小寄道

日々生あるもの、魂が孕むものにまなざしをそそぐ。凡愚なれど、ここに一服の憩をとどけんかなと想う。

誰が、谷中の街並みを毀すのか?

2019年09月27日 | まち歩き

今回は引き続き地元ネタがらみ。面白みに欠ける記事になる、あらかじめご了承されたし。

▲夕刊ではあるが、1面にでかでかと「谷中」が記事になった。TVではTBSの「噂の東京マガジン」(10月6日放映)で取り上げられるとの噂。


今週はじめ、先週に続き「谷中の家」にお邪魔した。今回は、月1の映画祭ではない。

谷中地区を対象にした行政(都と区)の道路整備計画は、どうも見過ごせない問題ありと、住民と専門家が寄り集まって話し合いの場がもたれた。この素晴らしい出会いの「場」を仕立てた方がいる。映画祭の主催者のひとり、「谷中の家」のオーナー西川直子さんである。彼女のお招きで参加することができたのだ。

かつて、このブログに彼女を建築士だと書いたのは愚生の凡ミスで、建築専門誌には携わっているが、いわゆる建築士ではない。とはいえ、建築に関してはオールラウンドな知見をもち、建築界のネットワークにおける人脈、知己も相当持っているであろう。

イギリスの建築事情をレクチャーしてくれた西川さんの友人の記事(「英国建築事情その勉強カフェ」)を書いたとき、愚生はこの「小寄道」を書いていることを打ち明けた。その時から西川さんとのメールのやりとりができ、原発映画祭だけではない地元の「街づくり」の様々な活動も教えられた。

この台東区がすすめている「谷中地区計画」に関する勉強会への参加も今回で2回目だが、そもそも西川さんとの縁があったからだ。勉強会はこれまでに何回も重ねられてき、地元の街づくりNPO団体を主体に住民や区議も参加して、谷中の街を守るための熱心な討議がなされてきた。

さて、計画段階から何年も経過して業を煮やしたのか、ここに来て行政側は、住民を分断するような「飴と鞭」の戦術をもちだしてきた。まず、自動車が通行できる主要道路(朝倉彫塑館通り・三崎坂通り)には「高さ制限」が設けられていたが、都市計画道路廃止によりその制限が撤廃される。したがって、各道路に沿った建物を建替える場合、高さ20mの6,7階建てほどのビル建設が可能になる。

(道路計画にない通称「よみせ通り」でも高さ20mもOKらしいが、向かいの文京区側は高さ制限17mであり、同じ道路で区政の基準が違う。これは大いなる問題であり、禍根を残すものだ。)

 

住宅地にしても,高さ制限10mから12mとなり3,4階建てが可能になる。そのかわり道路を拡幅するために、壁面を後退して建て替えなければならない。現在2mほどしかない私道も、将来的には4mに、行政の計画ではさらに4.6mへと拡幅することを目標にしている。

その他、日照権に影響のある「斜線制限」(明るさを確保するために道路面の建物を一部斜めにカットすること)が緩和されることや、建替え時には300万円の補助金が支払われるなど、行政から甘-い「飴」が提供される。これらは実は、飽くまで地権者向けへの対策でしかない。(以上、住宅地の建替えに関する様々な規制緩和、付帯条件などは、その場所で大きく異なる。特に、木造密集地区に指定された谷中3丁目における扱いが気がかりだ。(注1)

谷中という土地柄は、寺町であり歴史はあるものの、住民の大半は借家住まいが多い。たぶん、寺の所有地も多いだろうし、私有地といっても谷中に住んでない人も結構いるらしい。愚生の自宅の近くには、3階建てのマンションが5棟ばかりあるが、4棟の地権者は区外に住むオーナーである。みなさん、お医者さんや不動産経営のお金持ちだそうな。

建替えを考えなければならない老朽化した建物・住宅は今後、地権者がもしも自己優先的な私利に走れば、大幅な賃料アップが約束される、中層マンションの建設も可能となるであろう。銀行だって融資するだろう好案件だ。

そんな地権者が増えれば、下町風情をいまだに醸し出す、路地のある街並み、軒先に植木や花のある景観を壊しても、経済性と効率性を優先する道を選択するのは人の子といっていい。

行政の思惑が功を奏すると仮定すれば、借地に住む住民でさえも、区の指定する建築条件(壁面後退)をのめば、甘い斜線制限という「飴」付きの流行りの3階建住宅が建替えられる。

ただし、先代から増改築を繰りかえして、それが違法建築として認定されたなら、どんなに老朽化しても建替えや改築は不可能となる。「建築確認申請」を怠ると行政処分を受ける(場合によっては立退き要求)。これは「飴」ではなく「鞭」といえようか。

これらはすべて、道路を広くするためだけの施策であり、防災予防というお役所発の「絵に描いた餅」計画である。昔ながらの谷中の街なみというトータルなイメージがあるわけではない。行政側は、道路を拡張すれば、防火・防災のすべての課題が解決する、という短絡的な見方に支配されているのではないだろうか。

(正直なことを告白すれば、我が家は3階建である。私道に面していても、建築基準法と近隣の了解をパスしていれば3階建てはOKなのだ。大手ハウスメーカーに発注して納得のいく住まいが出来たのだが、「谷中の街並み」を配慮して建築依頼したものではなかった・・。既に20年近くなって、そのことを後悔している今日この頃である)


話はちょっと変わる。愚生の家に至るまでの公道はかなり狭い(もちろん一方通行で、大型車両は通行不可)。通学路でもあるので、時間帯によって車両は通行できなくなる。最近、その公道の電柱を撤去して、電線等を地中下することの是非を問うアンケートが区役所から来た。

無電柱化は空がすっきりとし、景観は抜群に良くなると言われる。そんな美しい景観だけを考えての無電柱化の計画なのだろうか。幅員4.6mの道路になれば大型消防車も通行可能になるのか? 

この公道はいま、不忍通りに出ることなく動坂方面にショートカットできるので、意外と交通量が多い。通学時間帯は、自動車は入れなくなるが、それ以外の時間は通行量は結構あるのだ。

今のところ、電柱があるからスピードが出せないともいえる。また、傍若無人に飛ばすクルマが来た場合、子どもや老人はちょっとした避難場所として電柱の陰に隠れることができる。だから、無電柱化も、手放しで賛成と言えなくなる。議論を尽くして、緻密な計画案の作成をつくってもらいたい。

(先日、大型台風が来襲し、千葉県では頑丈なコンクリート電柱が何本もなぎ倒されていた。とてもショックだったし、電柱そのものが被害拡大の大きな要因になった。これを見て、増々難しい問題だなと深く考えざるを得ない。)

▲行政が規制緩和するという斜線制限やら壁面後退のシュミレーションを図解。今回は聞くほうにかまけて、この一枚のみ。30人弱ほど参加したか・・。純然たる谷中の住民は5,6人か。


「谷中の家」の勉強会について、話を戻したいところだが、行政側の計画にかんして、現在のところ多くの住民はそれほどの関心があると思えない。谷中の景観に関しても、確かな個人的な見解をもっている人も少ない。

今回の集まりには、30名近い方が参加したが、地元からは愚生含めて10人もいたかどうか。その他は、谷中の街が好きな方、環境学や建築専門家、建築行政などを研究している方などであった。心強いかぎりだが、行政側の真意がどこにあり、それをどう判断し、どのように対応していくか・・。具体的に行動していくのは、実際に住んでいる私たち市民なのだ。

今後、行政側がどのようなアクションをおこすのか注視していかねばならない。

個人的には、防災・防火の観点からの課題は多々あるが、現状維持派である。狭い路地、軒先の植木や花、そんな下町風情と多くの寺が混在する独特の雰囲気が好きだ。

いま商店街を中心に観光地化が進んでいて、週末には歩くのも大変な密集状態になる。外国からのツーリストもこの2,3年、凄く目立つように増えた。これらの人々は、今の谷中があるから来訪するのであり、谷中らしさを毀損する景観に変われば、どんどん離れていくに違いない。

まあ、お寺さんが多いから都市計画的な開発は無理だろうし、街の景観の大幅な改変は実現できないだろうと、個人的には高をくくっているのだが、どうだろう。

 ▲谷中らしさが残る住まい、朝倉文夫彫塑館の前。

▲ここは根津だが、谷中にもむかし井戸があって、母親や子どもたちの溜まり場だった。井戸端会議は死語?

▲観音寺裏の築地塀。区の文化財指定。ここは無電柱化され、さすがにすっきりした景観。しかし、谷中に来た外国のツーリスト(欧米人)は、空中に張りめぐされた電線を興味深く眺めている。そして、電線の元締めみたいな電柱をカメラにおさめ、「してやったり」な顔をしていた。一度訊ねたことがある、なぜ、そんなものを撮るのか。「とても、アジア的で面白い。日本は先進国だが、新旧混在してユニークだ、多様性があり自由だ」と。

 

(注1)この箇所の文章は、事実関係の認識に過誤があり、訂正・加筆した。(2019 .10.4記) さらに西川氏からの指摘があり加筆訂正した(2019 .11.5記)






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