ならなしとり

外来生物問題を主に扱います。ときどきその他のことも。このブログでは基本的に名無しさんは相手にしませんのであしからず。

風力発電とバードストライク 追記あり

2011-05-14 22:14:53 | 保全生態学
 先日、このような記事を読みました。その記事内の風力発電とバードストライクについての見解が非常に酷いので、バードストライクの説明(注:風車への衝突のみ)もかねて反論させてもらいます。なお、そのほかの部分については判断するだけの十分な知識がないので控えさせてもらいます。

低周波問題やバードストライクはどうする?
この問題は決して無視して良い問題ではありませんが、原子力維持に伴う夥しい犠牲を無視したがる“現実的な”方々が強調したがるのはウンザリしますね。

中略

バードストライクに関して云えば、天敵である猛禽類の姿や声を流すだけで、近寄らなくなると思いますね。

いや、風力発電で起きるバードストライクで一番問題にされるのがワシタカ類の衝突ですから。たとえば、2008年に岩手県で絶滅危惧種であるイヌワシが風車のブレードにぶつかって死亡し、日本野鳥の会が岩手県に対し要望書を出しています。
先に引用した発言は無視して良い問題でないとしながらも、出てきた案が現実とかい離しすぎていて、これだけで碌に調べていないことがわかってしまいます。
風車近くにワシタカが近づく理由の一つに、風車周辺は餌となる小型齧歯類などが集まりやすいということがアメリカではあげられています。また、地形によっても衝突リスクが増大するようです(山の尾根、鞍、縁、急斜面など)。
鳥類だけが問題となるわけではありません。コウモリ類の衝突も問題となっています。コウモリの何が問題だ?と思われる方もいるかもしれません。日本には在来のコウモリは46種いるとされています。そのうち、レッドリストに入っているコウモリは31種(ⅠA~DDまでを含む)。つまり、そのほとんどが絶滅の危険性が高いとみなされているのです。日本の在来哺乳類が約100種ほどで、そのうちの3分の1を占めるコウモリのほとんどは芳しくない状況に置かれているわけですね。
このように、絶滅の危機が高い動物が風車と衝突する可能性が高いわけです。かの記事のブックマークでバードストライクについて指摘するコメントが多いという背景にはこういう理由があったわけですよ(一部尻馬に乗ったのがあるけど)。
さて、ここまで書いてきましたが、根本的なことがまだでしたね。そもそも、どうして鳥やコウモリに配慮しなきゃならんの?という疑問を持つ人もいるでしょう。それに対して梨の答えを書いておきます。僕らの生活というのはすべからく生き物に支えられています。食べ物はもちろん、大気の調節や木材も生き物がいないと成り立ちません。よく使う化石燃料にしても、植物が長い年月をかけてできたものです。それらを支えて作り上げてきたのが生物多様性です。生物多様性がなくなるということは、僕らの選択肢が狭まるということでもあります。極端な話、晩御飯のおかずは肉か魚かという他愛ない選択も多様性がなくなれば今夜はイモのみ一択ということになるんですよね。ワシタカにせよコウモリにせよ、生物多様性を作り上げてきた一員ですから、彼らが絶滅するようなことになれば、長期的に見て確実に僕らの選択肢は減りますよね。
今現在、人類というのは「生物多様性大破壊!どこまで壊しても大丈夫かな!?」というチキンレースをやっていますが、その限界点は誰も把握してないわけでして。ただ、絶滅や減少というのがその限界点により近づくことは明らかですから、できる限り避ける方が賢明ですよね。
引用した部分の問題点はこういうところにもあります。資源やエネルギーについて語っている人が生物資源の保護に対して無頓着ということでもありますから。バードストライクについての突っ込みといのは鳥やコウモリがかわいそう云々ではなくて資源保全どう考えてるの?という突っ込みでもあります。
風力発電について語ることそのものは咎めるつもりは無いのですが、あからさまに間違った現状認識で語られても誰のためにもならないわけですよ。余りにもリスク認識が粗雑なまま語られても困ります。ありていなことを言うなら、“やるなら真面目にやれ”といったところですか。

参考資料
国内における風力発電施設が与えた鳥類への影響の事例
レッドリスト 哺乳類
島田泰夫 2006「風力発電とバードストライク」生物科学第57巻第4号
バードストライク

追記5/15
コウモリについての部分を手直ししました。
訂正5/22
現在の日本のコウモリは亜種含め46種のようです(第三次生物多様性国家戦略参照)。ご指摘いただいたホルモン氏ありがとうございます。

追記6/9
 ついに真打が登場しました。
「風車と翼 」
なぜバードストライクが問題視されるのか、その背景である生物多様性を守る意味とは何か非常に丁寧に書かれているので一読をお勧めします。