小寄道

日々生あるもの、魂が孕むものにまなざしをそそぐ。凡愚なれど、ここに一服の憩をとどけんかなと想う。

極私的アメリカの点描 その①

2021年11月05日 | エッセイ・コラム

この歳になっても分からないことは多い。本を読んでも、専門家の話をきいても得心がえられない。いや、分かったところでどうなるものでもない。その一つとして、現代におけるアメリカの白人が、なぜ銃を所有することにこだわるのか、というものがある。

それが彼らのレジェンドであり、アイデンティティの一部であるという説明は、分かるようで判然としない。問題が深刻なのに、ソリューションは簡単なはずなのに(法規制すれば良い?)、銃社会の終りがとんと見えない。これらの現象を社会歴史的に研究しても、カルチュラル・スタディーズで分析しても、いや当の彼らが「無知な輩」と罵られても、彼ら=「落ちぶれた白人たち」は決して銃を手放さない。そんな考えは微塵にも生まれないし、発想さえ思いつかない。

アメリカの低中層(便宜的に使う)の白人の生き方における深部というか、心性みたいなものに触れなければ、私のような外国人からすれば到底理解できないアメリカ文化が横たわっているかもしれない。

最近、中野京子さんのブログを読んで、もの凄い気づきがあったので、そのことを中心に書きすすめていく。記事の題名は『ヒルビリーとトランプ大統領』というもので、大まかにいえばJ.D.ヴァンスという人の半自伝『ヒルビリーエレジー』の概要と読後感、さらに長年にもわたる超人気TV ドラマ『ブレイキング・バット』を全巻視聴した話が書かれていた。

短いコラムのような中野さんの記事であるが、その僅かなエピソードのなかに、なぜか冒頭に書いたアメリカの銃社会やそれにこだわり続ける白人たちの心性の、隠されたヒントがあると勝手ながら確信を得たのだ。

しかし、なぜヨーロッパ美術をメインにした評論を書く中野さんが、アメリカの白人社会に興味を引き、テレビドラマを面白がっているのか・・。それが大いなる疑問であった。

美術評論『怖い絵』シリーズの著者中野京子さんの作品は全部とはいえないが7,8冊ほど読んでいる。自分の記事にも引用させてもらったことがある。そのことでブログ内でコメントのやりとりもしたし、小生の拙ない記事を読んでいただく僥倖にも恵まれた。


さて、『ヒルビリーエレジー』についての中野さんの記事は、短い文章ながらもアメリカの知られざる現実を抉り出す、表に出てこない真実、秘密みたいなものを感じた。メインの美術評論とは、どうリンクされるのか不思議に思ったので、その執筆動機をむしょうにお訊きしたくコメントを書いたのだ。

その全文記事は下記にリンク(※下記)を貼っておくが、記事のほんの一部を紹介すると、以下のように書かれている。

「ヒルビリーエレジー」は著者ヴァンスの半自伝。
 麻薬中毒の母と、次々に変わる父親のもとで育ったヴァンスは、祖父母の存在がなければたぶんどこかの段階で自身もジャンキーになっていたのではないかと思います。
とにかく想像を絶するひどい生育環境なので読んでいて暗澹たる気分になり、途中で読むのをやめようかと思ってしまったほどです。これでどうやって抜け出せたのか、弁護士になり、知的富裕層の一員になれたのか、それを知りたくて我慢して読み続けると、高校を卒業したあたりから俄然、面白くなります。

 

『ヒルビリーエレジー』及びJ.D.ヴァンスについてネット検索したら、冒頭に書いたことの解決の糸口になるようなエピソードが次から次と出てくる。だが、中野京子氏の仕事とはまったく結びつく要素はない。で、コメントには端的にこう質問した。

中野さまの現在のお仕事とアメリカのコアな現実がどうリンクしているか・・ものすごく興味をかき立てられました。
どう結びつけようにも想像をこえます。「ブレイキングバッド」というTVドラマをみるべきかも悩むほどです。

直ぐにリコメントを書いていただいた。

私は手当たり次第にアメリカ映画を見てきたので、ずいぶん前から分断のひどさや司法の疑わしさに呆れていました。美術評論とは切り離して考えています。
 ヒルビリーエレジーもブレイキングバッドもお勧めです! 特に後者に出てくる悪役一人は誰かさんがモデルと言われており、その意味でも面白いかと。

以上のやりとりがあったのが10月28日で、その後図書館で『ヒルビリーエレジー』を借り、読了したのが11月3日だったか、自分としては早いほうだ。その間に中野さんお薦めのTVドラマシリーズ『ブレイキングバッド』のシリーズ1を取り寄せて視聴した。白人中流社会の没落と麻薬汚染の浸透がシンボリックに表現したドラマだった。

舞台はニューメキシコのアルバカーキ、主人公は高校の化学教師。年収5万ドル弱の白人中流の属する典型的なアメリカ人。いや、もっと伏線がたくさんあり、かれが悪行に手を染めるエピソードも複雑で面白い。

書き出すとだらだらと書いてしまう。この稿は「極私的アメリカの点描」として、今まで言語化できなかった題材なども含めてシリーズで書いていきたい。その方が書きやすいし、読むほうも手早く読めるような気がする。という訳で、今回はこの辺で。

▲現在はシーズン2を視聴中。

(※下記)中野京子の「花つむひとの部屋」(本と映画と音楽と。絵画の中の歴史と。)

『ヒルビリーとトランプ大統領』https://blog.goo.ne.jp/hanatumi2006/e/5f36e92153841ed04c34aa2d972ba96f

他の方もこの記事に関心をもちコメントを寄せている。スコッチ・アイリッシュ系の移民とカントリーミュージックについてで、この分野の話にも小生は関心をもっている。ボブ・ディランはもとよりアイルランドのメアリーブラックについてなども将来書いてみたいことの一つだ。

 

 


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。