあくまでも「穏健派」なのらしい。

冒頭の文で私がロシア軍が民間人を巻き込んでいるのかいないのかハッキリしないと
書いたのも、自分たちの都合で「穏健派」と書いたり「テロ」と書いたりする連中が
このシリア内戦について、ある種のストーリーを勝手に書き上げているからである。

恐らくロシア軍も万能でない以上、民間人も殺害していると思うのだが、
朝日新聞が主張する根拠として提示されているのが例の反体制派の亡命シリア人1名で
構成されるシリア人権監視団体だったり、イエメンの空爆について全く報じなかったり、
どうも怪しい点が多く観られる。故意の無差別爆撃なのか否かがわからない。
そのため、最終判断が出来ない状態にある。


イエメンと対戦、U22が引き分け リオ予選へ強化試合 サッカー
(http://www.asahi.com/articles/DA3S12111905.html)


これがイエメンに関する朝日新聞記者が執筆した最新の記事である。
今月に入って、朝日の記者が報じた記事はサッカーの記事しかない。
少なくとも朝日デジタルで閲覧可能の記事の中では。ふざけてるのだろうか?

こういう露骨に情報を切り貼りして報道しているのがバレバレなので、
どうも朝日新聞は信用がおけないのだが、よその新聞も似たり寄ったりだ。

冷静に考えれば、イランやロシアの御用メディアと謗られようはずの
イランラジオやスプートニクがきちんとサウジの爆撃を報じているのに対して、
一応、表現や言論の自由を行使しているはずの日本のメディアがこのざまである。

こういう逆転現象がなぜ起きるのか?非常に興味がある。

来年2月にイランで選挙実施

2015-12-26 00:12:33 | 中東
来年の2月26日にイランで議会選挙・専門家会議選挙が実施される。
(専門家会議とは、高位のイスラム法学者で構成された議会)

24日木曜の時点で議会選挙には5921名が立候補し、そのうちの562名が女性だという。
(専門家会議の選挙には801名が出馬予定)

これに関して、イランラジオのアミーンザーンデ解説員は以下のように説明している。
イランの政治システムを知る上でも、一読の価値があるかと思う。

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イランには、ここ数日、選挙の雰囲気が漂っています。
内務省の呼びかけにより、第5期専門家会議と第10期イラン議会選挙の候補者の登録が始まり、
これらの選挙の実施に向けた準備が整えられています。これらの選挙は2016年2月26日に実施されます。

イランのローハーニー大統領は、21日月曜、
内務省の選挙本部を訪れ、専門家会議の議員の候補者登録を行いました。

ローハーニー大統領は記者会見で、専門家会議を体制の最も重要な柱だとし、
「今日国の中で連帯と統一を有するなら、それはイスラム法学者による統治のおかげだ」と述べました。

ローハーニー大統領は選挙への女性の参加についても、
「我々は女性の参加に関して先進的な国のひとつである。
 国の運営のすべての分野、福祉サービスの分野において女性が参加しており、
 女性の参加が男性よりも多くないとしても、その影響力は小さくない」と語りました。

また、
「議会選挙、さらには専門家会議の選挙で、女性が登録すべきであり、
 これは我々にとって世界的な重要性を有している。この選挙により、
 言動において国の運営において主な決定を下すのは人々と選挙での投票だと表明する」と述べました。

さらに、「革命後、イランは宗教的民主体制を実現した最初の国だった」と語りました。

イランの議会制度は、議会での決定が国民の将来に直接影響するようなシステムとなっています。
経済、政治、文化、社会など、様々な分野での議会の措置により、
実際、政府とイスラム共和制の計画と方針が決定されます。

憲法によれば、イラン国会はイスラム共和制において、法案を可決し、成立させるほか、
国の行政機関の監視や閣僚の信任など幅広い権限を有しています。

政情や外交分野の問題における国会の役割もまた、
政府の後ろ盾と体制の力のひとつと見なされています。
国民の代表である議員の権限と義務により、国会は独立した権限を有する権力機関になっています。

イラン国会はこれまで、様々な思想、様々な政治的経歴をもつ議員の存在により、
浮き沈みを経ながらも、概して発展の道を歩んできました。

このためこの選挙は今も登録が行われている最中ですが、
イランの選挙の空気が国内外のメディアの注目を集めています。

これに関して、選挙の健全性の強調、資格の検討、
議会と専門家会議の構成の変更の可能性などの問題に焦点が当てられています。

http://japanese.irib.ir/news/%E6%9C%AC%E6%9
7%A5%E3%81%AE%E3%83%88%E3%83%94%E3%83%83%E3%82%AF/item/60853

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イランの最高指導者は国政において最高決定権を有しており、
また戦争において最高司令官の役目も負うため、独裁者というイメージが流布しているが、
実際には普通直接選挙で選ばれた専門家会議のメンバーによて選出され、監察を受ける。

また、この専門家会議の議員も8年ごとに入れ替わるため、
国民が選んだ宗教権威者が最高指導者を監督するシステムになっている。

また、これとは別に通常の内政・外交は議会(マジュレス)が担当し、
こちらは4年ごとに290人の議員が直接選挙で選ばれる。女性議員の比率は少ない。

ただし、それがイラン女性の差別に繋がっているかと言えば、それは誤りだ。

イランでは、次官級の官職や各省庁の報道官、大学教授、医師、
航空機のパイロットなどの高所得者の職に女性が多く就いており、
例えば、イランでは一般医の49%、専門医の40%、高度技能専門医の30%を女性が占めている。

また、近年、イランでも女性運動が盛んになっているが、
それはイラン社会における女性の進出が背景として存在する。

以上、ざっと見てきたが、シリア・北朝鮮と共に人権侵害国家と言われるイランだが、
その政治制度は宗教国家の割には意外なまでに民主的で、少なくともサウジよりはマシだ。
(サウジでは女性参政権がつい先日、認められた。また王族の権力が異常なほどに高い)

イランにも至らない点は山ほどあるわけだが、それは過激な亡命イラン人が要求する
現イランの政治体制あるいはイランという国家そのものの消滅なしでも改善できると思われる。

シリアもしかり、中国もしかり、どうも欧米ならびに日本の左翼の多くは
民主化を盛んに語る割には、異常なまでに選挙制度というシステムを軽視しており、
代わりに一部の「民主派」による公道や施設の占拠、暴動を礼賛したがる傾向がある。

今月の岩波新書でも、香港の雨傘革命を、実際には参加者の比率は低く、
現地住民には経済を麻痺させるものとして不評を買っていたのにも関わらず、
「日本も見習うべきではないだろうか」と絶賛されていて大いに驚いてしまった。

あくまでも彼らは数の上では少数派であり、皮肉なことに自国の民主化を叫ぶ彼ら自身が、
選挙制度という民主システムを平然と無視し蔑ろにしていることについてもう少し検討すべきだろう。


この点は、最近やたらと持て囃されているSEALDsにも言えることだ。
安保法案に反対しているからというだけでベタ誉めされているようにも感じる。
少なくとも、彼らの主張をホームページ等で確認しているようには見えない。

この手の直接行動主義の問題点についても色々書きたいところだが、それは後日改めたいと思う。