小寄道

日々生あるもの、魂が孕むものにまなざしをそそぐ。凡愚なれど、ここに一服の憩をとどけんかなと想う。

じゃがいも、わが愛

2018年07月08日 | エッセイ・コラム

まず初めに、西日本各地の集中豪雨により被害にあった皆様にお見舞いをもうしあげます。

亡くなられた人々のご冥福を祈り、いまだ行方不明の方々のご無事を、こころから願うのみである。

 

狭い日本とはいえ、東日本では梅雨明けしたのに、西日本では梅雨前線が居残り、そこに未曽有の湿った低気圧(雲の大集団)が流れ込んだ。去年もそんな記録破りの大雨が降ったのではなかったか。

何十年に一度の天災が、これから毎年襲うのなら、安全保障以前の問題だ。私たちの安穏とした生活は覚束ない。何かに頼るのもいいが、せめて心構えをつよくし、そなえるしかないのだろう。

わが暮らしは変わりないが、天災は忘れたころにやって来るというではないか。気持ちだけは引き締めておきたい。そんななかで、わが家の日常のどうでもいいようなことを書くのは不謹慎の誹りをうけよう。だが、書き続けることで、緩んだ精神に喝をいれ、ものを考える柔軟さを鍛えたい。以上、自戒をこめて書きのこす。

 

ご近所の方から、ジャガイモをたくさんいただいた。大きめのレジ袋で満杯ほどの量だから、二人で食べるとしたら多少もて余す。とはいえ、収入の乏しい我が家としては有りがたいことで、感謝して食すことにする。

「我、奮起する」しかない。まず大量のポテトサラダをつくった。卵、人参、胡瓜入りの定番サラダ。ハムは入れない。味付けはマヨネーズ、塩と酢、スパイス各種。

料理は好きな方である。ジャガイモを使ったレシピは、これ以外にカレーと、ベーコンとニンニクを入れた炒め物ぐらい。肉じゃがは作れるが、これは妻の聖域。

カレーに関しては、3種類の基本レシピがある。ジャガイモを入れるのは普通の市販のルーを使ったカレーなので、今回は見送った。

で、まだ作ったことのないコロッケづくりにチャレンジした。あまり凝ったものではなく、ひき肉とコンビーフ、玉ねぎを入れただけ。スパイスはふんだんに、クミン、カルダモン、ナツメグ、胡椒などスパイスがきいたコロッケをめざした。

味は良かったが、茹でたジャガイモをつぶした後で水分をしっかり飛ばす手間を省いたせいか、ジャガイモのほっこり感がなく、75点ぐらいの出来栄えといったところ。

▲コロッケは冷凍保存できるので、けっこうな数をつくった。ジャガイモはまだ半分以上残っている。

しばらくはジャガの顔は見たくない。日持ちが良いから助かる。最終段階ではカレーを作るが、この際にジャガイモのあれこれをひもといてみた。

南米産のナス科の植物だとは知らなんだ。単なる根菜の芋としての知識のみ。新大陸発見によってスペイン人が西欧にもたらしたのだが、痩せた土地でもよく生育し、栄養価も高い。ヨーロッパ諸国では、我々の米のように主食として食べられている。

日本への伝来は、名前のとおりインドネシアの「ジャカルタから来た芋」で、宗主国オランダ人が持込んだ。北海道に次いで、長崎が一大生産地なのもうなづける。

イギリスのフィッシュ&チップスは、ファストフードの国民食として有名で、文字通り魚(主にタラ)とポテトを揚げただけの料理だ。本場ものを食べたことがないので、一度は食べてみたい。シンプルな料理ほど、素材のうまさを引きたてる。

ジャガイモは当初、その外見から評判が悪く「貧者のパン」とされ、多くの人は食すことはなかったという。「一口食べれば豚になる」などという迷信や、17世紀ごろの徒弟制度には「親方はジャガイモを徒弟に供してはならない」という取り決めもあったらしい。味はともかく、ジャガイモの見てくれが、ヨーロッパ人の美意識と合わなかったことは間違いない。

とはいっても飢饉が起これば、美意識どころではない。背に腹はかえられずの如く、食欲を満たすためにジャガイモは救世主となったのだ。

19世紀には全ヨーロッパで主食のパンと同等といえるまでに浸透したが、1845年前後5年にわたりジャガイモの疫病が蔓延した。アイルランドでは深刻な飢餓状態が発生し、多くの人々はこれを機にアメリカに移民した。

ゴッホの『馬鈴薯を食べる人々』(1885)は、ジャガイモに対する西欧人の美意識を変えたといわれる。「あの絵はじつに暗い」とゴッホ自身が弟テオに伝えたが、画家の死後、「最も感動的な傑作」、「これこそが美しい」と世評は高まった。ジャガイモのイメージも高くなったそうである。

▲『馬鈴薯を食べる人々』


以下の話題は付録ということで、ご海容のほどを。

フランスの大俳優ジャン・ギャバンは、ときに「ジャガイモ顔」なぞと揶揄されたが、その演技力と相まってもっとも俳優らしい深みのある容貌だ。口数は少なく、どっしり構えた静かな初老の男を演じたら、右に出るものはいなかった。また、女性に対する優しさ、寛容さを、その存在感だけで演技した。高倉健もそれを目指したらしいが、最後まで照れが出ていたのが惜しまれる(※追記)

▲ジャガではない、ジャンだ。帽子の似合う俳優でもならした。

▲フランソワーズ・アルヌールとの2ショット。『ヘッドライト』だろう。




(※追記)「照れ」というほどのこともない、感情の「揺れ」程度のことである。高倉はたぶん無自覚であったし、その「照れ」はファンと接するときに、ある種の感情の手応えがあったかもしれない。「仮説」の、端くれでしかない。

 


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ジャガイモ キング (Oh No no イモコ)
2018-07-30 05:00:43
小寄道様は、料理に関してもお詳しいのですね。
掲載されているコロッケ、美味しそうですね❗️❗️
ジャガイモの品種にキングの名前をつけているイギリスでは、日本人が、お米を愛するように
無くてはならない食べ物のようです。
私は、『 ジャケットポテト → ベークドポテトの上にコールスロー、ベークドビーンズ、または、チーズなどをのせた料理 』が好きです。
先日、89 歳になったばかりの母は、チップス = フライドポテトが大好物で、「 [ それは、]別腹!! 」らしく、まったく飽きる様子がありません。ただ、フランスやベルギーでは、チップスにマヨネーズをかけて食べるのが一般的らしいのですが、高齢の母は、さすがにマヨネーズをかけず、スモークド シー ソルト をかけて食しています (*^◯^*)
先週からロンドンに滞在している私達は、現在、まさしく【 芋ゼメ 】です (笑)
ロンドンもこの夏は、異常気象 Σ(゚д゚lll)
7 月 26 日は、最高気温が、35 ℃ もあったのに、その 3 日後 29 日の最高気温は、22 ℃、
最低気温は、18 ℃ で持ってきた服を真夏から秋へ たった 3 日で替えました。
また、ロンドンは、この夏、降水量が少なく、約 2 カ月も雨が、ろくに降らなかったそうです。
私達は、あと約 1 カ月間、ジャガイモを食べ続けま〜す (^_^)v
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Oh No no イモコさま (小寄道)
2018-07-30 11:38:03
ロンドンにいらっしゃるとは存じあげませんでした。
35度から22度とは、もの凄い変化ですが、どうかお身体を大切になさってください。お母様も、お元気のようで何よりです。
異常気象は世界的ですね、この2日ばかりおかしな台風が関東に上陸し、列島を東から西へ、九州に抜けるという逆コース! 
ともあれ、ジャガイモを食べて元気モリモリ、夏をのりきりましょう!
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