町田が都内であり、しかもかなり都会であるということは実はあまり知られていないのかもしれない。街田ならシティだが、町田はタウンだろ!というツッコミをついついしたくなる。
でも、駅前に立ちはだかる丸井、東急ハンズ、パルコ、ヨドバシカメラetcを見ると、何故都心から離れた地にこんな町があるのか。とても不思議に思う。
この充実っぷりは渋谷、新宿とまではいかないが、池袋と遜色ないのではないだろうか。その充実したインフラを擁しながら、居酒屋については不満がある。町田の酒場は洗練されていないのだ。
この「居酒屋さすらい」においても、3回ほど町田を訪れたが、「これだ!」という居酒屋を見つけるには至っていない。
随分前に「なかなか」という立ち飲みの串揚げ屋に行った。魅力ある店ではなく、地方都市のワンオブゼムとして記憶に留まる程度だった。だが、その店が新たな店舗を立ちあげたという。
「10ミニッツ」という店で、時間コストの飲み放題らしい。一部では立ち飲みという情報もある。
この風変わりな店名、一体なんなのだ。
米国のバンド「10cc」はバンドメンバーの精液を集めたら10ccだったという逸話があるが、その延長線上で考えれば、「10分間もった」と夢精、もとい夢想してしまう。
多分だが、この店名は、店の飲み放題システムに由来するのではないだろうか。この店、最初の40分で1,155円のチャージを支払い、それ以降は10分157円という延長料金で対応するシステムを採用する。この延長の10分を店の名前にしたと考えられる。
さて、まず最初の40分がミソである。1時間でなければ、30分でもない。この微妙な時間ともぃえる40分。ボクはこの時間帯でせいぜい飲んでも生ビール2、酎ハイ2が限界ではないだろうか。これを新小岩の「くら」の料金に当てはめてみる。
酎ハイ200×2、淡麗生300×2=1,000円。
水準としては、ちょっと高いのではないか。いや、「10ミニッツ」はれっきとしたビールを飲ませてくれるから、「くら」の発泡酒とは単純に比べられないかもしれない。ましてや、「10ミニッツ」にはビールや酎ハイだけでなく、スパークリングワインなども揃えている。単純な比較はできないだろう。
そこで、上野にある30分/299円の飲み放題メニューをウリにする「○金」と比べてみる。コストは比べくもない断然「○金」だ。だが「○金」の酒類は数十種に留まる一方、「10ミニッツ」のそれは100酒類に及ぶ。要するに酒の種類が豊富で、かつ安価に飲めるというのが、この店の趣旨のようだ。
町田で仕事を終え、ボクはA藤君とともに店に入ってみた。
ボクらは、町田だけでなく、日本中から注目されているといっていい「電化のヤマグチ」の取材を行ったばかりだった。利益率39.8%に固定する高売りの店である。その取材をした後に、この「10ミニッツ」に入ったのも何かの縁なのだろう。
高売りとコスパ重視の店。その対比はくっきりとしたコントラストとなってボクらの前に現れた。ボクは、そして多分A藤君も、お酒は人間同士の触れ合いの中で飲むからうまいと考えている。だから、半セルフ式の、しかもそれを巧みにシステム化した酒はなんだか味気ない気持ちで飲んだ。
ビールジョッキも何だか不自然なコップで、ボクらは苦笑した。
つまみと呼ばれるものもなんだか餌みたいだった。
これ以上、この店について書くことはない。ひとつだけいいことを書くとするならば、まだ若い女性の店員がとても可愛らしく、いい子だった。でも、それだけに心配の種もある。
どこかの居酒屋チェーンみたいに、コストを追求するばかり、ブラック企業と化したような、そんな対応がこの店でされていないことをボクらは願いながら店を後にした。