バイデン大統領は本音ではロシアに核を使わせたい!?【HSU河田成治氏寄稿】
2022.10.16(liverty web)
<picture></picture>
《本記事のポイント》
- バイデン政権が初めて発表した「国家安全保障戦略」の中身とは?
- アメリカが核使用を決定したら、NATOは覆せない!
- 偶然の一致ではない北朝鮮の核威嚇
河田 成治
(かわだ・せいじ)1967年、岐阜県生まれ。防衛大学校を卒業後、航空自衛隊にパイロットとして従事。現在は、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)の未来創造学部で、安全保障や国際政治学を教えている。
間もなくロシアの核戦力部隊による大規模な定期演習「グロム」が始まる予定です。
ロシアは2月19日にも、核運用を含む大規模な軍事演習を行いましたが、この直後にロシアの「特別軍事作戦」が始まったことを考えると、毎年恒例の演習とはいえ、単なる演習で終わるかどうかは断言できません。
一方、北大西洋条約機構(NATO)側も、ウクライナ戦争が始まる前から計画されていた、核兵器の使用を想定した年次定期演習「ステッドファスト・ヌーン(Steadfast Noon)」を10月17日から30日まで予定通り行うと発表しました。
この演習では NATO加盟国の空軍機が最大60機参加する予定。米軍は核を搭載する戦略爆撃機B-52も参加させる予定です。
ロシアの核戦略
プーチン大統領は9月21日、国民に向けたテレビ演説で、「NATOはロシアに対する核の威嚇を行なっているのでロシアもこれに対応する用意がある」「領土的一体性に関する脅威が生じた場合には、われわれの市民を守るために、あらゆる手段を用いる。これは脅しではない」などと述べ、核使用の可能性をほのめかしました。
つまりクリミアはもちろん、ロシアに編入されたウクライナ4州に対するウクライナ軍の侵略には、核攻撃による報復もあり得るという表明をしたのです。
では、ロシアは核兵器をどのように使うのでしょうか?
ロシアには核使用について、「エスカレーション抑止」という考え方があります。これはロシアが敵に侵略されて劣勢に立たされた場合や、その戦争にアメリカなどが参戦する場合に、これを阻止する目的で核を使う戦略です。
ざっくり言えば、この場合の核攻撃は、敵に大打撃を与えるというよりは、このまま戦争を続けると甚大な被害を出ることを敵に悟らせて、戦争収束に向かわせることを目的としています。
そのため核は、敵国の大都市や重要拠点を攻撃するのではなく、無人地帯や人口の希薄な地域を狙って、ほとんど被害が出ないような方法で使用されるものと推測されます。
しかし、それでも敵の侵略が止まらない場合は、もっと際どい核攻撃へとエスカレーションすることになります。
現在のところ、ロシアが核使用に踏み切るところまで追い詰められているわけではありませんが、一歩間違えば、核戦争が起こりうる状況が出現するかもしれない危機感が生まれています。
バイデン政権が初めて発表した「国家安全保障戦略」の中身とは?
バイデン政権は10月12日、政権としては初となる「国家安全保障戦略」を発表しました。内容としてはロシアと中国に対するバイデン政権の考え方に大きな変更はなく、失望感が伴うものでした。
バイデン政権は、ロシアを「抑え付ける(constraining)」、「持続的脅威(persistent threat)」として、ロシア敵視を全面に押し出し、ウクライナを引き続き支援すると位置づけています。
一方で中国は、唯一の競争相手(only competitor)であって、これからは「中国との競争が決定的な10年」になるという見立てをしつつも、「アメリカと中国が平和的に共存し、人類の進歩を共に分かち合い、貢献することは可能」であるとするなど、甘く楽観的な考えを示しています。脅威認識と呼ぶには程遠いものになっているのです。
このバイデン式「国家安全保障戦略」は、かつてトランプ前政権がアメリカの喫緊の課題を、「中国との衝突に打ち勝つ」ことと宣言し、ポンペオ国務長官が中国共産党を「フランケンシュタイン」と呼んだこととは、大きな隔たりがあります。
今の中国と「平和的な共存」は不可能です。トランプ政権がレーガン政権をお手本にして述べていたように、「力による平和」こそが今求められているものです。
本音では核を使わせたいアメリカ
バイデン大統領は10月6日、「このままではキューバ危機以来、初めて核の脅威に直面する」、「ロシアが核を使えばアルマゲドン(世界最終戦争)」になると危険性を訴えましたが、実際には、核戦争の危機を煽っているのはバイデン氏の方です。
そもそもアメリカ政府の戦略広報担当調整官も、バイデン氏は「プーチン氏が核を使う決断をした兆しが何もない中での発言であった」と率直に述べています。
もとより「キューバ危機」は、アメリカの喉元のキューバにソ連が核ミサイルを配備したことで、核戦争も辞さないとアメリカが強硬姿勢をとった時に起きたものです。
ロシアの喉元であるウクライナを、アメリカ製の核ミサイルが配備可能になる軍事同盟に引き入れようとするような行為は、「逆キューバ危機」そのものです。
このような危機を察知してか、トランプ氏は10月9日、アリゾナ州の集会で、「我々には認知障害の大統領がおり、国を率いる状態ではなく、いまやロシアとの核戦争について軽率に話をしている」と非難。そして、「それは第三次世界大戦であり、これまでのどの戦争よりもはるかに壊滅的だ」と警告しました。
「キューバ危機」という歴史的事実を認識しながら、最終戦争について触れるバイデン氏。戦術核をロシアからウクライナに使わせる戦略があるのではないか、という疑念さえ湧いてきます。
アメリカが核使用を決定したら、NATOは覆せない!
NATO軍が10月17日より核の演習を行う予定であることは述べましたが、NATOの高官は、ロシアが核を使用すれば「NATOの物理的な対応が引き起こされる」と発言し、核の報復がなされると警告しました。
NATOの核シェアリングとは、ドイツなどに保管されているアメリカの核爆弾を、有事の際にNATO加盟国が使用できるようにする制度です。
しかしこの核使用には、アメリカ大統領が大きな権限を持っています。もちろんアメリカの意思に反してNATO諸国が核を使うことはできません。一方で驚くべき点は、究極的には、アメリカが核使用を決定した場合、NATO諸国がそれを覆す権限を有していないことです。
局地戦にとどまらない核戦争
米プリンストン大学の研究者たちが作成した核戦争時のシミュレーション「プランA」が2019年にYouTubeで公開されました。この動画は局地的な核使用が、あっという間に地球規模の大惨事に発展するさまを描いています。展開するシナリオは、入手可能な科学的証拠に基づいてシミュレートされたものだと言います。
シミュレーションは、通常戦争がエスカレートし、ロシアがNATOの進軍を阻止するためにポーランドに警告として1発の核爆弾を落とすところから始まります。これに対し、ドイツから飛び立ったNATO戦闘機が、1発の核で報復攻撃を行います。
核の応酬はたちまちエスカレートし、数百発の核がヨーロッパ全土を巻き込んでいきますが、数時間後にはロシアとアメリカが相互にICBMや潜水艦から核攻撃を撃ち合う全面核戦争に発展してしまいます(2022年8月号ザ・リバティ「黙示録は来るのか?」参照)。
もちろん、各種の研究機関が多様なシミュレーションを行っており、その結果も様々で、現実がこの通りになるとは限りません。しかし、ひとたび核攻撃が行われれば、瞬く間に世界が破滅する恐れがあることは知っておくべきでしょう。
偶然の一致ではない北朝鮮の核威嚇
北朝鮮は10月4日、我が国の上空を通過する弾道ミサイルを発射しましたが、9~10月だけでも13発のミサイルを発射しています(10/15時点)。
北朝鮮メディアは、この一連の発射について、「戦術核運用部隊の訓練だった」と伝えました。
また北朝鮮の新たな核実験の兆候も見られ、より強力な核戦力の配備を進めていると見られます。
北朝鮮は、ミサイル発射に対する国連制裁決議が、5月にはじめてロシアや中国の拒否権で頓挫して以降、露中のお墨付きを得た格好でミサイル発射を加速させています。
ウクライナ戦争以降、ロシア・中国・北朝鮮は結束を強化したと見るべきで、ヨーロッパでの核戦争の危機の高まりは、転じて東アジアの核危機となりました。
早期停戦、ロシアとの関係正常化が世界を救う道
バイデン政権は、先に紹介した国家安全保障戦略で、「ウクライナを引き続き支援し、ロシアによる侵略を引き続き阻止する」と謳っていますが、それでは戦争の一層の泥沼化を招き、核戦争のリスクを高めることになります。
アメリカはウクライナへの武器支援を止め、これ以上、ウクライナ人の人命が失われないよう、良き調停役としてのリーダーシップを発揮すべきです。
【関連書籍】
いずれも 大川隆法著 幸福の科学出版
【関連記事】
2022年9月11日付本欄 ウクライナ紛争が加速させる世界の分断【HSU河田成治氏寄稿】(前編)
https://the-liberty.com/article/19867/
2022年9月19日付本欄 ウクライナ紛争が加速させる世界の分断【HSU河田成治氏寄稿】(後編)
https://the-liberty.com/article/19883/
2022年5月9日付本欄 ウクライナ紛争でロシアはなぜ核使用をほのめかすのか 紛争をエスカレートさせ世界大戦への序曲にしてはならない【HSU河田成治氏寄稿】
https://the-liberty.com/article/19499/
2022年5月16日付本欄 北朝鮮が韓国に侵攻する可能性は低くない! ウクライナ情勢に目を奪われ北朝鮮の動向を疎かにしてはならない【HSU河田成治氏寄稿】