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岩清水日記

「あしひきの岩間をつたふ苔水のかすかにわれはすみわたるかも」良寛

『イデアと制度―ヨーロッパの知について』多賀茂著

2008-10-22 21:52:33 | 
名古屋大学出版会 2008年出版

図書館の新刊コーナーを覗いていると、著者の名を知らない本が並んでいる。
もちろん、この本もそうだが(著者を失礼ながら存じていない)、タイトルと装丁が気になった。
「イデアと制度」は私の関心事だし、ヨーロッパの知についても、現在の私の低レベルを
もう少し高める必要があると思っている。
このような場合は、まずは現代の研究者に教わるべきだと思う。

この本の著者である多賀先生によると、
制度という言葉は、この本の中では「私たちの思考や実践を可能にしつつ、その形態を
規定している枠組み」という意味で使われている。
一方、イデアという言葉は、「ある制度が、なぜ必要で、何を目標とし、そしてそのためには
どういう構造を持っていなければならないかについての知であり、そうした目標や構造に従いながら
制度の<形>を正しく作り上げる形成力のことである」と言われる。

うんうん。そして次の文章となります。
「何よりもまず認識しておかなければならないことは、正しい理念(イデア)に基づいて
作られていない限り、制度は必ず変調をきたすということである」と書かれている。
大いに納得できることになる。
この文章は、この書物の「はじめに」に書かれているのだが、「はじめの〆」は、
「<制度>の中に宿っているべき<イデア>を吹き込まずして、<制度>を正しく作ることも
生かすこともできないのである」

この文章は、レベルはまるで違うけれど、私たちが日頃思っていることではないだろうか。
私たちは「理念」はどうした。「思想」はどこにあると、現制度を批判することが多いのだが、
それはこの300p余りの書物に流れている思いと共通するのかもしれない。
もちろん、我田引水ですが。

章立てだけでも、引用させていただきますが、多賀茂先生の博覧強記ぶりに圧倒されました。
第1章 国家
第2章 自由
第3章 外交
第4章 都市
第5章 自然
第6章 教養
第7章 批評
第8章 言語
第9章 歓待

一言だけ書きます。
私が読まなくてはならないと思っているのは、第9章の歓待です。
歓待とは何か。それはホスピタリティであり、この歓待という訳語を持つ言葉は
ホスピタルと同じ語源を持っていて、そのことがどのようなイデアを指し示しているかが、
この章のテーマという。
具体的には病院と看護の仕事について書かれています。
どうです。知っておかなくてはなりませんね。
知的好奇心がふつふつと沸いてきませんか。

多賀茂先生について
京都大学大学院人間・環境研究科教員
「18世紀のフランス社会において、知がどこで、どのように、開拓され、保存され、管理されていたかと
いう問題が主な研究対象です。これはフーコーが提起した知と権力の関係の問題とつながるもので、
最近はたとえば、18世紀後半から19世紀前半までにおける精神医学と刑法の関係について研究しました。
またフランスの建築規制を実地に調査しつつ、都市の統一的景観とその保存の可能性を歴史的に見直す試み
なども行っています。授業では、フランスの文化や社会を幅広く理解してもらえるようにフランス料理、モード、
現代芸術などの話もしています」
(京都大学大学院ホームページより)

※写真は日本の祝祭の場・秋祭の露店風景です。



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