9月20日付 読売新聞編集手帳
人にたとえて、
「華麗で繊細、薄情で、ちょっぴり気の強いところもあるような…」
と評したのは俳人の飯田龍太さんである。
コスモスの花便りが各地から届く季節になった。
和名の「秋桜(あきざくら)」も優しい名前で捨てがたいが、
絵心のない身にもふと絵筆をとってみたいと思わせるパステル色の花びらには、
やはりカタカナの呼び名が似合うようである。
漢字の名前では中国に「可思莫思花」の異称があることを
“お天気博士”倉嶋厚さんの随筆に教えられた。
コスモスの音に近い漢字をあてたのだろうが、
「思うべし、思うなかれ」
とも読める。
きょうは彼岸の入り、
コスモスの咲く道を歩いて墓参りをする人もいるだろう。
あの震災に遭った人は誰もが、
家族や家を奪われた瞬間を片時も忘れるわけにはいかない。
さりとて生きていくためには、
過去から明日へ目を転じていかなくてはならない。
おそらくは、
「思うべし」と「思うなかれ」のあいだを揺れた半年であったに違いない。
〈山川の傷みコスモスたちのぼる〉(林田紀音夫)。
被災した人も、
しなかった人も、
墓前に語って語り尽きることのない秋である。