《本記事のポイント》

  • プーチン大統領の和平条件
  • ウクライナ軍のクルスク奇襲攻撃について
  • 停戦への流れは依然として変わらない

 

 

河田 成治

河田 成治
プロフィール
(かわだ・せいじ)1967年、岐阜県生まれ。防衛大学校を卒業後、航空自衛隊にパイロットとして従事。現在は、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)の未来創造学部で、安全保障や国際政治学を教えている。

前回は、ウクライナが停戦を真剣に考えざるを得ない状況に追い込まれている状況にあるにもかかわらず、西側諸国が停戦合意を阻んできた現実をお伝えしてきました。ここでロシアの和平条件はどのようなものだったのかを振りかえっておきましょう。

 

 

プーチン大統領の和平条件

2024年6月に、ロシア抜きの「ウクライナ平和サミット」がスイスで開催される直前、プーチン大統領はロシア案としての「和平条件」を示しました(*9)。

 

この和平条件は、2022年のイスタンブール合意と比べ、かなり踏み込んでウクライナに譲歩を迫るものとなりました。イスタンブール合意では、NATO加盟放棄の代わりに、ロシア軍の侵攻前の地点までの撤兵が約束されていた一方、それから2年以上が経過した今回の和平条件は、「ドネツク州、ルハンシク州、ザポリージャ州、ヘルソン州からのウクライナ軍撤退」、つまり、これら4州のロシア併合が戦争終結の条件となっており、より強い立場に変わっています。

 

2022年3月段階では、ウクライナは停戦に前向きであったにもかかわらず、米英が合意を阻止したことで、その後の2年以上に渡ってウクライナ人の血が流れ続け、国土は荒廃し、世界経済に深刻な影響を与え、中国や北朝鮮に大きな利益を与えたことになります。さらにロシアが撤退するという最大限の譲歩も、消えてしまいました。

(*9) Телеканал(2024.6.14)

 

 

ウクライナ軍のクルスク奇襲攻撃の目的とは?

今年8月6日、ウクライナ軍はロシア領のクルスク州へ奇襲攻撃、侵攻を開始しました。

 

欺瞞工作:ウクライナ軍は本作戦のためにかなり以前から準備し、部隊を密かに移動していたらしいことが分かっています(*10)。またウクライナ軍の移動については、攻撃ではなく、当地が危険に晒されるのを防ぐための「防衛体制の強化」と思わせる発表を行っており、ロシアを欺く目的だったのだろうと思われます(*11)。

 

クルスク州のロシア軍は兵力が少なく、障害物や防御陣地も不十分で、また地雷の敷設量も少なかったため、ウクライナ軍のある兵士は、ほとんど抵抗を受けずにスジャ付近まで前進できたと証言しています。8月12日にシルスキー総司令官は、クルスク方面の約1000km2のロシア領が支配下にあると述べました。ただしこの広さは、2022年2月のウクライナ戦争以降にロシア軍が占領した約12万km2に対して、約0.8%にとどまります。

(*10) The New York Times(2024.8.13)
(*11) ロシアがハルコフ州へ5月10日以降に奇襲侵攻を行った際、ウクライナ国防省情報総局のブダノフ中将は「ロシア軍は(ロシア領クルスク州に接する)スームィ州で新たな攻勢を開始するかもしれない」と述べたほか、ウクライナのメディアはスームィ州が危険だと報道していた。RBC UKRAINE(2024.5.21)

 

HSU未来創造学部では、仏法真理と神の正義を柱としつつ、今回の世界情勢などの生きた専門知識を授業で学び、「国際政治のあるべき姿」への視点を養っています。詳しくはこちらをご覧ください(未来創造学部ホームページ)。