文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
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書評:探偵の探偵

2014-12-27 20:30:04 | 書評:小説(ミステリー・ホラー)
探偵の探偵 (講談社文庫)
クリエーター情報なし
講談社


 探偵を探偵する探偵とは、なかなか目のつけどころが面白い、「探偵の探偵」(松岡圭祐:講談社文庫)。

 主人公は、紗崎玲奈という、美しいが、心に何かを抱えているような女性。中堅調査会社のスマリサーチが主催する探偵養成所に入学を希望してくる。彼女は、探偵にはなりたくないが、探偵のすべてを知りたいと言う。実は玲奈は、高校のときに、ストーカーにより、妹の咲良を残虐な方法で殺されていた。その事件には、どこかの探偵が絡んでいたのだ。玲奈は、それが誰かを突き止めるつもりなのである。しかし、探偵業界の裏は闇。玲奈のことを危ぶんだ、スマリサーチ社長の須磨は、彼女を自らの事務所で、悪徳探偵をあぶり出す、「探偵の探偵」として働かせることにした。

 この作品には、ここまで書いていいのかというくらい、探偵業の裏側が描かれている。描かれている探偵社は、まるで犯罪組織のようだ。そればかりではない。驚くべき裏技(もちろん非合法)も多く示されているのだ。須磨の次のセリフは、そんな探偵観を端的に表しているだろう。

<悪徳業者か。須磨に言わせれば、探偵はみな悪徳だった。程度の差こそあれ民法七○九条、プライバシーの侵害に抵触しない探偵はいない>(p78)

 実際にそうなのだろうか。そうだとすれば怖い。作者はいったい、どこでこのような知識を仕入れたのだろうか。まずそのことがとても気になってくる。

 作者の前作となる、万能鑑定士シリーズや特等添乗員シリーズでは、バイオレンスシーンはなかったのに、この作品では、そんなシーンの連続。まるで、同じ作者の千里眼シリーズに先祖がえりしたかのようだ。しかし、蘊蓄がやたらと多いというのは、万能鑑定士シリーズや特等添乗員シリーズを踏襲しており、この二つの流れを集大成したような作品と言ってもいいだろう。つまりは、岬美由紀のバイオレンス性に、凜田莉子の知識を加え、そして、無愛想なキャラ属性を加え合わせたヒロインが、紗崎玲奈なのである。

 次の箇所も気になるところだ。

<「愚かで不勉強なマジョリティは思い込みをあらためない。探偵の出てくる二時間ドラマを無邪気に楽しみ、現実の探偵業がどうなのか知りもせず、イメージのみをドラマのまま記憶する」 ・・ 中略 ・・ 探偵業法による認可が、さも特権的な職業のように大衆を錯覚させる>(p152)

 まず、二時間ドラマであるが、あれに出てくる名探偵というのは、本職がルポライターだったり警察官だったり主婦だったりと、本職の探偵はめったにいない。明智小五郎や金田一の頃ならいざ知らず、彼らと共に日本三大名探偵と称される神津恭介にしても、本業は東大教授なのである。また、探偵業法による認可といっても、普通の人はそんな法律なんて知らないし、法で認可されたからといって、それだけで信用するほど、現代社会の人間はナイーブではないだろう。

 それにしても、描かれているのは、暴力団もびっくりの探偵業界、おまけに警察に対しても、かなり辛辣な書き方だ。作者に、苦情は来なかったのかと少し心配になってくる。また、玲奈は、何度も敵に命を狙われ、痛い目にあわされて、いつも傷だらけの状態である。表紙イラストの玲奈の、怪我だらけの顔には最初ちょっと驚いた。これまで、こんな描かれ方をしたヒロインがいただろうか。こんなになるのは、ヒロインがまだ駆け出しのためなのか。これから、もっともっと強い女に育って、表紙イラストがもっと綺麗な顔で描かれることがあるのだろうか。こちらの方も気になる。

☆☆☆☆

※本記事は、姉妹ブログと同時掲載です。


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