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われは草なり

2016-04-02 07:30:00 | 編集手帳

4月1日 編集手帳

 

 11打数0安打5三振。
野村克也さんのプロ野球人生1年目である。
拝み倒して撤回してもらったものの、
シーズンの終了後には解雇を通告されている。
その人が戦後初の三冠王になり、
名監督になった。

新国劇の名優とうたわれた島田正吾さんは駆けだしの昔、
舞台で『千葉周作』の寺小姓を演じた。
たった1行ながら、
新聞の劇評欄に初めて名前が載った。
〈島田正吾、観(み)るに堪えず〉

山中伸弥さんが執刀すると、
20分の手術が2時間かかった。
足手まといの“ジャマナカ”という異名を先輩医師からもらい、
臨床医になる夢をあきらめた。
その人がノーベル賞で研究医の頂点を極める。

きょうが入社式という若い人も多かろう。
希望に燃える門出には要らざるお世話にちがいないが、
何十年か前のわが身を顧みれば日々、
挫折と失意と狼狽(ろうばい)と赤面の記憶しか残っていない。

高見順に『われは草なり』という詩がある。
〈われは草なり
 伸びんとす
 伸びられるとき
 伸びんとす
 伸びられぬ日は
 伸びぬなり…〉。
草の丈が伸びぬ日もあろう。
そういう日は、
大丈夫、
見えない根っこが地中深くに伸びている。


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