『プロの仕事を考える』
昭和の始めの頃、幸之助さんは寄席で中国人の曲芸を見たことがありました。
若いきれいな女の人を壁の前に立たせ、その人に向かってビュッと短剣を投げます。
投げられた短剣は女の人からスレスレのところに刺さり、それが20本あまり投げられました。
その曲芸を初めて見る幸之助さんは、ビックリを超えて、手に汗にぎり心臓がキュッと縮むような思いでした。
このとき幸之助さんは、“これがプロだな”と感動をしました。
そして、今日のサラリーマンに要求されるのは、そのような“プロ”の仕事であると言います。
「見ている方も怖いが、やる方はわずかでも手もとが狂えば、人の命にかかわるのである。
人間相手、わずかでも誤れば命がないというスリルがあればこそ客もお金を払って見に来てくれる。
それをやり遂げるのがプロである。
我々の仕事もこれと一緒で、我々が本業としてそれでメシを食うとなれば、こうでなくてはならないな、ということを感じたのである。」
もちろん、多くのサラリーマンの人は、そういったことを自覚しており、それぞれの仕事においてプロに徹してやっていこうということを考えていると思います。
そこで、いろいろと勉強もしていると思われますが、幸之助さんは、仕事というものはいろいろな知識を得たり、人から教えられたりするだけでは、モノにならないと言います。
「やはり自分でそれに取組んで、そこからそのコツというか、カンどころをみずからの身体で悟るというか、体得していく。
つまり自習していかなくてはならないものだと思うのである。」
先ほどのナイフ投げの曲芸でも、本を読んでそれで分かったというわけにはいきません。
自分でナイフを投げて、何度も何度も練習をして、自分でコツなどを掴み体得する意外に方法はありません。
同じように、経営学というものでも、本や人から学んだりすることができますが、それで仕事が完全にできるというものではありません。
「生きた経営なり仕事というものは教えるに教えられない、習うに習えない。
ただみずから創意工夫をこらして、はじめて会得できるものである。
それができて、本当のプロの仕事になれるでしょう。」
ナイフ投げの曲芸から、幸之助さんはプロの仕事を語ります。