9月16日付 読売新聞編集手帳
長屋の壁にきのう吊(つ)った棚が、
ない。
亭主が女房に聞く。
「わいが吊った棚あれへんな」
「徳用のマッチ箱載せたら落ちたやないか」
「せやさかい言うてるやろ。わいが吊った棚へは物載せな、ちゅうて」。
上方落語『宿替え』である。
野田首相も内閣という名の棚を吊った。
与野党の対話を載せましょう。
白熱した論戦を載せましょう…当然そうなるものと思っていると、
どうも違う。
私の吊った棚には、
まだ物を載せてくれるな、
ということらしい。
会期を4日間で閉じることに、
与党はかたくななまでに固執している。
野党の要求を受け入れて会期を延長すれば、
答弁でどんなボロを出すか分からない。
時間を稼いで、
ソツのない答弁術を官僚からみっちり勉強するつもりだろう。
「適材適所」はどこへやら、
何とも頼りない棚である。
「俺たち力士が相撲を取らないでどうする」。
大相撲の八百長問題を巡って開かれた今年4月の緊急力士会で、
本場所ボイコット論を静かに制した大関魁皇関(当時)の言葉を思い出す。
俺たち閣僚が論戦から逃げてどうする――
閣内に一人の名大関もいないとは、
さびしい。