自民党代議士、青森県連会長の福澤榮と晴子とのあいだの庶子、彰之が主人公。
上巻では、父子が青森県筒木坂の普門庵での対話が繰り返された。
下巻は対話の後に、普門庵に所在不明でいた福澤榮が居るというので、県警関係者や新聞記者がやってくる。
特に福澤榮が元県知事、県警本部長、新聞記者、身内たちの前で、今までの経緯と自分の胸のうちを話す「英世」の章は、面白くて一気に読めた。
榮の周りにいる人たちは、ひと筋縄ではいかない連中であり、その癖のある面々が劇画チックで
映画のワンシーンを見るようだった。
政策よりも「まず銭こ」をいう有権者にも、笑ってしまった。
1974年に放射線漏れ事故を起こした「むつ」が母港である大湊港にもどれず、新たに関根浜を母港にした。
その建設費に600億円、地元対策費に12億円などの数字が出てくる。
都会のサラリーマンの税金がそういう所に流れているのかいな・・・と、憤りも感じる。
政治の暗部も暴かれるが、想定内の範囲で、ちょっと肩すかし。
自殺した金庫番の秘書の「英世手帳」も、名前だけ。
高村薫さん、も少し頑張ってほしいなと思いました。
リア王が出てくるのは、
『かのリア王が娘たちに領土を分け与えて引退したのは、時代が自分を追い越してしまったという認識があったからだし、領土を手放した時点で次の世を手放したということでしょう。』
で、これが父を裏切った長男、優によって語られるのが象徴的である。
彼が青森県知事選に立つことで、現職を押す父とは対立することになる。
彼は本当は父に気に入ってもらいたかった。
彰之がうらやましかった。という道筋には、父子の関係としては、ちょっと安易じゃないかなと思いました。
この続編は彰之と少年院送りを繰り返す息子、秋道の話へと、続いていくのでしょうか。
無彩色の世界に荒れ狂う風の音が聞こえてくるような小説でした。