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天地わたるブログ

ほがらかに、おおらかに

『俳句』3月号小川軽舟を読む=その1

2020-02-27 05:43:35 | 俳句


鷹主宰小川軽舟が月刊『俳句』3月号へ「見つけたり」という題で俳句50句を寄稿している。それを3回に分けて山野月読と合評する。山野が○、天地が●。

賀客に名呼んでもらひぬ門の犬
●ふだんも来る人で犬が尾を振るような感じだね。「賀客」から見て新鮮。
○年賀に訪ねてきて、それを出迎えるように門のところまで走り寄ってきた犬への年賀の挨拶ですね。一家の主への挨拶より前に犬への挨拶というのがいいですね。
●この濃やかさを見習いたいものだよ。

一駅でもう田舎なり霜柱
○電車で一駅のこの駅を通過したのではなく、そこで降りたことがわかる絶妙な季語の斡旋ですね。
●繁華街がすぐ終わって田んぼになってしまうような地方の風情を活写している。
○「もう田舎なり」は味がありますね。

寝乱れのごとし白菜獲りしあと
●白菜の破片というかだらっとしたのが残っていたりしてこの比喩は絶妙。
○本当に言い得て妙の比喩。後に残った白菜の千切れた部分とかが、解けた帯とかに見えてきそう。

青空に詰まる空気や達磨市
●中七は空気の濃厚さを言いたいのかな、寄り合う人の熱気みたいなものを。
○鷹3月号の「見上げたる闇透明や冬銀河」の「闇透明」という把握に通じる感性ですね。人の熱気ではないと思いますが、青空を満たす空気を言うことで、達磨市の賑わいも想像されます。空の青と達磨の赤も印象的。

草葺のたちまち白き霰かな
○こういう勢いのある霰はあまり馴染みがないのですが、草葺の屋根を白くする霰というのはいいな。
●茅葺、藁葺は知っているのだが草葺は見たことがない。流浪の俳人の仮の庵みたいで映画になりそう。
○茅葺とかを含めた言い方じゃないですか。

冬枯や日だまり運ぶ路線バス
●「日だまり運ぶ」がぴんと来ないんだけど、つまり茫洋としたあまり人家のないところを行くバスに冬日が当たっているということかな?
○確かに把握しづらい句ですが、作者はこのバスに乗っており、窓から見える景はどこも冬枯れなのに、バスの窓にはずっと日が差している感じじゃないでしょうか。「路線バス」がいいですね。
●そうか、作者が乗車しているという君の読みはいいね。

鱈ちりの真子も白子も煮え立ちぬ
○湯気が見えて美味しそうです。材の豊富さが、鍋を囲む人の賑わいを感じさせます。
●精巣と卵でしょう。命のもとを食う人の獰猛さがいいね。

鱈ちりの灰汁淡雪のごとくなり
○こういう把握もあるのかなとは思いますが、何よりも熱いものを冷たいもので比喩する面白さでしょうか。
●いやあ、質感と色がふわっとした淡雪を連想させたのだと思う。
○確かに質感もそうですね。

水涸れて太陽遠く白くあり
●山川の景だね。関東だと秩父の方の山と山の間を流れる川のイメージ。日は差していても寒い冬の一景。
○「太陽遠く」という把握の布石として、「水枯れて」がとても効いています。
●人事からほど遠い寂寥感のある叙景句は永遠に不滅だよ。

貰はるる仔犬と眺め冬の川
●作者は仔犬を抱いているね。静かでほのぼのとした句。
○譲るとはいえ、既に愛情の育った仔犬への想いが感じられます。こういう状況はたまらないなあ。
●作者は基本的に情の人だね。
○おっしゃるとおりと想像します。

学歴と官暦に死す赤絨毯
●作者は職業柄官界の地位のある人と面識があったと思う。お付き合いのある相当の地位にいた方が亡くなった。赤絨毯だから国会議事堂にも関与した人の追悼でしょうね。
○句の契機は特定の個人の死だと思うのですが、「赤絨毯」が下五におかれると、政治の「死」のようなものを感じました。
●それはないよ。あくまで個人の追悼句。
○そうなんですかねぇ(笑)

遺影より死に顔親し冬日和
○安らかな死だったのでしょうね。冬日和なので通夜ではなく葬儀かな。
●葬儀でしょうね。遺影ってきちんとそれ用に撮っていないと、小さな写真を引き伸ばして粒子が荒れてたりしているから。
○そうですね。

どの顔も春待つ顔や通過駅
○これだけで移動する電車からの景とわかりますね、巧いなあ。素材的には類想がありそうな気もしますが、それを捉えた移動中の視点というのが新鮮でした。
●電車の乗っていてホームの人たちの顔を見ている。視点を変えただけなんだけど、これで俳句が新しくなる。

初雪や好き好きにとるおばんざい
●これはバイキングかなあ。「好き好きにとるおばんざい」が語呂がよくていい。
○京都辺りの小料理やじゃないでしょうか。「好きにとる」ではなく「好き好きにとる」とすることで、気のおけない人の存在も感じさせます。
●初雪が効く京都か、なるほど。

すき焼きは旧知の人に会ふごとく
○すき焼きが好きなんでしょうね(笑) 滅多に食べないごちそう感があります。
●うん、貧乏な小生はめったに食べないごちそう。伝統的な和風料理ゆえこの比喩が生きた。

人に鴉にごみ収集日冬の雨
●人に加えて鴉を出し字余りにしたことで一句になっています。ぼく自身アパート管理の仕事をしているので身にしみました。
○この着想を得ても私なんかだと安易に「鴉にも」ってしちゃいそうです。それだと人とは異なる鴉独自の収集日がありそうにも読めて、ダメですね。
●人と鴉はごみをめぐって争う。人目を盗んで鴉が食い荒らす。その鴉を人が追う。そのへんが見える「人に鴉に」。

住む町の平日知りし風邪寝かな
○サラリーマンの知らない平日の町の音。「平日」をうまく使ってますね。
●勤め人であることがすっとわかって親近感のある句。休んで知る住む町の日常というのが新鮮。
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