金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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白銀の翼(動乱)433

2015-04-12 08:08:00 | Weblog
 日が傾こうとしていた。
宮殿の石畳を董太后と何皇后が肩を並べて歩いていた。
二人は帝の見舞いを終え、大本営に向かっていた。
その後ろには取り巻きの者達が大勢付き従っていた。
何れも侍女と宦官であった。
行き交う者達が二人の姿を目にすると、遠くからでも、慌てて道を譲った。
 董太后はいたって上機嫌。
帝の姿を目にして、その様子にホッとした。
長い昏睡から目覚めただけで、言葉を一言も発する事は出来なかったが、
太后皇后二人を見て微かに頷いた。
その目に知の色を感じた。
後遺症の心配は不要らしい。
 治療にあたっていた華佗が断言した。
「あとは少しずつ食事を増やして体力を回復させれば、いずれ喋れるようになります。
起きて歩くには、もう少しかかります。辛抱強く見守って下さい」
 董太后は肩の荷が下りた。
帝が伏せてより、その代行をしていた。
大概な事は三公九卿の決裁で済むので、意外と代行は暇であった。
それでも帝の決裁を必要とする上奏もあり、気だけは抜けなかった。
 歩みながら、「もう少しの辛抱」と自分に言い聞かせた。
帝が復帰すれば、太后として気楽に生きられる。
政治の矢面に立つ必要もなくなる。
そう思うと、心が浮き立ちそう。
 気持ちを読み取ったかのように何皇后が言う。
「これで一安心ですわね」
 油断せぬように注意を喚起した。
「ワラワは一安心だけど、ソナタは違うわよ。
帝が最初に手をつけるのは、毒殺未遂の真相よ。
誰かが裏で操っていたのではないか、とね」
 途端に皇后の身体がビクッと震えるのが、見なくても感じ取れた。
「それは」怯えた。
「分かっています。
ワラワは少しも疑ってはいません。
何もなければソナタの皇子が後継者です。
毒殺する必要なんて、これっぽっちもありません。
犯人扱いは大きな間違いです」
 皇子は二人いた。
長子は何皇后が産んだ劉弁。
次子は王美人が産んだ劉協。
問題は嫉妬に駆られた何皇后が王美人を毒殺した前歴にある。
誰もが帝毒殺未遂を王美人毒殺と関連付け、「これも何皇后の仕業」と噂した。
「皇子の母君を罪に問うのは聞こえが悪い」との声があり、
矛を収めた帝であったが、その怒りは今もって消えてはいない。
何皇后は極めて旗色が悪い。
 何皇后が心底からの言葉。
「そのお言葉、嬉しゅう御座います」深く感謝した。
 これまで何につけ対立していた二人だが、帝毒殺未遂を機に手を携える事になった。
どちらかと言うと、何皇后の方から擦り寄って来た。
「帝の心証が悪いので、董太后の庇護を求めている」とも言えた。
理由はどうあれ、この頃は擦り寄る何皇后が可愛く思えた。
何皇后に言い聞かせた。
「何としても裏で操っていた者を捕らえましょうね」
「ええ、絶対に」
 関係した宦官達が服毒自殺してしまったので、手掛かりを失ってしまった。
それでも太后皇后は諦めず、当局に調査を命ずると同時に、
影響下にある者達をも動かした。
今だ真相は闇の中だが、はっきり分かった事が一つ。
「服毒自殺した者達は帝毒殺に到る憎悪、恨みを全く持っていなかった」
と言うことは、彼等の個人的な感情からの犯行ではなく、別の事情から。
「誰かに唆された、命じられた、強要された、の何れか」としか思えない。
 それよりも今は目前に迫った危機。
鮮卑の襲来に対処せねばならない。
足を速めた。
何皇后も歩調を合わせた。
帝が復帰するまでは女二人が後漢の舵取り。
少しの間違いも許されない。
そう思うと、より足が速まった。
 大勢が大本営に出入りしていた。
何れも急ぎ足であった。
様子から、事態の急変は感じられない。
 入るや、小娘が駆け寄って来た。
何美雨。
先ほどと変わらぬ無邪気振り。
まるで主人に懐く子犬のよう。
二人の前に両膝をついて、見上げた。
「帝は如何でしたか」
 董太后は手を差し伸べ、小娘を立ち上がらせた。
「滋養をつければ大丈夫だそうよ」
 その言葉に安心したのか、小娘が深く頷いた。
「よかった」と言い、姿勢を正して、「それでは申し上げます」と、
太后皇后が留守にしている間に起きた事を、一つ一つ事細かに説明を始めた。
どこから何の報告が上がったのか。
それに大本営詰めの高官の誰それが、どのように対処したのか。
見聞きした事を手短に要領良く説明した。
これまでの無邪気な小娘が嘘のよう。
戻って来た大将軍への処遇も、他人事のように伝えた。
 太后皇后を迎えるべく扉近くに集まった高官達が、小娘の説明振りに圧倒されたのか、
互いに顔を見合わせた。
中には恥じ入るように、俯く者もいた。
 董太后は意地悪く問う。
なにしろ大将軍は小娘の実父。
「敗走して戻った大将軍の処遇だけど、どうしようかしらね」
 小娘の顔色は変わらない。
大人びた口調で答えた。
「ただの将軍であれば更迭でしょうけど、相手は大将軍。
何進どうのこうのではなく、大将軍という官位だけは汚せません。
後漢大国では帝に次ぐ地位です。
徒や疎かには出来ません。
病気として官位を返上してもらい、当分は療養してもらってはどうでしょう。
もし処分をお考えなら、帝の裁可を仰ぐ必要があります」
 傍近くに居た何皇后は、姪のまるで官僚のような言いように表情を一変させた。
しかし言葉にはしない。
彼女にとっては姪も実兄も道具でしかないのかも知れない。
 董太后は小娘の背後に控える高官達を見遣った。
誰も小娘に異議を唱えない。
処分となれば、確かに帝の裁可を必要とするだろう。
「そうよね」と同意するしかなかった。
 小娘が続けた。
「最後に一つ。
さきほど董卓将軍より報告が入りました。
黄河の南岸より北岸へ渡河している大きな一団があるそうです。
確認のために将軍は新たな物見を発しました」
 董太后は思わず表情を崩した。
「南岸から北岸となれば、鮮卑の撤退以外ないわよね」
「まず間違いなく撤退でしょう。
でしょうが、確認が必要です。
将軍だけでなく、袁紹や曹操、他の部隊からの報告も待ちましょう」




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