この店にはあと何回来られるだろうと思う時がある。高齢の方が経営し、いつ閉業を決断するか分からない。毎日でも行きたいが、比較的遠方なら、それもままならない。
「武井」もそんなお店だ。いや、遠方というほどの距離ではない。徒歩17分。頑張れば15分。充分、昼休み圏内だ。しかし、足が向くのは2ヶ月に1回くらい。
お店は食堂である。中華のカテゴリーではないかもしれない。けれど、メニューにある「ラーメン」や「炒飯」はそんじょそこらの中華より安くてうまい。だから、あえて「中華さすらひ」に書いてしまうのだ。
さて、この日は食べるものを決めてきた。この店で最も高価で豪華なメニューである、「ソースカツ丼」(700円)。
オーソドックスでスタンダードなメニューしかない「武井」において、何故「ソースカツ丼」なのか。かなり謎い。というのも壁にかかるメニューボードには何故か「ソースカツ丼」のみが手書きの紙に貼り出されているのだ。明らかに後付けなのだ。賄いメニューが昇格したのだろうか。それとも厨房のマスターが福井県出身なのか。それとも早稲田の学生だったか。実に謎いのだ。
ともあれ、その「ソースカツ丼」をオーダーし、やがて4人掛けを一人で占領する我がテーブルに着丼した。
ご飯にキャベツを敷き詰め、その上にONさせたカツにウスターソースをかけた一品。素朴ではあるが、それがかえって希少価値高し。このダイレクトにウスターソースをカツにショットするスタイルは福井ものといっていいだろう。これこそ、カツ丼のルーツともいえる。卵でとじたカツ丼はソースカツ丼の進化系に過ぎないのだ。このプリミティブな姿こそ、元来のカツ丼といえないだろうか。そういうことを考えながら、そのカツ丼をいただいていると、だからこそ「武井」はこれをメニュー化したのだなと思うのである。要するに、スタンダードなのだ。
その素朴なカツがたまらなくうまい。ソースの辛味と酸味がカツと融合し、そしてキャベツとともに飯をかきあげる。うまくないはずかない。
あぁ、あと何回来られるだろうかという反問は残りの飯が少なくなるにつれ、頭を駆け回る。次回もまた「ソースカツ丼」にしようか。いや、いっそのこと、今後全てを「ソースカツ丼」に捧げようか。などと馬鹿なことを考えたりする。
「ソースカツ丼」福井ものは恐らく都内でも珍しい。だからこそ「武井」の謎メニューでもあるのだ。
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