ボクらは無言で生ビールを飲んだ。
鉛を飲みこんだようにボクらは沈黙した。
何故、故人は死の1週間前にキリスト教に改宗したのだろうか。
その事実に、ボクらは絶句した。
キリスト教の葬儀の後に入った店の名前が「だるま」。
何の因果か、ボクらは阿佐ヶ谷駅北口の店に辿り着いたのだった。
カウンターに小さなテーブルが2つ。その片隅でN刊自のH川さんと向かい合った。
頭の中をオルガンと讃美歌がずっと反響している。
その調べはこの世のものではなかった。
焼き鳥と焼きとんの専門店。
「ねぎま」「レバー」「つくね」が120円。「手羽先」「砂肝」が140円。
「ささみ」160円。焼きとんは何故か300円と異常に高くなる。
メニューは少ない。
「ひととおり、鶏を焼いて」。
ビールをジョッキの半分ほど飲んだ後、ようやく口にしたのは、ボクのこんな言葉だった。
あと「煮込みね」(480円)。
「あいよ」という声が小さく返ってくる。
ボクは聖と俗の間にいる。
この薄暗い店舗で、串焼きを焼く微かな煙の中。
「蒸してますね」。
ボクらがお互いに会話を交わしたのは、店に入ってから、20分も経ってからだった。
「もう入梅も近いんですかね」。
そんな、どうでもいい会話だった。
焼き鳥が運ばれてきたのは、ビールのおかわりを半分程度飲んだときだった。
なるほど。丁寧な焼きだった。
香ばしい薫りがしてくる。
ボクらは、また無言で、それらを口にした。
「だるま」という居酒屋は全国に何店舗あるのだろうか。
そんなどうでもいいことが頭をよぎる。
つい先日も清澄白河で、「だるま」という酒場に入った。
ともに店は、仏教にちなんだ店というわけではなかった。
日曜日の夜。
お客はまばらだった。
駅前もそれほど人がいなかった。
生ビールを飲み干し、ボクらはもう一杯おかわりした。
またもボクらは無言で、もくもくとジョッキを傾けた。
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