本書は、ガリレオシリーズの1冊である。そうテレビドラマでは、急に数式をそこら中に書き出す大変人に描かれている物理学者が探偵役を務めるミステリーである。
この巻では、湯川は、准教授から教授にめでたく昇進している。そして彼の親友で大学同期の草薙刑事は警視庁の係長になっている。ところで湯川の勤めている大学は帝都大学という設定だが、そのモデルはどこだろう。手がかりは、湯川の属しているのが理工学部というところと、草薙が係長に昇進したというところだろう。
理工学部の設置されている大学は以外と少ない。ちなみに、ドラマに使われているのは京大だが、京大には工学部と理学部はあるものの理工学部というものはない。東大も、入試こそ類別だが、学部はちゃんと工学部と理学部に分かれている。東京工大も一時理工学部のあった時代はあったが、その後分割され、現在では理学院と工学院になっている。残念ながら東京に国立大で理工学部のある大学はないようだ。しかし私大には、いくつかある。帝都大は東京にあるという設定である。この時点で、帝都大のモデルは国立大ではないだろうと推測できる。
もう一つは、草薙40歳くらいで警視庁捜査一課の係長になっているということだ。警視庁の係長と言えば階級は警部である。東大、京大なら、キャリアとして入る人が多いと思う。その場合40歳くらいなら警視正かその上の警視長になっているはずだ。警視正でも警部より2階級も上である。つまり草薙刑事はノンキャリアということだろう。まあ、東大を出ても、ノンキャリアのおまわりさんになる人もいるので、絶対という訳ではないが。
これらのことから、帝都大の明確なモデルは絞れないものの、東京にある私大を意識していることは推察されるだろう。よくモデルは東大といわれるが、以上の点から私は違うと考える。
さてストーリーの方だが、舞台は東京の西側にあるという設定の菊野市。湯川は、大学が金属材料研究所磁気物理学研究部門の研究拠点を作ったためにここにきている。ただ完全にここに勤務しているわけではなく、時に施設内に泊まることはあっても、週に2~3回通っているし、研究がひと段落すれば、本部のほうに帰っているので、こちらにも研究施設があるということかな。そして「なみきや」という食堂の常連客になっている。
この「なみきや」の看板娘の並木佐織は3年以上前に疾走していた。その遺体が、静岡県にあるゴミ屋敷の火事のあとから発見させる。佐織は静岡県には行ったことがないというのに。そして佐織は歌の才能が豊かな娘で、「なみきや」の常連客たちからも愛されている存在だった。その容疑者として逮捕されたのは蓮沼寛一という男。彼は、23年前にも本橋優奈という少女を誘拐して殺したという容疑で逮捕されていた。ところが本橋優菜の事件では、蓮沼は無罪となり、並木佐織の事件でも、釈放されていた。
その蓮沼が殺される。犯人は割と早めに分かるので、湯川が犯行の過程を解き明かされていくようなものかと思ったら、最後にびっくりするようなどんでん返しが控えている。しかも、それにもどんでん返しがあるという驚くような内容だ。ただ蓮沼が殺されたことでは物理学者らしいところも出ているが、それ以降にはあまり物理学者らしいところが視られないのは残念。
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