ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

「読み」のうまい人

2011年10月22日 | 思考法・発想法
営業をやっていると「読み」が必要となる場面がある。あまり明確に話してもらえない中で、お客さんがどのような戦略を建てようとしているのかを「読ん」だり、断片的な相談を受けている中でお客さんがやろうとしている全体を「読ん」だり、あるいは最終見積を提示する際に、競合他社の見積額を「読ん」でこちらの出し値を決定したりといった具合に。

「読み」とは言い換えれば「予想」なわけだけれど、両者の持つ「語感」「ニュアンス」はちょっと違う。

どちらも同じようにあらゆる可能性の中から特定の結論に絞り込むことではあるのだけれど、「予想」という言葉が幾つかの結論の中から「相対的に」選択されているのに対して、「読み」は「絶対的」に絞り込んだ強さがある。ある種のストーリーや流れがあり、その上である種の確信を得ている。

実際、こういう「読み」が上手い人とそうでない人がいる。

お客さんや他社がどう考えているかなんて実際には分かるはずもなく、客観的に事実を並べてみただけでもそこに「答え」はない。事実をもとにあらゆる可能性を見てみたところで、「拡散」はすれども「収斂」はない。「前回、競合他社が提出した見積が1億です」という事実があったとしても、今回提出されるのが1億なのか、8千万なのか、7千万なのかなんて分かるはずもない。心配性の人間だと5千万だったら、いや4千万かも知れない…ときりがない。

しかし「読み」のうまい人は、当たらずも遠からず、答えを導きだしてしまう。では「読み」を成立させるための要素とは何だろうか。

1つは「経験値(知)」であり、幅広い「知識」や「合理的推論能力」であり、状況を把握するための「感度」だろう。

「経験値(知)」というのは大きな要素だろう。同様なケースがあれば、予測も立てやすいし、相手の行動パターンも予想できる。明確に(言語として)理解されている情報はもちろん、過去の経験を通じて無意識に理解している「暗黙知」は「読み」の精度を高めるためには重要な要素だ。

しかし「経験値(知)」だけでは過去の実績に似たパターンでしか通用しなくなる。そこで必要になるのが、一般的な「知識」であり、「合理的な推論能力」だ。

例えばビジネスにおける「コスト構造」の知識があれば相手の検討しているビジネスの成否のポイントを推測することができるし、経営戦略のフレームワークを知っていればお客さんが進めようとしている戦略を見越して話をすることもできる。製造原価や作業工程に対するに知識があれば競合他社の見積額を類推することもできる。

相手特有の知識ではないかもしれないけれど、そうした幅広い知識とそれに基づく合理的な推論は、ビジネスの場においては、相手の行動を読み解くための鍵となる。「経験値(知)」とは全く別なアプローチからでも、相手の行動や思考方法を絞り込むことが可能となる。

これらの要素は、しかしながらたった1つのストーリーを導いてくれるとは限らない。確率の高そうなストーリーを絞りこむことはできるかもしれないが、最終的な「解」を与えてくれるわけではない。

そうした中で最終的な「解」を選択するために必要になるのが、その状況に対する「感度」だ。置かれている状況がどういったものか、相手との会話の端々に現れる「何か」や「感情のゆらぎ」、「風向き」の変化などなど、明確に情報が与えられるわけではないけれど、そうした微妙な変化を読み取ることで、自らの立ち位置を正確に理解できるようになる。そうすることでどの「解」が妥当なのか、どういったストーリーが適切なのかを導いてくれるのだ。

こうした要素を持っている人、こうした要素をより高いレベルで保持している人こそが「読み」のうまい人と言えるだろう。

ただこれらの多くは「暗黙知」の要素が大きい。事実としての「相手の発言」や明示された情報(書類やメールに記載さた内容)であれば誰もがそれを否定しないだろうが、「感度」といったものは明確な根拠として存在するわけではないし、本人の思い込みから誤った読み取り方をする場合も多い。客観的な事実だけを見ていてもダメなのだけれど、どこかで相手側を冷静に観察しつつ、大事だと思われる情報だけを断定できる独善性の両方をバランスよく備えていなければならないのだろう。


地頭力を鍛える-問題解決に活かす「フェルミ推定」- / 細谷功 - ビールを飲みながら考えてみた…



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