小寄道

日々生あるもの、魂が孕むものにまなざしをそそぐ。凡愚なれど、ここに一服の憩をとどけんかなと想う。

原発ゴミの在りかを問いつづける

2018年05月07日 | エッセイ・コラム

 

 前回記事の続き

「フクシマとの細やかな繋がり」では、塙町の天然工房さんからの、鮫川村に建設された指定廃棄物(放射能汚染)のゴミ焼却炉にふれた。

環境省主導によるこの実験焼却炉の建設は、まず多数の地権者を抱き込み、当初から住民を無視して秘密裏に建設をすすめたとされるいわくつきのものだった。(※注)

福島県内の除染作業で伐採された草木、表土の枯れ葉、藁、その他の汚染されたゴミは、指定廃棄物として焼却される。これらを燃やしても、燃やし尽くしても放射性物質は消滅しない。途方もない半減期を維持する放射能は、そこに居残りつづけるのだ。

放射性物質は濃縮されるかのように焼却灰のなかに混在される。焼却するときの煙のなかに、超微粒子として吐き出される場合もある。飛散した放射性物質は、これからもその行方を注視し続けなければならない。また、山間部の森林の除染そのものがいまだに手つかずで、放射性物質は雨風によって川や平野部へと流出されている。

明日のない未来、担保のない明日。そんな表現は、いまだに避難している人々を愚弄することになってしまうのか・・。

線量計で確認しやすいのは表面の土だ。汚染の該当地域では、居住地区及び近接の里山の5cmほどの表土が削られた。黒いフレコンパックに詰められ、一か所に集中保管(実際には放置)される。その総量は現在、汚染された全表面積の10%にも満たないという試算結果がある。また、そのフレコンパックが、異常気象による集中豪雨などで流失したり、破損してふたたび汚染される地域もあった。

 

当ブログのブックマークにもある『ゴミから社会が見えてくる』というブログを書かれている和田さんという方が塙町にいる。福島県南部に位置する塙町の自然を愛し、農家の皆さんと共に歩みながら、オーガニックな物産を手作りしていた一主婦であり、一町民に過ぎなかった。

降ってわいたような鮫川村のゴミ焼却施設の建設。その理不尽で強引な計画・実施プロセスに関して、彼女は当初から多くの町村民とともに抗議した。幸か不幸か、その施設は稼働後まもなく爆発し、解体された。しかし、それ以降、福島県のみならず各県でゴミ(指定廃棄物)焼却施設が建設されるようになる。

建設反対キャンペーンの経験や行動力をかわれ、和田さんは各地域の現場からオブザーバーとして招かれるようになった。当然のことながら、好むと好まざるに関わらず、放射能汚染のゴミ処理全般について専門的に取り組むことを余儀なくされたのである。

勉強会、識者を招いての講演会、他のゴミ焼却施設建設の反対運動、関連する裁判の支援活動。そして、県内のみならず一般支援者への説明から国会議員への現状報告などなど、その行動は多岐にわたっている。中村敦夫氏のように単独で原発0を訴える表現者もいれば、一市民の和田さんのように地域の人々と関わりながら、原発ゴミの廃絶を訴える活動家もいる。

 

つい先日、確認したい事柄をメールで質問し、それに答えていただいたことがあった。その要点を掲載する。

質問1:汚染されたゴミ焼却とは、放射性物質を抽出することが目的で、いわば焼却灰として濃縮されて、中間貯蔵のような施設で保管される。そんなゴミ焼却施設が福島県内であちこちで作られ、5,6年稼働したら解体されている。その背景にはなにがあるのでしょうか?

返答1:3.11以前から、ゴミ処理は環境省の利権でした。企業は廃棄物の大量排出者であり、産廃業者はなくてはならない存在です。加えて国のユルユルの規制値すらごまかして報告する測定業者、これらと環境省を含めて「ゴミマフィア」と呼ばれています。原発事故でこれまで手にしたことのない巨額の予算を環境省は与えられ、自らの利権に湯水のように流しているのだと思います。

仮設焼却炉は設置から解体まで3~5年という期限付きで建てられています。ほとんどはオリンピック前に処理を終えて解体される計画で、オリンピックを原発事故の幕引きの契機としようとしています。

質問2:除染は居住地、農地、里山などを重点的に行なわれましたが、山奥の森林、里山からはなれた森林の除染は手つかずです。そうした場所からは、主として雨風によって放射性物質が流れ出しています。7年が経過し、除染後の現状はどのように認識されているでしょうか?

返答2:除染はまやかしで、「放射能を取り除きました」というアリバイ作りだと思っています。実際に詳しい方について除染された地域をくまなく歩いてみると、取り切れていないことが手に取るように分かります。京都大の今中哲二元教授も「除染という名の環境破壊」だとはっきり言っています。まさにそうだと思います。線量が低減しているのは自然減衰と風雨による移動が大半です。

質問3:いわゆる原発のゴミが焼却されて灰になる。それに含まれる放射性物質の濃度はばらつきがあり、処理方法も異なるのでは?

返答3:焼却灰は10万ベクレル/kgで線引きをし、それ以下は一般ゴミや産廃などの管理型処分場へ埋立処分されます。10万ベクレル/kgを超える高濃度焼却灰は中間貯蔵施設へ運ばれます。中間貯蔵施設では同レベルの除染土とあわせてセメントなどに再生処理される予定です。

 

和田さんが参議院会館において「仮説焼却炉の現場からの報告」(4月17日)の説明会の様子がYou Tubuにアップされていたので、ここに貼りつける。

▲全体で40分。
※以上の説明会に先駆けて、東京都茗荷谷で月一回開催された『放射線被ばくを学習する会』におけるビデオが、映像・音質もよかった。その内容は包括的であり、また和田さんの説明もよりきめ細かい。1時間40分ほどの長尺であるが、この問題について関心のある方なら必見である。是非とも、ご覧いただきたい。なお、当日は「ゴミ処理で放射能が飛んでくる」というタイトルで、その分野の専門家による講演が前半にあった。和田さんのものは、その講演の後半である。
 
 
 
▲全体で1時間40分。
 
 
究極的な問題として、爆発飛散した放射性物質は超微粒子であること。それらを収集、凝縮して密閉しない限り、半永久的に自然界にとどまって悪循環する。「除染⇒ごみ焼却⇒煙・粉じん⇒再汚染」、この目に見えないサイクルからも、私たちは逃れられない。
 
放射性物質は、食料といっしょに口から入ったとき、すなわち消化器系に取り込まれた場合、体外へと排出されやすい物質である。しかし、鼻から吸引していったん呼吸器系の器官に入ると、肺などにとどまりやすい。血液に混じると、一生体内にとどまる危険がある。
波長の短いγ線などの放射線は、細胞そのものや遺伝子・染色体をじわじわと損傷する。若い細胞の持ち主、成長期の子供たちは、放射線を感受しやすく、年月を経てからさまざまな影響が出る。
 
福島県の避難民の子どもがいる世帯は、そんな恐るべき汚染メカニズムを学習している。だから、帰還困難など国や自治体の指定が解除されても、汚染メカニズムが残る故郷へは戻ろうとはしない。無念で悔しくもあろうが、賢明な選択だといわざるを得ない。
  
▲期間限定の汚染状況である。海上にも放射性物質は飛散している。

除染に関していえば、2016年の公式データでは、推定で汚染されたとされる地帯の約10%が除染されたとされる。5年を経て、この達成率をどう評価するか。

NHKスペシャルの『東日本大震災 追跡~原発事故のゴミ 』は、3年後の2014年から15年度にかけて取材・撮影したものだが、当時から現在までの状況は基本的に変わらない。帰還困難地区の除染は集中的に行なわれたが、避難指示が解除された現在になっても、高齢者世帯しか戻ってこない。第一に仕事もなければ、生活関連の施設が空洞化した地域に、帰りたくても帰ろうとする人はいない。

NHKスペシャル 東日本大震災 追跡~原発事故のゴミ 初回放映2015年11月21日 

▲放映されて3年経っても、状況は変化ない。保存版である。埼玉県の下水処理施設では、バクテリアが放射性物質を喰い、高濃度の屍骸として堆積。処理・廃棄できないゴミとして留め置かれる。そんなスクープ映像も・・。(50分弱)



(※注)当ブログでは、以下の記事でふれている。参考までに。

 「分」と「程」を考える(2013.9月8日)⇒https://blog.goo.ne.jp/koyorin55/e/9794a18f4433a3c8ccef29975367384c

 「耐えられない本質的な阿呆」(2015.4月6日)⇒https://blog.goo.ne.jp/koyorin55/e/434ad016a96450a4ce102c080c2b53ca



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