小寄道

日々生あるもの、魂が孕むものにまなざしをそそぐ。凡愚なれど、ここに一服の憩をとどけんかなと想う。

トリオ・ニテティスを聴きに

2017年10月22日 | 音楽

 

トリオ・ニテティスのコンサートにいく。竹下節子さんのバロック音楽アンサンブルである。私はクラシック音楽はほとんど聴かない人間で、バロック音楽がどんなものか知らなかった。
だから印象を語ることしかできない。

▲定員は20名ほどの小さいけど親密な空間。そのインティメートな雰囲気に師井公二さんの作品はエレガントな静謐を生む。

会場は小金井の小さなギャラリー「双」。竹下さんともご縁があるのであろう、フランス在住40年のアーティスト師井公二さんの作品もみることができた。

淡い優しい色をつかった抽象画を細かいパーツに解体し、それを再び美しいモチーフのもとに再構成する。さらに繊細で遊び心を誘発されるかのような曲線が描かれる。
パッと見るとフランス人が好きそうな洗練されたアート作品。しかし、この世界を創りあげられるのは、日本人しかできない緻密な技と、忍耐を重ねて完成できる調和、バランス力だと思う。
会場内は撮影できるというので、演奏前のギャラリーをタブレットで撮った。

▲師井公二さんのアート作品は日本にもあるらしい。和の感性もただよう自由律。端正なモダン・アートだとおもう。

初めてお会いする竹下さん登場。小柄な方かなと思っていたが、意外にもすらっとして痩せていた。黒い衣装ということもあるが、ノーメークの竹下さんは潔くてきりっとした印象。
博覧強記の文化史家とは思えない優しい語り口。でも語るべきことはきちんと伝えたいという強い意志も感じる。美しく年輪を重ねている素敵な女性だ。

バス・ギターを弾くアキム・ミゥディという方を目の前にして、トリオ・ニテティスの演奏をきける幸運に恵まれた。最初は18世紀のラモーというフランス・バロック音楽家のオペラを演奏した。
オーケストラの曲、そのすべての音階を、竹下さんはじめ3人のギター奏者が弾いている。弦を抑える指の動きを一つひとつ、間近に見ることができる。その指の運び、強弱、ヴィブラートが確認できる。リード・ギターのミレイユ・ジュラールという方の演奏に特にその指使いを感じてしまう。とにかく初めて、クラシックギターの本当の凄さ、弾くことの高度なテクニックを見ることができた。

バロック音楽とはどんなものか、事前にユーチューブでいろいろ見ていたのだが、音楽の魅力としての完成度は相当に高い。いや、私にとってはあらゆる点においてパーフェクトの音楽に思える。
だから、逆に怖い。この魅力にずっぽり嵌ったら抜け出せなくなる。男と女の好いた惚れたの黒人ソウルなぞ聴けなくなってしまう、そんな完璧感のあるバロック・クラシック。

最近、そういえば音楽を聴く習慣がなくなっていて、生活からジャズもロック消えている。その点、悪い聴き方であろうが、BGMとしてバロック音楽はなんの邪魔にならない。
竹下さんはたぶん、そういう聴き方なら聴かない方がいいと仰るであろう。それだけ、一つひとつの音が粒だって聴こえてくるし、意味のある音、音階に違いない。

この日の演奏は二部に別れ、後半はベルナール・ド・ピュリィとシャルル=ルイ・ミオンいう作家たちの曲。それらの曲をベースにトリオ・ニテティスのアンサンブルから音楽童話が創作されたという。その絵本童話の演奏会をしたときの、竹下さんのエピソードが心に残った。日頃、アニメなどに見慣れた子供たちは、絵が動くものと思って音楽を聴いている。子供たちはやがて期待したような絵のスライドもないことに気づく。音楽は添え物でしか思っていないということか・・。竹下さんは子供たちにこんなニュアンスの話をされたという。

「このバロックの音楽を元にして、こんな素敵な童話・絵本ができたんです」と。子供たちはすぐにピンときたらしく、童話の世界にはいるために、想像力を働かせはじめた。それからは、音楽にのめり込むように集中して聴きだした・・。
素晴らしいエピソードである。10月27,28日どちらかの四谷で開催されるコンサートでは、そんな子供たちへの演奏会が行われるとのこと。

▲会場で求めたCD。DVDもあったらしいのだが・・。2003年制作で、帰宅して早速聴いたが素晴らしい。

ほんとに心から楽しめたコンサートであった。
合間に楽屋を覗いて、竹下さんに小さな花束を渡すことができ、本名を名乗りかつ「小寄道」であることを明かした。笑っていたが、禿茶瓶の老人にも優しく対応していただく。最後にはサインもしていただいた。
帰りがけにアキム・ミゥディさんとすれ違い、拙いフランス語で二言三言話しかけたら、通じたのか「メルシ―ボクー」と応えてくれて嬉しかった。

 ▲プログラムにサインを書いていただく。本名で最初お願いしたが、図々しくブログ名を・・。


追記:ユーチューブにあったトリオ・ニテティス 


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2 コメント

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ありがとうございました (Sekko)
2017-10-27 23:06:28
BGMで全然問題がありません。

バロックバレーをやっていますから、バロックバレーの曲が聞こえてくると、私は自然に筋肉や内臓が動く感じがして気持ちがいいです。

雨のところわざわざ来てくださり、お心遣いまでいただきありがとうございました。

山口県での2つのコンサートは快晴に恵まれましたが、東京ではまた雨ということでがっかりしています。

演奏する楽器としてはヴィオラやピアノの方が好きなのですが、フランスバロックの繊細な装飾音などは、ギターによるものが一番美しいのでこの編成はやめられません。音色をお楽しみ下さい。
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忘れられない音の粒 (小寄道)
2017-10-28 00:26:21
心のこもったコメント、感激しています。
あの夜、演奏前に竹下さんは「ミクロコスモス」の話をされましたね。珠玉ともいうべきバロックの響きと、空間とのつながり。家に帰ってから、ご友人の中沢新一氏の同名の著書をひも解きました。気になって仕方がなかったのです。
中沢氏のそれはバルトークですが、レヴィ・ストロースについて言及したなかで、ストロースがよく聴き、範とした音楽家のひとりがラモーだったんですね。
ミクロコスモスにたゆたうために、ラモーを聴くなんて柄じゃないと思いますが・・。
とても素晴らしいひと時を過ごすことができました。
ありがとう、ございました。後に続くコンサートのご成功をお祈りいたします。

追記:バロックを聴きすぎたせいでしょうか、この2,3日少しブラックやロックっぽいのを聞きかじっております。まだ未熟ものゆえお許しください。
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