ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

プロジェクトを回せる人、回せない人

2009年07月07日 | 思考法・発想法
いくつかのプロジェクトを見たり、聞いたり、参加したりしてきた経験から、改めて仕事を任せられる人と任せられない人というのはいるなぁ、と思う。ある人は難しそうな案件も何となくうまく着地させ、ある人は事あるごとに全ての案件を頓挫させる。もちろん1つ1つの案件で取り巻く環境や条件は違うし、うまくいっている場合だって、本当はもっと上手いやり方があったのかもしれない。

それでも、どんな理由がそこにあろうと、どんな言い訳をしたとしても、「あの人」だから失敗したという例は多いし、仮に失敗したとしても「この人」で失敗したのなら仕方がないと思える場合もある。良くも悪くも、日本の企業では、結局は「人」次第ということなのだ。

それじゃぁ、そうやってプロジェクトや案件を回せる人と回せない人で何が違うのだろう。プロジェクトリーダーに必要となる資質を、以下の3つの観点からまとめてみた。

1)想像力
2)コミュニケーション能力
3)推進力


1)想像力

PJリーダーの資質として「想像力」を挙げるとピンと来ない人も多いかもしれない。ただ個人的にはこれは非常に大事な資質だと思う。ただしこれはあくまでもベースとなる「力」。具体的には「想像力」を背景に2つの能力が求められることになる。

1つ目が「先を読む力」。PJをどのような方向性に導くか、どのような問題が生じ、どのように対処するべきか。そういった「先を読む力」がなければPJはうまくいかない。これは何も予言者になれということではない。結果は誰にもわからないのだから。

「成功は偶然だが失敗は必然である」

この格言に従うならば、失敗しないための課題を見つけ出し、問題が発生する前に、事前に対処する能力が必要ということになる。時代の流れや今、必要とされることを読み解き、一定のベクトルにPJを方向付ける。あるいは、この方向に進んだときに必要な要素や課題を見つけ出し、それを乗り越えるための方法を考える。少なくとも事前に予見できたであろう問題を、それが生じてから初めて手を打ち始めるようなスタンスでは、PJは成功しないだろう。

そしてもう1つが「全体像をつかむ力」だ。先ほどの「想像力」が時系列的な「縦」の想像力だとすると、こちらは「横」の想像力。このPJが他のPJや全社的な方向感と整合性がとれているか、矛盾や対立などがないか、そうしたことを把握し、調整していくことも大事な要素だ。PJ内だけに思考が閉じているとこうしたものは見えなくなる。PJを超えた広い視野・鳥瞰俯瞰の視点が必要なのだ。

またこれだけではない。PJ内でいろいろな課題が発生したときに、個々の課題に対し、それぞれの解決策を検討するというのはよくあるアプローチだ。ただしこのアプローチの場合、それぞれの解決策同士が矛盾していたり、互いにその効果を相殺したりといったこともよくある。部分的には最適な解決策が全体最適をもたらすとは限らない。PJメンバーや担当者では、自分が担当している課題しか見えていないかもしれない。そんなときにその解決策が全体にとって「適切」かどうかを判断するのもまたリーダーの仕事だろう。そのためには「全体像」「全体ビジョンと個別施策の関係」を理解していなければならないし、1つ1つの判断が全体にどう影響するのかも理解できなければならない。

これがないと。PJは「場当たり的」で「矛盾に満ちた」判断が繰り返されることになる。二転三転するPJ、言っていることがコロコロ変わるPJは、往々にして、リーダーにこうした能力が不足しているのだ。


2)コミュニケーション能力

PJを成功させるためには「コミュニケーション能力」が必要だ、というのは分かりやすいだろう。ここでは2つの要素に分解して考えてみたい。1つは相手の話しを「聞く力」、相手の考え方を「理解する力」であり、もう1つはこちらの意図を「伝える力」だ。

PJが身内だけで閉じている場合ははじめから共通了解事項が存在し、何を話ししても互いに理解し合えるかもしれない(身内なのに理解しあえないほどコミュニケーション能力が不足している例は問題外だ)。ただそのような場合は多くないだろう。PJやPTというからには、社内の他の部門や外部のアライアンスパートナー、クライアント、あるいはお客様などステークホルダーが存在する方が多いだろうし、そうなれば、彼らとどのように「折り合い」をつけるか、「納得」させるか、互いにメリットのある「協業モデル」を作れるかが求められるからだ。

複数のステークホルダーが存在するということは、当然、互いの「狙い」や「メリット」が異なることを意味する。またそれぞれの背景や業種、思考様式、行動パターンが異なり、同じ用語を使っていたとしてもその意味やニュアンスも異なることになる。そうした「思考様式・行動パターン」の違いを理解することは重要だ。これができないと、何度も会議を重ねたのに、互いに全然別のことを考えていたなんてこともある。彼らが何を考えて、どのように行動しようとしているのか。そうしたことを理解することで、「折り合い」はつけやすくなるし、「協業モデル」も作りやすくなる。自分の言いたいことを言っているだけでは何も進まない。

しかし意外とこれが難しい。僕らは通常、相手の言葉を自身が理解しやすい言葉に「変換」して理解してしまうため、気が付くと自分に都合のいいようなストーリーに書き換えてしまうからだ。まして「思考様式」などは言外のものだ。言葉の端々や行動パターンから補っていかなければ、理解することは難しい。

本当に相手の話を「聞く」「理解する」のが上手い人は、あなたの周りに何人くらいいるだろうか?

これとは反対に相手に「伝える」能力も大事な要素だ。

まぁ、社内の会議だと「声のでかい人」や「役職」によって意見の通りやすさが変わるというのはあるけれど、複数のステークホルダーが絡んでいる場合、あるいは本当にそのPJを成功させようとするのならば、必要なのは「適切な意見」と「納得感」だ。

関係者が皆、納得するような意見であれば問題はない。総論賛成、各論反対。往々にして具体的な局面になればなるほど、関係者の利害関係が異なり、意見が対立する。じゃぁ、多数決で…となると誰も文句の言わない「害のない意見」になりがちだ。「適切な意見」を導き、それを関係者に納得させること。時には「理」ではなく「情」で、あるいは「強引さ」によって、関係者皆に納得してもらわねばならない。

そのためには「説明の上手さ」や「粘り強さ」が必要かもしれない。あるいは「根回しの上手さ」や「強引さ」かもしれない。いずれにしろ共に調整している関係者というのは、先方の「代表者」でもあり、彼が先方を調整しなければ最終的な調整はできないのだ。そのためには彼自身が能動的にがんばってもらわねばならないし、「納得感」がなければそんなことはしてくれるはずもない。

この「納得感」をもってもらうことこそが、「伝える力」の中核だといってもいい。「これは部長が言っていることだから…」「業務命令だから…」「評価の時期も近いんだし…」こんな言い方しかできないのだとしたら、メンバーに「納得感」など生まれるわけもない。


3)推進力

ここでは「推進力」と書いたけれど、この言葉が適切なのかといわれるとちょっと微妙だったりする。「人間力」「共感力」「リーダーシップ」などなど…とにかく言いたいこととしては、PJメンバーやステークホルダーの皆を1つの方向に束ねて、PJを推進させるための「力」のことだ。

先にも書いたとおり、複数のステークホルダーが絡んでいるとなると。「目標」「狙い」「メリット」などは関係者それぞれで異なっている。先の「伝える力」ではないけれど、「理」だけで皆が納得し、1つの方向性にむかうわけではない。そうした多様な意見・方向性を1つにまとめさせるもの、それは何だろう。

「この人であれば着いていこう」「この人なら任せてみよう」「この人とがんばってみよう」

そういった「信頼感」「安心感」をメンバーやステークホルダーに与えられなければPJはまとまらない。ルーチン業務を回すだけなら、上司と部下という関係だけでも問題ないかもしれないが、PJやPTという特定のミッションを担ったチームの場合、リーダーの「情熱」、「信頼」がなければ部下たちは真剣になることはない。まして他の関係者にいたっては、一緒に頑張れるかどうかは「理」にブラスして人としての「信頼」となる。知識や経験といった要素は部下でも代替可能かもしれないが、全員をまとめる力というのはもっと「情」に響くものでなければならないのだ。

それはある人では「カリスマ性」かもしれないし、またある人では「気遣い」かもしれない。「情熱」「熱意」かもしれないし、「ビジョン」「理念」かもしれない。そのリーダーのスタンスで具体的な形は異なるかもしれないが、いずれにしろメンバーや関係者の「気持ち」「志」を1つにまとめ上げられなければ、PJが進み続けることはないだろう。

笛吹けど踊らず。リーダーに対する信頼感が失われているとき、どんな掛け声をかけたとしても誰もついてはいかない。サラリーマンである以上仕事をしている振りはするかもしれないけれど、結局、誰もまじめに踊ろうとはしないだろう。

結局、案件なりプロジェクトなりを回せる人というのはこれら三つの要素を大なり小なり兼ね備えている気がする。逆にプロジェクトを失敗させてばかりいる人、案件クラッシャーなどと呼ばれる人は、外部環境に関わらず、こうした要素の1つないしは複数を完全に欠けているのではないか。結局は「個人」の素質の問題なのだろう。


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