Light in June

文学やアニメ、毎日の生活についての日記。

宮崎駿は見た

2013-09-07 02:46:28 | アニメーション
宮崎駿の引退記者会見、全部見ましたが、幾つかの発言が印象に残りました。

その内の一つ、ロシアの記者からノルシュテインの影響を問われて、宮崎駿は次のように言いました。ノルシュテインは「負けてたまるか」っていう相手です、と。「友人です」と言いつつ、「負けてたまるか」と競争心を剥き出しにする。いやはや、宮崎駿の熱情は未だ衰えていません。たとえ体力に衰えが兆していたとしても、その精神は頑健。それにしても、ノルシュテインにライバル心を燃やすことができるのは、宮崎駿をおいて他にいないのではないでしょうか・・・。すごいなあ。

それから、一番心に残った作品として、『ハウル』を挙げていたのも印象的。『ハウル』は「棘」だと。ゲームの世界をドラマにしようとしたとか、どのように理解してよいのか分からない発言でしたので、いつか誰かがこの点についてもっと突っ込んだ質問をしてほしいものです。

過去作品は振り返らないとか、『風立ちぬ』ラストにおけるダンテ『新曲』の煉獄のモチーフとか、声優についての考え方とか(昔の映画の役者の存在感を常に念頭に置いている)、そしてもちろん「この世は生きるに値する」とか・・・印象深い発言が幾つも。

あと、『紅の豚』の頃を境に、日本の状況(あるいは世界の状況)が変化していったことに触れていて、それがとても興味深かった。

初期作品の公開するスパンが短かったのは、それまで溜め込んでいたものを吐き出すだけだったからです、みたいなことを仰っていましたけれども、それもやはり『紅の豚』辺りまでですよね。つまり、『紅の豚』~『もののけ姫』の間に創作の転機があったのではないでしょうか。ちょうど漫画版ナウシカの連載を終了したのもこの時期のことです。そして、作品の印象が変化するのもやはりこの頃(『もののけ姫』あたり)です。

『紅の豚』っていうのは、本来だったら必要な説明が欠けていたりして、後期作品の特徴を備えています。でもそういう類似ばかりではなく、もっと根本的な部分で後期作品と地続きになっているような気がします。

まあそのへんはおいといて、この記者会見を見ていると、ひょっとしたら宮崎駿はまたやってくれるんじゃないか!?という気持ちにさせられてしまう。それがたとえ長編映画ではなくとも、何かやってくれるんじゃないかと。依然として燃え盛っている意欲。情熱。

とりあえずはお疲れ様でした。でも、あくまで「とりあえず」です。ぼくはまだまだ宮崎駿に期待してます。

ぼくも宮崎駿に遅れを取ってばかりはいられません。どんどん離されていくのは仕方ないとしても、見えなくなってしまってはしょうがないので、なんとか付いていかなくては。時間は限られている。創造的時間は10年だ。明日からがその10年になるようにしなくては。

最後に。「アニメーションは、世界の秘密を覗き見させてくれる」みたいなことを仰ってましたが、これは名言でしょう。宮崎駿は世界の秘密を覗き見たんだ。芸術家の究極的な目標は世界の秘密を知ることだと、ぼくは個人的に思っているんですが、ぼくもいつかその秘密に肉迫したいなあ。ここは感動しましたね。「ラピュタは本当にあるんだ!」みたいな感じで、「世界の秘密は本当にあるんだ!」って。宮崎駿は、それを見たんだ。