小寄道

日々生あるもの、魂が孕むものにまなざしをそそぐ。凡愚なれど、ここに一服の憩をとどけんかなと想う。

奈良の監獄ホテル

2017年05月28日 | うんちく・小ネタ

 

奈良県の元少年刑務所がホテルに生まれ変わるというニュースがあった。前身は、明治時代に建設された五大監獄のひとつで、山下啓次郎設計による名建築だとされている。この方の孫がジャズピアニスト山下洋輔。この話は長くなるので別の機会にする。

後年、山下洋輔の著書を読んで、祖父である山下啓次郎のことを知った。ただ、それだけでは記憶に残らない。字は違うのだが、山下ケイジローという名前は、我が餓鬼のころの人気ロカビリー歌手と同姓同名。それでしっかりと覚えていて、さらに父親が柳家金語楼というのが強烈な印象だったので、名前がこびり付いた。

柳家金語楼は元落語家で、テレビが普及されはじめた頃、一世を風靡したお笑いタレントである。我々の子供時代には、彼の面白い顔と演技、ギャグに誰もが大笑いした。ドラマでお祖母さん役を演じるとピタリとはまった。これぞ破顔とでもいうか、クシャクシャ顔は忘れられない。NHKの「ジェスチャー」という番組での、絶妙な身のこなしも記憶に残っている。その不肖の息子が山下敬二郎というわけで、山下洋輔と金語楼の名前にインパクトがあり、旨い具合に溶けあって、私のガラクタ脳にしっかと記憶されているわけなのである。

▲故柳家金語楼さん 


つまり「ヤマシタケイジロー」という呼称は、私の心に二重となってひっかかる名前なのだ。金語楼の息子のほうの「敬二郎」も既に亡くなっている。ポール・アンカの「ダイアナ」を歌ってスターになったが、素行が悪くて親父さんとは真逆の生き方をした。


さて、奈良の監獄を設計した山下啓次郎。このひとは、なんと慶応3年12月生まれ(1868年1月)。以前、坪内祐三の「慶応三年七人の旋毛(つむじ)曲り」のことを書いたことがある。夏目漱石、宮武外骨、南方熊楠、幸田露伴、正岡子規、尾崎紅葉、斉藤緑雨らと同じ年の生まれで、すなわち山下洋輔のお爺さんも慶応3年組に入るという訳だ。面白い因縁というか、山下啓次郎が設計した建築の意匠がどんなものだったか俄然と興味がわく。(建築家で同級生の伊東忠太も慶応3年生まれ。ちなみに画家の藤島武二、フランク・ロイド・ライト、キュリー夫人も同じ)

▲2016年まで少年刑務所として使用された、奈良監獄。山下は帝大出身で同級生が伊藤忠太。

刑務所はホテルとしてリノベーションされ、営業は2020年の予定だという。建物の大半が100年以上にわたって使用されている煉瓦づくり。どのようなホテルとして再生されるのか楽しみ。敷地もひろく、建物の配置も面白い。

山下啓次郎は、監獄を五つも設計・建築したことでも有名だが、その理由は分からないし、監獄以外の建築物は不明だ。「慶応三年生まれ」は実にユニークな人が多い。他にも誰かいるかもしれない、調べたら面白いことになるか。

最近のわたしは、どんどん関心が過去に向いている。現実がくそ面白くないからだ。

 

 ▲正面の大門

 

▲これがホテルになるとしたら、ちょっとシャイニングを連想する。 

 

 


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