鎌倉の隠者

日本画家、詩人、鎌倉の鬼門守護職、甲士三郎の隠者生活

94 盆上茶仙界

2019-06-20 08:49:20 | 日記
前出の珈琲卓の聖域に続いて今回は一般の日常生活でも可能な、煎茶烏龍茶の盆上に夢幻神仙界を築き上げる話をしよう。
煎茶用の小振りの盆は俗世を隔てる結界となり、盆上の茶器揃えは古の詩人賢人達と遊ぶ為の夢幻界への転移装置となってくれる。

まず茶葉を選ぶなら、煎茶では玉露の風味の良さは格別だ。
ある流派は一煎するだけの中にいやと言う程の作法を詰め込んだ末に数滴程の玉露を飲ませて終わるが、物足りなければ英国式ティーパーティーを参考に玉露の後をたっぷりのアイスミルクティーや珈琲と茶菓で語らうのも良いだろう。
アペロから軽食に移るのも有りだ。


(置物は李朝虎児水滴 染付急須と染付杯は清朝時代)
私が夏場に一番おすすめしたいのは白桃烏龍茶だ。
紅茶緑茶系のフレバーティーより一段上の気品があって冷やしても味わい深く、何より桃は西王母以来の夢幻神仙界の香りなのだ。
茶器は古器でなくとも今の磁器で使用には十分だ。(隠者はアンティーク物で楽しんでいるが)
清涼感を出すなら染付か青磁が良く、好みの絵柄を探すのも楽しい。
初心者はつい無難に白磁を選んでしまうところだが、白磁で長年使って飽きないのは宋の定窯物くらいなので新物は勧めない。


(宣興朱泥早期壺 民国時代 青手古九谷杯 幕末明治期 油壺 李朝時代)
さてこれまで隠者なりに数ある茶葉を試した中で、台湾の凍頂茶は一般に手に入る茶葉では最も玄妙な茶味香気があって飽きない。
ただし極上の烏龍茶を淹れるには、宣興朱泥茶壺(急須)の1980年以前に造られたいわゆる早期壺が必須と言われている。
烏龍茶の雑味を取り除いてくれるので名高い茶器だが、近年では肝心の土が枯渇して性能が落ちているので古壺を入手する以外の手は無い。
更に養壺と言ってその朱泥急須を程良く雑味を吸収するまで数カ月かけて茶を吸わせて育てるのが、古の文人達の養石趣味に似て今の歌仙画仙にも相応しいのではないか。
台湾に始まる最近の茶芸(煎茶道に近いがもっと実用的)の興隆により古壺早期壺のオークション価格も急騰しているが、それでも2〜3万円覚悟すれば数はあるので手に入る。

茶杯(煎茶碗)の方は大きささえ合えば性能面では何でも良いが、世間ではやはり唐物が珍重されている。
花鳥画山水画の碗は数多くあるし、若い人には紛彩の仕女図(中国宮廷のメイド)の色絵杯なども良いだろう。
ただこれも朱泥急須にベストマッチの色形となると一気に難易度が高くなる。
私は明時代の古赤絵か江戸物の青九谷の杯を合わせている。
いずれにしろ何かしら仙界夢幻界の景がある器を選びたい。


(十錦手急須 清時代 古赤絵杯 明時代 呉須赤絵小壺 明時代)
杯急須の他にも菓子皿や花器か飾り物を一つ加えると、組合せのバリエーションが増えて楽しめる。
こんな感じで盆上を組めば茶器の花鳥画や山水画の世界にも入り込み易く、神仙となって夢幻の楽土に遊ぶ事が出来るだろう。

©️甲士三郎