先日「MAKIKYUのページ」では、先月MAKIKYUが参加した黒部ルート公募見学会参加時に見学した黒部川第4水力発電所(くろよん)の様子を取り上げましたが、黒部ダム出発コースではくろよん見学の後、上部軌道などと呼ばれる関西電力の専用鉄道に乗車し、欅平上部駅へ向かいます。
この路線の正式名称は「関西電力黒部専用鉄道」で、黒部川第4発電所駅~欅平上部駅間は6.5Km程の距離があり、途中には仙人谷・阿曽原・折尾谷・志合谷などの停車場が存在しています。
(ネット上では更に別の停車場も記されている場合がありますが、上部軌道客車内の案内では両端を含め、6停車場の名称が記されていました)
6.5kmの路線はほぼ全区間がトンネルで占められており、地上区間はくろよんから800m程の距離にある谷を跨ぐ鉄橋上に設けられた、仙人谷停車場のみとなっています。
しかもこの停車場すら冬季の降雪などに備えた屋根が設けられ、しかも側面まで塞げる設計となっており、仙人谷停車場では旅客列車が停車し、公募見学会参加者が実際に列車を降りて周囲の景観を観察する事もできます。
それ以外のトンネル内にある途中停車場は、貨車が停車している事もある事業用側線が設けられているだけで、旅客列車は通過となっており、その気になればこの設備を使用し、上部軌道での列車交換による複数列車運行も可能かと思いますが、現状では1列車が往復するのみとなっています。
線路幅は762mmのナローゲージで、欅平上部駅~欅平下部駅間の車載エレベーターを介し、黒部峡谷鉄道本線との車両直通が物理的に可能となっており、実際に貨車などの直通運行が存在しています。
しかしながら途中には有名な高熱隧道が存在するなど、トンネルの採掘だけでも大変な地帯を走る事も影響してか、トンネルの高さは極めて低く、人並みの身長でもトンネル内を歩くとすれば頭すれすれといった感じになり、身長約170cmのMAKIKYU(顔部分は画像加工しています)が列車と並んだ場合でも、車高と身長は大差ない程です。
そのためただでさえ小柄な黒部峡谷鉄道本線の車両よりも、更に小さい上部軌道専用車両が用意されており、この専用車両は小柄なだけでなく、高熱隧道区間を走行する関係で、耐熱設計の特殊車両となっているのが大きな特徴です。
上部軌道の列車は線路が繋がっている黒部峡谷鉄道本線と同様に、今日の日本では珍しく動力集中方式を採用しており、機関車が無動力の客車や貨車を牽引する編成となっています。
機関車は内燃式(ディーゼル)では燃料に引火して大事故になる恐れがあり、電化しても高熱隧道区間では硫黄による架線劣化が恐ろしい勢いで進行する事から、バッテリー式機関車となっているのが特徴です。
MAKIKYUが乗車した列車では、BB72という番号の機関車が牽引を努めており、上部軌道には最低でももう1両のバッテリー機関車が活躍している様です。
このバッテリー式機関車は、車高が限られ運転席内から立ち上がって移動する事もままならない事から、前後どちらの向きで走らせる場合でも運転席内を移動しなくても済む様に、運転席が進行方向に対して横向きに設置されているのも特徴的です。
そしてMAKIKYUが乗車した欅平上部行きの列車では、貨車1両の後に客車が5両連なっており、ハ171~175の車両番号が振られていましたが、その内欅平上部方2両は関西電力関係者向けとなっており、黒部ルート公募見学会参加者は「社客用」という札の付いたくろよん方3両に分かれて乗車する事になります。
見学会参加者の乗車車両も、1両当りの座席定員は10名程度しかない小柄な車両で、立ち上がると天井に頭をぶつける程の車両(上部軌道乗車に不慣れな公募見学会参加者は、ヘルメット着用必須です!)だけあり、各客車に1両ずつ乗車している関電の案内員を含めると、社客用客車はどの車両も皆満員といった状況になります。
以前は好きな車両に乗車する事ができた様ですが、その際に2車両で1席ずつ座席が残り、最後に乗車した夫婦での参加者が、無念そうに別々の車両に乗車する事になったケースが発生した事があるそうです。
この対策として現在、公募見学会参加者で同一グループは同じ車両に乗車できる様に、乗車車両は事前に割り当てられており、くろよん見学の際にシールが渡され、その色と同じシールの貼られた札の出ている車両に乗車するシステムとなっています。
個人的には任意の乗りたい車両を選べないのは、1人参加だったMAKIKYUとしては少々惜しい気もしますが、MAKIKYUが渡された赤色シールの札が貼られた車両は最後尾のハ171号で、なかなか乗れない上部軌道の様子を観察するのに絶好の車両だったのは嬉しい限りでした。
この客車は欅平上部行きでは進行方向右側のくろよん方向に、1箇所だけ手動式ドアが設けられており、このドア付近に関電の案内員が乗車して、列車の走行中に黒部ルートや上部軌道に関する案内を行います。
客車に乗り込むと、車内はロングシートとなっており、客車内ではまともに立ち上がる事もできない位ですので、当然ながら走行中に他車両との間を往来する事もできません(黒部峡谷鉄道本線の車両ですら、走行中に他車両との間を往来する事は不可能です)が、蛍光灯がグローブ付きとなっているのは、頭をぶつけても怪我や蛍光灯破損発生を防ぐためには必須と言えます。
客車は高熱隧道区間で窓が曇ってもすぐにふき取れるように、車内外双方で連動する手動式ワイパーが取り付けられているのも、一般の旅客営業用の鉄道車両ではなかなか見られない大きな特徴です。
こんな特殊な車両でも、製造は路面電車製造などで定評があり、黒部峡谷鉄道本線の客車製造も手がけているアルナ車両製で、客車内には同社が2004年に製造した事を示すプレートが貼られているのも注目です。
黒部ルート公募見学会では、6.5kmの距離で仙人谷以外の途中停車はないものの、この上部軌道に約30分程乗車する事になり、関電関係者から聞いた話では、速度は最高25km/hの黒部峡谷鉄道本線よりも遅いそうです。
また公募見学会参加者向けに事前に送付される「黒部ルート見学のしおり」にも「黒部ルートは、すべて地下トンネル区間です。各乗り物は工事用設備のため、一般交通機関に比べ、車内は大変狭く、また振動が強いため快適ではありません。」と案内されている程です。
それでも車内の狭さは致し方ないとしても、アルナ車両が21世紀に製造した客車が、整備された軌道を走り、大した速度を出さない事もあってか、日本国内の旅客用鉄道に比べれば居住性は劣るものの、以前MAKIKYUが中国四川省を訪問した際に乗車したナロー鉄道(勿論有償で旅客を輸送している鉄道です)に比べれば、車両の居住性や振動、軌道状態などははるかに良好と感じたもので、非常に特徴的でなかなか乗車機会のない路線・車両だけに、機会があればまた乗車したいと感じたものでした。
上部軌道に関しては、MAKIKYUが乗車した列車が停車した各停留所の様子などを取り上げた続編記事も、近日中に公開したいと思います。