お馴染み銭形平次シリーズである。事件は、神田鍋町の呉服屋翁屋の支配人孫六が殺されたというもの。そして死に際に「よその人だ、あの男だ」という言葉を残す。孫六は暮れの支払いのためにかき集めた1000両を蔵に仕舞っていた。この金が狙われたという訳である。でもこの金がないと支払いができないので、店がつぶれるかもしれない。
この作品にも、へっぽこ探偵役の岡っ引きが出てくる。八五郎に言わせれば三河島のおびんずる野郎という金太という岡っ引きだ。ちなみに、びんずるというのは、お釈迦様の弟子で十六羅漢の第一である賓頭盧尊者のことである。日本ではなで仏として有名である。
ちょっと脱線したが、この金太、へっぽこ中のへっぽこだろう。何しろ犯人が外に逃げた形跡がないのに、普段孫六と仲が悪いというだけで、大した証拠もなく町内の万屋茂兵衛を縛るくらいだ。今だったら裁判所が絶対に逮捕状を出さないレベルである。しかしこの金太、よくクビにならないな。いくら江戸時代でも、こんなむちゃくちゃをやっていれば、十手目召し上げのうえ何か罰がありそうなものだと思うのだが。
平次は最初はこの店の若主人・半次郎を犯人と見ていた。この半次郎道楽者で先代の主人(親)から潮来に追いやられていたのだ。それを先代が死んだときに孫六が呼び戻して家督を継がさせたという。平次は自分の考えに固執することなく、証拠と推理により事件を解き明かすのだ。しかし最後はの真犯人をつきとめる。もっともこの半次郎にも大きな道義的責任があるのだが。
最後に平次の名言?が来る。
「思いつめる女より、思いつめさせる男の方が罪が深い。八、お前なんかもつまらない罪をつくるんじゃないぜ」
いや八五郎君、そんな心配はまずないと思う。まあ平次も揶揄っているんだろうが。
この話でもやはり銭を投げるシーンはないが、犯人はちゃんとつかまえている。さすがにこれでは平次も同情の余地はなかったのだろう。
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