小寄道

日々生あるもの、魂が孕むものにまなざしをそそぐ。凡愚なれど、ここに一服の憩をとどけんかなと想う。

誰が、谷中の街並みを毀すのか(3)

2019年10月22日 | まち歩き

(谷中に限定した記事なので、太字のところだけでも読んでいただければ幸いです)

結論から書けば、我が住みし谷中の町も、いつのまにか利潤追求型の土地、その標的にされたということだ。そういう時代の流れのなかで、行政というものは、いうまでもなく資本力=体制の側に寄添いながら、安心と安全な街づくりと称する当りまえの(後ろ指を指されない)仕事を淡々とこなしていくのであろう。

資本力の乏しい住民は今後、肩身の狭いを思いをしながら生きていくしかないのか。あるいは遠い将来、少ない権利を売り払って、何処かへ移住していかざるを得なくなるのか。そんな淋しい未来を想像してしまったのは、私だけだろうか。

先日の土曜日、この谷中の地区計画(原案)の説明会があったので参加した。この原案にたどりつくまでに数々の説明会、詳細なアンケート等が実施されたそうである(5年前ぐらいから?)。そうした資料やパンフレットの類も、そのつどわが家にも送られてきたが、いずれも要領を得ない(時には高度に専門的すぎる)ものだったし、正直いえば、関心や興味さえも喚起されなかった。

今となれば不勉強、不徳の致すところだが、最近になって事の重大さに気づかされ、谷中の住民として何が大切で、何を守るべきなのか、町の行末も含めて考えるようになった。

説明会はすぐ近くのコミュニティセンターの会議室で行われたが、たぶん250人ぐらい(実際には120名ほど、席数の算定が間違っていた。訂正してお詫びします。12/22日訂正)階段状に並べられた椅子が満席になるほどの人数が集まった。(写真を撮る余裕がなかった。どなたかに借りることができるか?)

開催時間は、開始は夜7時、終了は8時30分の予定。区側の説明は40分ほどで、残りは質疑応答。ほとんど質問は、原案におけるデータ、文言等の不明点、根拠を問い質すもの。住民といえども建築設計の専門家もいるから、かなり高度な質問が展開された。そんななかで、北海道から谷中が好きで移り住んだ年配の女性が、区側の計画がいかに配慮に欠け、横暴なのものか切々と訴えたのが印象的であった。

区側の回答は、さすがにしどろもどろではないが、要領を得ないもので、釈明のための説明といった薄い内容。素人が聞いていても、質問に対して適確に応答しているとは思えない。とにかく、原案に示された具体的な数字・データの根拠、算出基準でさえも明確に答弁できない。(それにしても1時間半の短時間だ。質疑応答をはやく切り上げたいがための時間設定。当然、予定時間オーバーとなり、区側は迷惑顔を隠さない)


愚生も、にわか勉強ながら、建替えにおける高さ制限について質問した。斜線制限のある現行の高さ制限10mから、何ゆえに12mまでに制限を緩和するのか。3階建てから4階建てまで可能になる。谷中の町並みの景観にどこか軋みがでるのではないか。そして、建替える予定のない高齢者や、資金の乏しい方は、今後に肩身狭いを思いをするのではないか。そうした方への配慮を欠いた規制緩和ではないか。ましてや、昨今デベロッパーや得体のしれない地上げ屋が、この谷中にも跋扈することしきり。行政がそういう輩に利するような原案をつくって何とするのか、とそんな訴えというか意見を述べた。

拍手もすこしいただいたが、「貴重な意見として承っておく」という素っ気ない担当者の返事をもらった。


その翌日に、これまでの地区計画の資料等を改めて調べるために、台東区のホームページにアクセスした。この原案をつくるための基礎となるべき、過去に実施したアンケートの結果がどんなものだったか関心があったのだ。

このアンケートは平成30年のときのもので、当方、記入したのはうろ覚えであるが、その結果そのものは知らなかった。いろんな意見・疑問があって驚くと同時に、立場や住む場所の違いによって、人間の思考や感性もそうとう変わるものだと、認識を新たにした。

さて、区側に質問した「高さ制限」に関することで、ちょっと意味不明というか理不尽なことが分ったので、このブログに記すことにする。

区側の建物の高さに関する設問に、住宅地の建物の高さは、「12m(4 階程度)より高い方はいいか、低い方はいいか」というものだ。結果は「低い方がいい」と答えたものが「159」あり、そのうち12m以下でも「より低い方がいい」と答えた人が「147」だった。

一方、高い方がいいと答えた人は「14」しかなかった。12mよりもより高くと答えたのは「2」だ。このアンケートは谷中地区全体の世帯に向けて行われたもので、住宅・商業地区にお住まいの方も答えているはず。なのに、これだけ建物の高さに否定的な意見が多い。(商業地にすむ住民にもアンケート実施したはずで、この地区では20mの高さも建てられる。それでこの結果だ)

谷中地区の全世帯数は知らないが、「159対14」というサンプル数は実証性をともなう数字データではないだろうか。こうした結果を踏まえてみれば、なぜ今回の「原案」では、「12m」というゆるゆる規制緩和となる「高さ制限」を堂々と盛り込んだのか・・。谷中らしさ、その景観を毀損することになるかもしれない、そういう想定はしなかったのか。

「誰が、谷中の街並みを毀すのか」もこれで3回目だ。これで終わりにしたいのだが、この後の進展にも注意をはらう必要がありそうだ。

▲過去に実施したアンケート設問の補足から。高さ制限が緩和されることだけでなく、斜線制限・容積率の緩和を強調しているかのような設問だ。すごく誘導的!


蛇足だが、このアンケート結果のなかの「谷中らしさ維持保全」という設問にたいして、住民が自由に記入したものがある。

・谷中の歴史にふさわしいまちづくり希望
・東京の谷中ではなく「世界の谷中」となってほしい
・谷中ブランドが確立できるような魅力ある街づくりを希望します。
・寺町らしい建物にする様に規制した方が良い
・寺院、墓地、小家屋が多い雰囲気を大切にしてゆきたい
・外国人観光客などが、街全体で楽しめる工夫、対応が足りない
・安心・安全・情緒ある素敵な街をつくってほしい
・塀の緑化や幅のあるルールは現状の谷中でなくなる
・月島や佃みたいに空がなくなるのは寂しい
・寺町らしいゆったりとした街づくりは大切

以上はほんの一部分。短いものだけの三分一ほどで、長めのアンサーは書ききれないぐらい沢山ある。であるのだが、「路地」に関する意見が一つしかない。この結果は、どう考えても可笑しい。少なくとも「谷中の魅力は路地の狭さにあり」と、この私は信じて疑わない。

狭い路地、窓際や軒下の緑や花々、下町情緒にあふれる入り組んだ路地について記入したものが、何故か、殆どない。

こんなものは魅力でもなんでもない、邪魔なだけだ。人の通行の妨げになるし、防火の点で危険きわまりない。そう力説する人は、何人か知っている。だから、狭い路地に関していえば、賛否両論あるのはあたりまえで、併記されてこそその対策や計画を講じることが必要となる。

しかし、狭い路地に関するものが見当たらないのは、意図的に隠蔽したのではないかと勘ぐられるぐらいに不思議なことだ。いちばん要の魅力のコンテンツに触れたくないのは、狭い路地をつぶし、道路を拡幅することが至上命題として、行政側に予めインプットされているのではないか・・。

前にこのブログにも書いたが、トレードオフの関係だから路地を抜きに谷中らしさを語ることはできない。防災・防火は、別の視点でアプローチしたほうがいい。こういうときこそ、AIに力を借りればどうですか? 台東区さん、いかがですか。

▲商業・住宅地の売地のうたい文句は「建築条件なし」(※注)とある。つい最近、空家だったところ。法的には20mの高さもOKということなのか?!



▲先の台風で、谷中の名物「ヒマラヤ杉」の太い枝がなぎ倒された。


(※注)建築条件とは、「同じ業者で建物も建てるという条件のことです。土地だけでなく建物でも儲けようということです」とのアドバイスを谷中の家の西川氏からいただいた。(2019.11.5記)

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