小寄道

日々生あるもの、魂が孕むものにまなざしをそそぐ。凡愚なれど、ここに一服の憩をとどけんかなと想う。

武漢の眼科医、李文亮の死が意味するもの

2020年02月07日 | エッセイ・コラム

今朝、ネットでニュースサイトを閲覧していたら、ブルームバーグの記事に刮目した。

武漢市「中心医院」の眼科医、李文亮氏が死亡したという記事だ(7日午前2時58分、日本時間同3時58分)。李氏は昨年12月30日、重症急性呼吸器症候群(SARS)に似た疾患が、武漢全域で蔓延しつつあると、SNSに警告した医師である。

重症の肺結核に罹患した患者が次々と運ばれる、その数の増加に異常さを感じたからか。それとも、医療当局の反応の鈍さに業を煮やしたのであろうか。その両方だろう。ところがである、こんな事態になった。太字でそのまま記載する。

李氏のソーシャルメディアアカウントによれば、その数日後、同氏はデマを流したとして警察当局から訓戒を受けた。中国の最高人民法院(最高裁)はその後、警察が李氏に対して取った行動は不適切だったとの見解を示した。

明らかに深刻な事態の隠ぺいと、調査・検証等の怠慢があった、小生はそう見る。また、過去のSARS、MERSの恐怖、その感染拡大の苦い経験が浸透されていないという、行政機関の認識不足や想像力の欠如が見て取れる。これは失態というより、致命的な失敗だ。この「失敗の本質」は何か。何がミスリードさせたのか。

個人的な見立てだが、来るべき「春節」を前にして誰もが浮足立っていたのだ。

武漢に暮らす人々の多くが、帰省や旅行を楽しみにしていた。その移動のための交通機関の予約なども済ませていた時期だった(春節の一か月前)。1100万人といわれる武漢人口の何パーセントか知らないが、政府機関の上層部もそれに含まれるだろうし、どこの中間管理者も同じ思いだった。

そんな時期に戒厳令などのような措置を独断的におこなえば、武漢全体がパニックになる。その混乱がなにをもたらすのか、事の次第を決定すべき立場のものは恐れ、責任を回避したかったのであろう。

ただ万が一、その30代の若手医師の警告が本当だとしたら、天と地との開きがある一大事になる。

李氏に警告を発したとされる警察当局は、それを誰に指示されたのか、独断なのか・・。たぶん、SARSに匹敵する感染力があるという「噂」なので、医療行政のトップに判断を仰いだかもしれない。

いずれにしても、新型ウィルスはデマだとした当局の責任は大きい。そして、そういう判断に至った心理的要因に、「春節」を待ち望む中国人の誰もがもっている得体のしれないストレス(?)が、上層部の人間にも蔓延していたと言わざるを得ない。

医療系サイエンティストの予測ではピークは4月頃という情報があったが、どういう形であれ終息する方向であってほしい。

最初に勇気をもって警告したという、眼科医李文亮氏の死亡記事に、どうして小生は引きつけられたのか、いま思うのはカミュの『ペスト』の主人公「リウー」であった! 「李」の文字が「リウー」の音にかぶさっていたのだ。

外部と遮断され、孤立した状況の中で、いかに人間は「病原菌=悪」と「不条理」と向き合い、それと闘っていくべきか・・。いま、武漢で必死に治療活動している医師・関係者の健康と無事を祈りたい。もちろん、国を超える支援や医療物資の補給に全力で取り組む必要があるだろう。もう、個人であれやこれや推測し、予断をもって語る一線を超えている。

李文亮氏はまだ30代だったという。死に至った患者の平均年齢より若い、壮健な人だったであろう。彼の医師としての敬服すべき尽力、勇気ある行動を崇めたい。

李氏のご冥福を祈ります。

 

 


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2 コメント

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Unknown (奈良)
2020-03-05 17:20:45
中国のことを知りたいのなら石平さんの「私はなぜ中国を捨てたのか」というベストセラーを読んでほしいです
石平さんは中国で一番賢い人です
YouTubeの虎ノ門ニュースにも出演しているので是非こちらもご覧ください!
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Unknown (小寄道)
2020-03-06 08:57:08
中国の「いま」を知りたいのです。
武漢にあるというウィルス研究所(生物兵器等)の実態を知りたいです。
湖北省武漢が、中国共産党独裁政権下において、いかなる地政学的なポジションと経済的な役割を担っているのか興味をもっています。

石平(せきへい)さんは、TVで見たことがあります。賢い人ですね。
彼は天安門事件が起きたとき日本に留学していて、その後帰化しましたね。彼の幼少期でしょうか、文化大革命が起き、身内が巻き込まれて不幸なことに見舞われたという身の上であることは存じています。
それをルサンチマンのようにTVで発言していたし、現政権批判の基底にしていますね。それは正しいことだ小生は考えます。

日本に定住してから、中国の一党独裁、情報統制など現政府体制を一貫して批判しているインテリゲンチャですが、現在の「中国のこと」についてはITや近親者との情報交換によって得られた知見によって、彼の思考が構成されている気がします。内実はよく知りません。
お薦めの「私はなぜ中国を捨てたのか」は、機会があればいつか読んでみたいと思います。
コメント、ありがとうございました。
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