かなーり久しぶりの小説の感想。
チェーホフの短篇「よろこび」について。
翻訳は全集に入っていますが、最近は岩波文庫から松下裕氏が短編集を出しているので、ひょっとするとそちらにもあるかもしれません。未確認ですが。
ぼくの読んだのはロシアの出版社が出している「チェーホフ ユーモア短篇集」。何年も前にきちんと訳して読んだのですが、今日はいまさっきぱらぱらと辞書なしで斜め読み。でも内容を覚えているからいいのです。
さて、この短篇がぼくは大好きです。いつ頃書かれたものかは、全集で調べないと分からないのですが(全集持ってるんですが調べるのがめんどい)、内容的にはチェホンテ時代(つまり初期)のものです。ユーモアたっぷりの佳品ということです。チェーホフは、一般には後期の作品がよく知られていて、「かもめ」とか「桜の園」なんかは特に有名ですよね。でもこれは戯曲で、内容もけっこう深刻だったりします。まあ、喜劇だってチェーホフは言ってますけどね。
ところがチェーホフは作家として出発した初期の頃にはチェホンテという筆名を初めとして、「兄の弟」とか「脾臓なき男」とか、そういう筆名で大量のユーモア短篇を書いていました。この頃のことを総称してチェホンテ時代なんて言ったりします。
「よろこび」は、いつ書かれたのか調べないと分かりませんが、チェホンテ時代の香りのする短篇ですね。ミーチャという若者が真夜中に自分の家にやってくるのですが、彼は大変興奮しています。「青天の霹靂なんだ!」と叫ぶわけです。眠っていた家族は何事かと起き出してきて、理由を尋ねるわけですが、ミーチャはこう言います。「みんなはけだものみたいに生活しているから、新聞なんて読まないだろう、でも新聞にはすばらしいことが一杯書かれているんだ!ぼくはなんて幸せ者なんだろう!ああ!だって新聞は有名な人たちのことしか書かないのに、ここにはぼくのことが書かれているんだからね!」
「なんだって、どこだい」とお父さんは蒼ざめて、お母さんは十字を切ります。
お父さんはミーチャに差し出された新聞を声を上げて読むことになりますが、そこに書かれていたのは、ミーチャが馬の下敷きになって頭を怪我した、ということ・・・
ミーチャは喜び勇んで、友人たちにもその記事を見せるべく、家を後にするのでした。
おもしろいなあ。ミーチャのお目出度さというか小市民性というか、おいおい怪我は大丈夫なのかよ、とかツッコミどころもあって、笑えます。一級のコントですよ、これ。これだから初期のチェーホフだって馬鹿にはできないんです。チェーホフは、もしもチェホンテで終わっていたとしても、個人的にはやっぱり好きな作家だったでしょうね。後期のものばかりが有名なので、初期のユーモア短篇ももっと広く読まれればいいなと思います。そういえば新潮社から『チェーホフ・ユモレスカ』が出てますよね。色んなブログでレビューが書かれるといいなあ。お前が書けよって話ですけど・・・でももっとアクセス数の多いブログで・・・
チェーホフの短篇「よろこび」について。
翻訳は全集に入っていますが、最近は岩波文庫から松下裕氏が短編集を出しているので、ひょっとするとそちらにもあるかもしれません。未確認ですが。
ぼくの読んだのはロシアの出版社が出している「チェーホフ ユーモア短篇集」。何年も前にきちんと訳して読んだのですが、今日はいまさっきぱらぱらと辞書なしで斜め読み。でも内容を覚えているからいいのです。
さて、この短篇がぼくは大好きです。いつ頃書かれたものかは、全集で調べないと分からないのですが(全集持ってるんですが調べるのがめんどい)、内容的にはチェホンテ時代(つまり初期)のものです。ユーモアたっぷりの佳品ということです。チェーホフは、一般には後期の作品がよく知られていて、「かもめ」とか「桜の園」なんかは特に有名ですよね。でもこれは戯曲で、内容もけっこう深刻だったりします。まあ、喜劇だってチェーホフは言ってますけどね。
ところがチェーホフは作家として出発した初期の頃にはチェホンテという筆名を初めとして、「兄の弟」とか「脾臓なき男」とか、そういう筆名で大量のユーモア短篇を書いていました。この頃のことを総称してチェホンテ時代なんて言ったりします。
「よろこび」は、いつ書かれたのか調べないと分かりませんが、チェホンテ時代の香りのする短篇ですね。ミーチャという若者が真夜中に自分の家にやってくるのですが、彼は大変興奮しています。「青天の霹靂なんだ!」と叫ぶわけです。眠っていた家族は何事かと起き出してきて、理由を尋ねるわけですが、ミーチャはこう言います。「みんなはけだものみたいに生活しているから、新聞なんて読まないだろう、でも新聞にはすばらしいことが一杯書かれているんだ!ぼくはなんて幸せ者なんだろう!ああ!だって新聞は有名な人たちのことしか書かないのに、ここにはぼくのことが書かれているんだからね!」
「なんだって、どこだい」とお父さんは蒼ざめて、お母さんは十字を切ります。
お父さんはミーチャに差し出された新聞を声を上げて読むことになりますが、そこに書かれていたのは、ミーチャが馬の下敷きになって頭を怪我した、ということ・・・
ミーチャは喜び勇んで、友人たちにもその記事を見せるべく、家を後にするのでした。
おもしろいなあ。ミーチャのお目出度さというか小市民性というか、おいおい怪我は大丈夫なのかよ、とかツッコミどころもあって、笑えます。一級のコントですよ、これ。これだから初期のチェーホフだって馬鹿にはできないんです。チェーホフは、もしもチェホンテで終わっていたとしても、個人的にはやっぱり好きな作家だったでしょうね。後期のものばかりが有名なので、初期のユーモア短篇ももっと広く読まれればいいなと思います。そういえば新潮社から『チェーホフ・ユモレスカ』が出てますよね。色んなブログでレビューが書かれるといいなあ。お前が書けよって話ですけど・・・でももっとアクセス数の多いブログで・・・