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そうですね。僕の場合はそれしか作物のクオリティを判断する基準がないんです。(個人にどう響いているか―抜粋者注)実は僕が村上春樹が偉大な作家だと確信したのは一九八九年なんですね。その年に離婚したんですよ。目を覆わんばかりに悲惨で、精神的にろぼろになって離婚して、にもかかわらず日常生活は続いていく。日々の仕事はしなければならない。僕は基本的に活字中毒的な人間なので、ずっと本を読み続けているんですけど、そういう精神的にものすごく苦しいときって、活字を見てもなにも入ってこないんです。新聞読んでも入ってこないくらい。ましてちょっと訳知りなことが書いてある本だったりすると、ばかやろう、なにを抜かしてやがる!!ってそのまま叩きつけたりして(笑い)
そのときにたまたまレヴィナスの翻訳をやっていて、そのゲラを直していたら涙が出てきたんです。あんまりにも身に染みてきたので。あらためて読むと自分の訳文の向こうからレヴィナス先生の英知の言葉が響いてきて、ひとつひとつの行が自分のことを語っているような気がするんです。「先生、それはオレのことですか!」って。そのとき本当にレヴィナスは偉大だと思った。
内田 樹 『もういちど村上春樹にご用心』より ARTES
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これは柴田元幸さんとの対談場面だ。
話はこの後、内田先生はこんなに打つのめされてる時に、ということは感動の閾値が異常に高くなっているときにどんな本だったら心に響くのだろうと手当たり次第に手元の本を読んだんだそうだ。
そして最終的に内田先生をしみじみさせたのが、チャンドラーとフィッツジェラルドと村上春樹だったという。
そんな話はさて置き、と言って徳さんは抜粋した本の筋道から外れていく。
まあ、いつもの事だが、、、。
この時、徹底的に打ちのめされた内田先生が、徳さんには今回の震災以後の僕たちの姿にダブってしまったのだ。
何でもかんでもが今回の地震・津波・原発事故というフィルターを通してしか感じられないと言うのはしょうがない事だ。
還暦を過ぎた年寄りの、しかも直接的な被災者でもない(今のところは多分、、、)のに、何かこれが自分の人生で一生懸命考えなければならない、これから先、常に今の時点の自分に立ち返らなければならない原体験でもあるかのような錯覚に陥ってる。
ボロボロになっているが日常の生活は淡々とこなさなければならない。
そして、こんな時、しみじみとした共感を呼ぶ物語が必要なのだ。
一人っきりにならないためにも、、、。
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