
○遠藤 下手投げ ●照ノ富士
大相撲五月場所、一番の見ものが照ノ富士対遠藤であった。
今場所の遠藤は貴景勝をきのう食って10勝あげて絶好調。立ち会いズバッと入ってもろ差しになって一気に寄れば照ノ富士は危ないと思った。その確率は7割と見たらその通りの展開となった。遠藤最高の攻めの形となった。けれどふところ深い照ノ富士が左小手投げで挽回を図ると、遠藤の身体がひっくり返るようになって両者が落ちて行った。落ちるのは照ノ富士の方がはやかったが行事軍配は照ノ富士に上がった。
当然物言いがついた。
久しぶりにヨミトモF子から電話が来て見解を問われた。彼女は照ノ富士の優勝を願っているようだがそれにまして遠藤のファンである。むつかしい生き方である。
協議の結果、行司軍配指し違えで遠藤の勝ちとなった。
F子は取り直しになると思っていたらしい。ぼくはそれは無いだろうと言ったら、どうしてと問う。説明するのは簡単でないが取り直しにしにくい質であると思った。
行事が照ノ富士を勝ちとしたのは、遠藤の身体が裏返りその時点で「死に体」と見たからであろう。まだ死に体でないと見たのが審査員であった。彼らの協議は死に体であるかどうかに終始したであろう。結果、死に体でない、という総意に達したのであった。
写真を見ると遠藤の身体は完璧に裏返っていない。側転しているような時間が長くその間に照ノ富士の落下が顕著であった。遠藤の着地している右足から体幹にかけて力がみなぎって作用している。これを生きていると見た審査員の見解が妥当であるとぼくも思った。遠藤の身体にばねがありばねが遠藤を救ったのである。
短い時間であったが大相撲のおもしろさを満喫した。落ちることと裏返ることの妙味、といっていい豊かな時間であった。
左、遠藤の身体があと30度返っていたら右、照ノ富士の勝ちになっていた、はやく落下しても。
