小寄道

日々生あるもの、魂が孕むものにまなざしをそそぐ。凡愚なれど、ここに一服の憩をとどけんかなと想う。

マスメディアの「訊く力」を問う

2020年08月07日 | エッセイ・コラム

冬の時期、風邪が流行る時期になると、外出して帰宅したときはうがいをする。いつもとは限らないが、ずぼらな私でさえ心がけている。喉がいがらっぽい時は、磯仁(わけあって変名)を使う。子どもの頃からの習慣で、いかにも薬っぽい匂いと味は記憶に定着している。

さて、その磯仁が大阪知事の発言によって脚光をあびた。新型コロナ対策としてきわめて有効であると記者会見を行ったそうな。で、瞬く間に商品が店頭からなくなり、知事の影響力が取り沙汰された。ところが翌日になって、「うがい薬は治療薬ではない。コロナを予防できるものではありませんが、唾液を介して人にうつすリスクを抑制し、感染拡大防止に寄与する可能性がある」として、やや勇み足だった発言の釈明会見を行った。

専門家・識者から、41名ほどの症例でウィルスを除去する効果をいうのは如何なものか、また、唾液による抗体検査では偽陰性となりやすい、などとけっこうなクレームがあったらしい。

落ちつくところに事は収まった、ということか・・。それにしても、最初の記者会見では、どんな質疑応答があったのだろうか。抗ウィルスとして、うがい薬の効能を実証する研究成果、実施した機関、医師など、基本的な情報は確認したのだろうか?

そのうがい薬の効能を、なぜか大阪知事自身が独断的に発表する。その理由と根拠、事情や背景、薬品会社と知事との関係、外国における研究や症例の有無etc.など、突っ込みどころは満載か?

社会的影響力があると思われる、某の重大なる発表において記者会見があるのは当然である。それゆえに、会見後における記者による質疑応答こそが、その発表内容の(真偽、優劣をふくめ)真価が問われる。その昔、記者による鋭い質問で、発表者が答えられず杜撰な内容だとして解散したことがあった。具体的に思い出せないが、こうした会見はある種の修羅場で、よほどの準備と覚悟をもって望むものだなと思い知らされた。

新型コロナ関連の記者会見といえば、一週間ほど前か、京都大学大学院医学研究科の上久保靖彦特定教授と順天堂大の奥村康特任教授(免疫学)が記者会見を開き、感染の再拡大が騒がれるなか、「死者数が横ばいでのなかで、感染者の増加はPCR検査数の増大と相関している」との見解を示した。そして、「PCR検査を増やせば増やすだけ、感染者数が増えても、日本では欧米のように死者が急増する可能性は低い」という予測を提示。記者たちは、ある種の驚きをもって記事にした。

しかし、このことが大きく報じられたことはないし、フォロー記事も少ない。特に、感染拡大の恐怖を訴えるテレビなどは、触れず騒がずといった感じだ。むしろ、上久保教授らの発表した内容の「裏をとっている」段階なのかもしれない。筆者も、二日前ほどに偶然ネット記事でみとめ、この教授の仮説の信ぴょう性に疑いを持ってしまった。

ともあれ、京大の上久保靖彦特定教授は、吉備国際大学(岡山県)の高橋淳教授らの研究グループとともに、以下の研究成果を明らかにした。

新型コロナウイルスは「S型」「K型」「G型」の3タイプに大別される。感染しても無症状から軽症が多い「S型」は昨年10~12月ごろに世界に拡散し、同じく無症状から軽症が多い「K型」は今年1月ごろをピークに日本に侵入した。やや遅れて「G型」が中国・武漢で拡散、さらに上海で変異したG型が欧米にも広がったとしている。(「S型」「K型」は、コロナ型の風邪インフルエンザとのこと?)

日本においては、新型コロナウイルス(風邪インフルエンザ)の「S型」「K型」が昨年の暮れから蔓延し、この抗体をもっている人が多く、集団免疫を獲得していた。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染するとインフルエンザに感染しなくなる「ウイルス干渉」という現象もあり、T型リンパ球を活性化させた「K型」の抗体が、致死率の高い武漢発の「G型」の感染、発症を抑えた。

(読みやすくするため改変した、文脈はそのまま生かした。また、上久保教授は、風邪インフルエンザも新型コロナウィルスと呼び、紛らわしい。SARS-CoV-2と混同しやすい。インフルエンザ・ウィルスは自然宿主が渡り鳥であるが、例のスパイクの突起をもつコロナ型である。)

以上、かなりの新説・トピックであるが、俄かにはご高説うけたまわりますと鵜呑みにはできない内容。この発表会見では、どんな質疑応答があったのだろうか。

 

筆者は素人であるが、多少新型コロナウイルスをかじっている。その貧弱な情報知識をもってしても、会見の最初の段階からある疑問が湧いてきてしかたがなかった。上記( )書きで注釈したごとく、前提となる「S型」「K型」「G型」の判別が適確でないので、全体そのものの関係がクリアにならない。疑問点を列挙してみる。

〇そもそも、彼らはそれぞれの検体からウィルスを分離して、当時流行していたインフルエンザ・ウィルスと検査照合し、同定できたのであろうか?

〇「S型」「K型」と命名したインフルエンザは、たぶん昨年から今年にかけて世界で大流行した風邪ウィルスだろう。コロナ型であっても自然宿主が渡り鳥由来のタイプ。今回の新型インフルエンザは、正式には「SARS-CoV-2」とあるようにサーズ・ウィルスの亜種で自然宿主が野生のコウモリだ。ウィルスタイプの差に違いはあるのか、ないのか?

〇「S型」「K型」「G型」の遺伝子解析は行われたのか? 上久保教授の研究チームは、今回の解析のためのラボはどこにあり、どこが主体となって行われたのか?

吉備国際大学(岡山県)の高橋淳教授らの研究概要を調べると、主として日本、中国、米国におけるインフルエンザ感染の伝播・流行のモニタリングがメインのようだ。つまりデータ解析が主流であり、感染病乃至生物学的な研究チームではなかった。また、そのデータの出所は、「新日本科学」という受託薬品製造会社であった。主にインフルエンザ用の薬品メーカーであるが、全世界を対象とした調査・データ分析は行われていなかった。

参考:上記薬品会社の新型コロナウイルス集団免疫形成に関する疫学的研究(第一報) https://www.snbl.co.jp/cms/wp-content/uploads/2020/05/Release20200430_PDF.pdf

〇「S型」「K型」「G型」それぞれが同定されたと仮定し、その研究成果の論文はまとめられ公開されたのか? 専門誌に掲載されたのか? T型リンパ球を活性化させた「K型」の抗体とは? 電子顕微鏡で確認できたのか?

〇「ウィルス干渉」というものがあるとしたら、アメリカで昨年から今年にかけて流行したインフルエンザ(2万人死亡)の後追いのように、新型コロナウィルス(SARS-CoV-2)は蔓延した。この場合には「ウィルス干渉」は、どう働いたのか?

 

この辺にしておこう。上久保靖彦らの会見を拝見して、以上の疑問点が即座に湧いて出た。勉強し始めの素人ゆえ、疑問そのものが的外れかもしれない。しかし「疑問に思ったんだから、しょうがないじゃないか」と、「素朴な?」でも、マスコミは答えなくてはいけんないんじゃないのか・・もし。

マスコミにおける記者クラブの存在、テレビ報道の偏向、昨今マスメディアへの不信、その凋落が叫ばれている。どげんかせんといけないんじゃない?

初心に戻って、話を「訊く」ことに専念すべきだと考える。批判的にきくだけでは本心は開かない、確かに。だが、周到な準備をし、相手の意表を突くぐらいの質問もあっていい。特に、社会的な重要な会見、発表がある場合には、途中で話が中断するぐらい鋭いツッコミもとい的を射た質問をしてほしい。頼むぜよ、マスメディアだけじゃなく、ネットの記者さんも・・。

 

参考までに、会見後だと思われるが、上久保教授がネット番組に出演したときのyou tubeを貼り付ける。

▲集団免疫を獲得したから、今は死亡者は一人も出ていないという。これ嘘でしょ。まずいよ、先生! (伝染らないんです、と言っている人たちがアクリル板を挟んでいる。違和感あり) 追記:この翌日、視聴者からの質問、否定的意見などが多く、それらに応える再度の放送があった。やはり指摘があったようで、アクリル板は取り外されていた(8月8日)。

 

この人たちの話が今のところ真っ当なほうでしょう。

【落合陽一】コロナ第2波と日本の命運

↑追記:竹中平蔵が出演している。政界と財界のコネクターとして、その重鎮の座は死守したいのか。コロナ以降の世界に、彼の経済理論では有効性を失うはずですが・・。しぶといとは聞いていたが、どんなリフレ策を考えるのか、ちょっと怖い。


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2 コメント

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メディアの編集バイアス (rakitarou)
2020-08-08 06:36:02
たびたびのコメント失礼します。
「訊く力」への言及はまさに正しい指摘だと思います。上久保教授らの見解はもっと時間をかけて報道し、根掘り葉掘り聞きだしてどこまで判っているのか、科学的根拠についてなどもっと追求してゆくべきです。
その過程で現在行っている政策のいい加減さやメディアが報道してきた事の偏向性なども明らかになってくるでしょう(それを恐れている?)。
私も自分の専門分野ではテレビやラジオ、新聞などに出て報道されたことはありますが、「この方向で報道したい」という編集方針でしか報道してもらえない事は理解しています。細かい所では「ここ違うのだけど」というところも「いいの、いいの詳しい事言っても分からないから」という感じでスルーされます。コロナの話題でもメディアの取材を受けた医師たちは「大変である」「PCRが足りない」といった報道方針に沿ったコメントしか放送されない事に不満を持っています。
ウイルスの型ですが、私も以前ブログで言及したL型S型はスパイク蛋白の遺伝子配列も中国で解析されて論文化されています。遺伝子解析はPCRなどで増幅された産物の解析は簡単にできますので、それこそ世界中の検体で解析されて変異の型分けが行われて欧州型や米国型、武漢型の様な大まかな型分けがされて伝播の形式が分析されています。ウイルスを患者から完全分離して遺伝子解析をするのは大変な施設と時間が必要でしょうから普通はやりませんが、分かっている遺伝子解析からどのように型分けしたか、といった質問はどんどんメディアから行ってゆくべきだったと思います。
訊く力、とバイアスを排する、をどこまでできるかがジャーナリズムの力量だと言う点、小寄道様と同感です。
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rakitarouさま (小寄道)
2020-08-08 17:26:58
俄か仕立ての記事について、早速のコメントをいただき有難うございます。また、コメントの公開が遅れてたいへん申し訳ありませんでした。
上久保教授らは昨日、発表事案に対する一般視聴者の疑義、意見があまりに多かった故、再度フォローする会見をネット放送したようです(1時間20分)。
いかにも理路整然として答えていましたが、その理路がなんとも拙劣で、齟齬は正さず、自説をごり押す感じでした。10分ほど見て諦めましたが、そのコメント欄を見て、なんと上久保教授擁護の多さ、無定見の追随に暗澹たる思いを感じました。

コロナウィルスのL型S型は、スパイク蛋白の遺伝子配列も中国で解析されて論文化されていることは知りませんでした。
ご指摘ありがとうございます。ちなみに、(上久保教授の言う)武漢発のG型のそれは、L型S型との比較をふくめて、その全貌は明らかになっていないと推察しますが、どうでしょうか?
「ウィルス干渉」というものが疫学的に認知されているのか含めて、新型コロナウィルスの未知の部分を自分なりに理解したいのです。なにか恥ずかしいのですが知的興奮を感ぜざるをえません。

rakitarouさんはメディアの偏向バイアスを肌で感じたそうですが、昨今のメディアの人たちの安直な姿勢は、小生も憤りを感じることがしばしばあります。
「いいの、いいの詳しい事言っても分からないから」は彼らの本音であり、詳しいこと・難しいことを分かりやすく、簡潔に伝える努力を怠っている証拠です。そんな彼らこそ知的怠慢を決めこみ、思考停止の寸前状態なんでしょうか。
さて、「メディア編集のバイアス」について、スウェーデンの事情があまりに不正確だったので、記事を書く予定でおります。
暦のうえでは立秋を過ぎたそうですが、猛暑がくりかえす日々のなか、どうかご自愛ください。ありがとうございました。
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