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居酒屋さすらい 0745 - 飲むか呑まれるか - 「宇ち多”」(葛飾区立石)

2014-05-09 10:09:13 | 居酒屋さすらい ◆東京都内

みーさんからメールをいただき、わたしは急いで都営浅草線に飛び乗った。浅草から立石まで、僅か6駅、所用11分という近さである。

「宇ち多”」。
もはや、説明する必要もない、もつ焼き居酒屋の最高峰。その存在はいまや観光地化したともいえるだろう。
わたしは、かつて一度「宇ち多”」を訪れたことがある。6年前のクリスマスイブ。そのときは、漠然としかこの店の名前を知らなかった。仕事を終え、店に着いたときは20時を少し回った頃、事情を知らないわたしは、店に入り、席を探そうとしたところ、「もう全て売り切れです」と告げられた。その後、様々な人から「宇ち多”」の話しを聞いた。開店前から並ぶこと。様々な作法があることなど、その話しは、正統派という物言いではなく、物見遊山的な話しばかりだった。

かしこまった作法があるもつ焼き店として有名なのが、東十条の「埼玉屋」であろう。この店も開店前に客が行列をなす。その後、開店と同時に店側の統制によって、客は自由と引き替えに、絶品とも言えるもつ焼きを手に入れる。

「宇ち多”」も熱心なファンは開店前から列をなすという。だが、その日わたしが店に着いたときは、すでに開店後、そして小樽の兄貴、みーさんはすでに入店していた。
30分くらい、店の外に並んだだろうか。ようやく、入店の運びとなり、店員が席を指定する。その指示にしたがって、わたしは席に着く。指示を出す店員はかなり怖い。何か言ったら、怒られそうな雰囲気だ。店に入った瞬間、すでに入店していたみーさんと目があった。わたしたちは、軽く挨拶を交わした。

「宇ち多”」の作法については、熱狂的なファンと思われる人がHPを開設している。多くの人はこれを一読して「宇ち入り」するのだろう。だが、わたしはそれを読んだことがないし、その作法も、そもそもどんなメニューがあるのか知らない。着席して、店内の壁を見渡す。壁には経年による茶ばんだメニューがごく感単に記されるのみであった。「もつ焼き」2串で180円。安い!「もつ煮込み」190円。安い!日本酒の表記が1級と2級と記されている。なんと昭和高度経済成長にタイムスリップしたみたいだ。その日本酒がそれぞれ260円と220円。安い。メニューは実にシンプルだ。まずは瓶ビールを大瓶(510円)で頼む。「もつ煮込み」とともに。

これは後で聞いたのだが、この「煮込み」には、先着限定で希少部位を希望者に入れてくれるという。ハツモトとフワがその希少部位とのことだが、わたしの煮込みには当然それらは入っていなかった。だが、そうであってもこの「煮込み」のおいしさといったら。濃厚な味噌ベースのスープはやや少なめで厚みあるシロがゴロゴロ。今日は朝からうまい煮込みにあたっている。なんて運がいい1日なのだろう。

次に何を頼むか、周囲の客の様子をうかがう。すると、もつ焼きの種類以外に客らは口々に何かを告げている。

なんて言っているのだろう。例えば、「カシラタレ○△×□」といった調子である。そうこうするうちに「煮込み」を全て食べ尽くしてしまった。もつ焼きは焼き上がるまで時間がかかるので、できれば煮込みがなくなる前に頼んでおきたかった。しかし、肝心の頼み方が分からない。え~い、ままよ。ここはもう頼んでしまえ!怖いお兄さんに「カシラ、タン、ハツをタレでちょうだい」と言うと、お兄さんは表情を一切変えず、了承したようだった。注文するのに、こんなに緊張したことはないかもしれない。それにしても、周囲の客が暗号のように唱えるのは何なのだろう。

そうこうするうちに、わたしの右となりの客の一団が帰っていった。すると、強面のお兄さんはわたしに「お連れさん、呼ぼうか」と提案してきた。さっき、みーさんとわたしが言葉を交わしていたのを、お兄さんは見ていたらしい。

「へぇ。気が利くじゃない」とすかさず思った。そんなに言うほど、感じ悪くはないんだ」とわたしは思った。そうして、みーさんとお友達のH田さんが席に移ってきた。

みーさんは日本酒を飲んでいた。

わたしはすかさず「ウメ割」を頼んだ。焼酎にウメのエキスを垂らすのが、この「ウメ割」である。皿に置かれたグラスに焼酎を入れ、次にウメのエキスを注いでいくとやがてコップの焼酎はこぼれ、下の受け皿にこぼれていく。無色透明の焼酎がウメのエキスを溶かし、赤茶色に染まっていく。

これが、噂に聞く「ウメ割」か。焼酎95%に対し、ウメは5%程度か。したがって、ほとんど焼酎を生のままいくことになり、相当強いのだが、何故かすいすいと酒がすすむ。
これは本当においしい。そもそも、もつ焼きにマッチしている。

左隣の席についた2人組は、まだ20代の前半と思われる女性たち。この女性たちは極度に緊張し、萎縮していた。無理もない。この雰囲気なら。そう、飲む前に、もう雰囲気に呑まれているのだ。

しかし、自分だってやはり似たようなものである。肩身狭く縮こまって飲んでいるのは、必ずしも狭いスペースのせいだけではないだろう。なんとなく、怒られそうな感じがする。そんな思いに駆られているのだ。注文したもつ焼きがきた。それはやや大ぶりの実が印象的な2本の串焼きだった。これが、僅かに180円なのだ。1本あたり90円とはまさにグレートである。「宇ち多”」の人気が全国区になるのも無理はないと思った。そう、なにしろみーさんは小樽から、そしてH田さんは夕張からこの日、「宇ち入り」を果たしていたのだ。

「ウメ割」をもう1杯飲んで、店を後にした。

自分が思っていたほど、エキセントリックな店ではないと思った。いや、むしろその逆であるように思う。この金額、そして客の頼み方の我が儘。これに対応するには、ある程度の統制が必要だと思う。しかも、相手は酔客だ。ルールは必要である。「宇ち多”」を見ていると、酒場の文化史が分かるような気がする。いや、文化史というよりも文化形成のプロセスといったらいいだろうか。

ただ、ここで自由に解き放たれるのは、本当にリラックスできたときであろう。その領域に達するまで、とにかく通い続ける必要があるかもしれない。

 

※酒と肴の価格は消費税5%時のものです。

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