ビールを飲みながら考えてみた…

日常の中でふっと感じたことを、テーマもなく、つれづれなるままに断片を切り取っていく作業です。

戦争と3つの正義

2012年08月17日 | 思考法・発想法
テレビで人間魚雷「回天」を巡る特集をやっていたときのこと、一緒に観ていた人間が「誰も好きで参加したわけでないのにねぇ」と呟いた。違和感。これまでもお盆の時期には幾度となく戦争の特集をやってきていただろうし、雑誌や書籍でもそのときの状況についてかかれたものは目にしているだろう。そしてその殆どで彼らは「戦争」に参加することを当たり前のものとして、むしろ積極的に参加しようとしていたと書いてあったはずだ。

彼らは「国」のため、(そうすべきという)故郷での期待のために戦地に行くことを自ら望み、特攻兵になることを英雄視し、多少の不安があったとしてもそれを自らの弱さだとして、積極的に関わることを望んでいたのだろう。

例えそれがプロパガンタや教育によって形作られたものであったとしても、それは洗脳というような強固なものではなく、疑うことのないままそれで語られた価値観を受け入れた、いや、もっと言うなら自ら判断することなく盲目的に従ったのだろう。(だからいったん捕虜になり食事を与えられると、聞かれていないことまでペラペラと簡単に口を割ったという)

現在の「正義」「正当性」は大きく3つのパターンに分けられるという。

1)「倫理」「原理」による正義(原理主義)
2)「手続き」の正当性による正義
3)「多元的」な正義(相対主義)

1)「原理」による正義というのは、例えば「宗教」のように皆が従うべき絶対的な価値観・原理・正義が存在する場合。それは宗教でなかったとしても、その価値観の内容の「正しさ」や「目的」によって判断され、それに基づき行動する場合を含む。

2)は原理の価値内容を問うのではなく、それを正当と認めるためのプロセスを満たしているかどうかによって正義かどうかを判断する場合。要は「民主主義政治」がそれだ。(消極的)民主主義の前ではその政党の主義主張は関係なく、投票によって多数の賛同を得たものが政権を担うことになる。内容ではなくプロセスが大事なのだ。

戦前の日本を支配していたのは、1)の原理主義に近いといえるだろう。「天皇」中心とした国家社会主義、軍部独走を支える大政翼賛体制、「国体」思想など、そこには民主主義的な手続きは無視され、国体思想を実現ことが第一となる。そして(教育水準が高かったにもかかわらず)民衆もそれを疑うことなく追認しているだけだ。

この正義の恐ろしさはここにある。「内容」について「正義」を定めている以上、それに疑問をはさんだり否定したりすることは許されない。そして無批判・盲目的にそれに従えば、その原理の暴走を止めることはできない。

2)の手続きの正当性による正義はあくまで定められたプロセスを守るかどうかが重要視される。かって世界で最も民主的であったワイマール共和国でナチスの支配を許したように、内実を問わない以上、戦争を止めることにはいたらなかっただろう。

3)の多元的正義というのは、立場、宗教、国家、組織、コミュニティが異なればそこに絶対的な正義は存在しない/それぞれの異なる正義が存在するという立場からなる。そうした相対主義を受け入れることは、自らの主張だけではなく他者の主張や根拠、それを生み出す背景を理解することを意味する。自らの主張も唯一の「正義」ではない以上、他者の「正義」とどのように共存させるか、利害を調整するのかということが大事になる。

戦前の体制の下で、このような多元主義・相対主義的な正義が認められるとは思わないが、こうした視点があれば、あのような無謀な戦争/敗戦は回避できたのではないか。客観的に物事を見つめることによってより適切な判断が可能だったのではないか。そう思う。

まぁ、歴史的に観ても1)の原理による支配が圧倒的に長期にわたって占めており、2)や3)のような思想は市民社会の進展に伴って生まれたものである以上、仕方なかったのだろう。逆に現在の日本国内の状況を鑑みれば、相対主義の行き過ぎに対する反動として、より「強い」もの、国民を「統合」する倫理や原理が求められている気がする。

先の1)~3)までの正義というのは、ジャンケンのグー・チョキ・パーのようなもので、上下関係があるわけでもなく、むしろ補完的に働くものと言えるだろう。

今後、日本でより強い「倫理」のようなものが求められるのだとして、それを感情的にただ盲目的に信じるのではなく、批判的にも検証できるような見方、知恵が求められるのだろう。


【書評】これからの「正義」の話をしよう / マイケル・サンデル - ビールを飲みながら考えてみた…

これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学 / マイケル・サンデル

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