小寄道

日々生あるもの、魂が孕むものにまなざしをそそぐ。凡愚なれど、ここに一服の憩をとどけんかなと想う。

もし村上春樹が、安倍首相のものまねを・・・

2017年07月13日 | エッセイ・コラム

 

 

東京新聞の毎日連載している「本音のコラム」は、原稿用紙3枚ほどの分量で読みやすい。その分、作者の書き方は端的となり、主張もストレートで簡潔な好エッセイになる確率高し。曜日ごとに筆者が変わり、それぞれの個性的な書き方、社会への洞察に特長が出て、それもまた日々楽しめるコラムとなっている。

昨日の水曜日は斉藤美奈子さんの担当で、「もしも首相が・・」というタイトルで、「もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら」(神田桂一&菊池良・宝島社)という文体模写のパロディ本をネタに、安倍首相の口調でインスタントのカップ焼きそばを作る戯文を書いていた。それが面白く吹きだしてしまった。

おまけに例の首相のお友だち、菅官房長官の官邸での会見。「仮定の質問にはお答えできません」、「まったく問題ありません」、「その指摘は当たりません」など、記者を突き放すような言葉も忘れないところが彼女らしい。最後に「誰かコントにしてくれません?」というオチで締め括っていた。近頃、政治家を風刺する芸人を見かけないので、そうだそうだと同意した。

ということで、「もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら」という本の存在を知ることになった。その向こうを張るわけではないが、「もしも村上春樹が、政治を風刺する芸人のために安倍首相のものまねポイントを書いたら」というパロディに挑戦してみた。


1.きみは自身の芸域をひろげるために安倍首相のものまねにチャレンジする。その事実について、僕は何の興味をもってないし、何かを言う権利もない。

2.僕が言えることはシンプルだ。安倍首相のものまねをするときに、大切なキーワードがある。これは誰もが知っている事実だ。「これはもう」「まさにですね」「それをですね」「いいですか」など、文脈に影響のないつなぎ言葉を多用することだ。

3.同じ言葉を2回ほど、丁寧に繰り返すことに心がけること。無駄なこと不合理なことを語ることで、人に「やれやれ」と思わせる。そんなことが、聴衆の同意、或いは笑いを呼び起こす。ささやかな「受け」狙いが僕の好みだが、君自身が笑うかどうか、君の自由だけどね。

4.ただ、ひとつだけ言いたい。

5.同じ言葉を繰り返すトートロジーを安倍首相は多用する。だからといって、君がそれを同じように頻繁に使えば、観客にそっぽを向かれるかもしれない。完璧なものまねは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。



斉藤美奈子さんのご父君は確か宮澤賢治の研究家であったと思う。娘さんはどうやら賢治のような純粋でまっすぐな感性とそりが合わないようで、斜に構えた見方で「ホンネ」をぶつけるタイプとお見受けしている。残念ながら著書も「名作うしろ読み」の一冊しか読んでいないのだが、このタイトルの通り、美奈子さんが書くものは一筋縄では捉えきれない、反逆の感性を真骨頂としているのではないか。
この本は古今東西の132の名作の最後の一文を紹介し、文豪たちのエンディングがいかなるものかを評したもの。まさに東京新聞のコラムと同じように見開き2頁ほどのボリュームで、文豪の作品の「シッポ」を俎上にあげ、作家としてのセンス・人となりを切れ味鋭く論じている。

まだ読んでいない谷崎潤一郎の「細雪」がどんな文章で終わっているか繙いてみたら、意外なエンディングでちょっと驚いたことを思いだした。

下痢はとうとうその日も止まらず、汽車に乗ってからもまだ続いていた。

だそうな・・。



斉藤美奈子さんの、この谷崎の章の結末がまたふるっている。
大腸に自己主張をさせるって、やっぱ谷崎は変態だわ






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