けろっぴぃの日記

最近、政治のことをはじめとして目を覆いたくなるような現状が多々あります。小さな力ですが、意見を発信しようと思います。

マキャベリズム的勢力均衡策の落とし穴を埋めろ

2014-08-30 23:39:26 | 政治
最近のウクライナや中東情勢など、非常に混沌とした状況で出口が見えない中で、アメリカ、特にオバマ大統領に対する世間の見方が微妙になりつつある。一部では、あれほど頭が悪く単細胞とのそしりを受けて悪評が高かった先のブッシュJr.大統領よりも「劣悪な大統領」との烙印まで押され、レイムダックが噂される。少し話題を変えて、今日はこの辺について考えてみた。

まず、先日から興味を引いていた下記の記事を見て頂きたい。どうも現実はもう少し複雑な様である。

中東・イスラーム学の風姿花伝 池内恵「『マキャベリスト・オバマ』の誕生──イラク北部情勢への対応は『帝国』統治を学び始めた米国の今後を指し示すのか


この東京大学先端科学技術研究センター准教授の池内恵氏の記事は過去にも引用させて頂いたことがあるが、非常に興味深い指摘をされる方である。その池内氏がこの記事では下記の記事を引用し、これまでの評価と違う「オバマ大統領像」の検証を行っている。

Stephen M. Walt, Is Barack Obama More of a Realist Than I Am?, Foreign Policy, August 19, 2014.

まずタイトルからして刺激的で、「マキャベリスト・オバマ」というところが驚かされる。高校の世界史で習った「マキャベリズム」という言葉には、権謀術数の勝つためには手段を選ばない非常さが込められていたと思う。我々のイメージする「オバマ像」とは大分異なる。アメリカ的には、「弱腰で肝心な時に決断の出来ない大統領」という評価と、「結局、空爆とか戦争を否定できない、理想を追求できないブレる大統領」という真逆の評価があるのだが、そのどちらとも異なる評価である。ポイントとなる部分を下記に引用する。

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「アメリカが最も強い立場にいるから最終的な責任を持つ」のではなく、「アメリカが最も強い立場にいることを利用してアメリカが負いたくない責任やコストはよそに回す」という原則にオバマは従っているのであり、それは最も利己的なリアリストの立場だ、という。
確かに、シリアで介入しなかったこと、イランに歩み寄っていること、ガザ紛争でハマースを批判しつつじわじわとイスラエルのネタニヤフ首相からはしごを外し、恒久和平の実現に力を尽くそうとはしない、といった積み重ねの上で、今回のイラク介入の手法を見ると、古典的なリアリストの勢力均衡論、さらに言えば地政学論者の帝国統治論の処方箋を着々と米外交、特に中東政策に持ち込んできたと読み解けるのです。
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池内氏によれば、この記事はジョージ・フリードマン氏の『激動予測: 「影のCIA」が明かす近未来パワーバランス』とい本に記載の内容に通じるものがあり、特に「勢力均衡論」をひとつの有効な処方箋として評価している。

この考え方の裏には、私なりの言葉で説明させて頂けば「ある種のBestな世界を実現することは可能」という希望を完全に諦め、「如何にして最悪の世界を回避するか」という現実論に完全に舵を切ったと理解することが出来る。我々は、アラブ世界の民主化が「アラブの春」として実現したとき、世界中が民主主義化する理想の世界を夢見ることが出来た。その確信は大きく、だからこそ多くの人が期待したのだが、実際には民族対立、宗教対立は根深く、そう単純には行かないことを学んだ。完全に夢は打ち砕かれるに至ったのである。その様な「世界を良い方向に導こう」という空想的な夢が実現不可能なことであるならば、いっそのこと、「決して良いとは言えない世界が存在することを許容し、その様な勢力が我々の生活に影響をおよぼすことがないように、上手くサジ加減を調整しよう」とオバマが考えた、ないしはその様な方向に舵を切ったというのがこの記事のポイントである。具体的な戦略は、アメリカが理想とする政権を樹立し、それを支援するのではなく、理想的でない勢力がいるのであれば、その勢力と対立する勢力を適宜利用し、その対立のバランスが崩れそうになったら軍事的に介入し、またバランスが取れたのならそれ以上の深追いはせず、勢力の均衡を保ちながら双方が疲弊するのを遠目に見ていようという考え方である。

先のフリードマン氏の言葉を借りると以下の様に整理できるらしい。

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一.世界や諸地域で可能なかぎり勢力均衡を図ることで、それぞれの勢力を疲弊させ、アメリカから脅威をそらす
二.新たな同盟関係を利用して、対決や紛争の負担を主に他国に担わせ、その見返りに経済的利益や軍事技術をとおして、また必要とあれば軍事介入を約束して、他国を支援する
三.軍事介入は、勢力均衡が崩れ、同盟国が問題に対処できなくなったときにのみ、最後の手段として用いる
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この辺は、中東情勢を見ていると良く理解できる部分である。

ただ、ロシアと中国を見ているとこの辺のアメリカの戦略が理屈通りに実現されている様には見えない。このフリードマン的な視点で見ると、ロシアは欧州と勢力均衡させ、中国は日本と勢力均衡させるという指摘をしているのであるが、厄介なのは個別の事案が独立ではないということである。シリアに関しては、シリアのアサド政権側、反体制側、イスラム国が三つ巴の戦いをしており、これらは比較的ローカルに戦争が閉じている。この様な時には勢力均衡を図れば全てが疲弊する方向に進むのであるが、ロシアが欧州との勢力均衡で疲弊しそうになれば、ロシアは疲弊を回避するために中国側に歩み寄ることになる。例えば、欧州への供給を停止したロシアの天然ガスは、欧州の代わりに中国に買い取らせることでその疲弊を最小化することが可能になる。中国に関して言えば、日本との勢力均衡における日本の疲弊を最大化させるためには、ロシアや韓国など周りの国々も巻き込んで日本包囲網を構築することで、日本が多方面作戦に出ざるを得ない状況を作り日本の疲弊を最大化する。これではロシアと中国はWin-Winの関係にあるから、孤立した系での勢力均衡策とは異なる結果を生じさせることになる。つまり、欧州も日本も相対的に疲弊し、ロシアと中国が生き残り結果的にアメリカにより強い脅威を与えるという展開である。

これは明らかにアメリカの意図する展開ではなく、真逆の展開である。オバマが日本に求めるロシアへの制裁は、この真逆の展開を加速する効果を生じさせる。日本にとって最大の優先順位は、この勢力均衡戦略をアメリカが選択するならそれでも良いから、最低限、ロシアと中国の間の分断を最低限担保する条件付きの勢力均衡策を求めることである。また、日本と中国との間の勢力均衡をアメリカが期待するにしても、現状は経済的、軍事的にも余りに中国の方が一方的に有利な状況にあり、その勢力均衡策が有効に機能する環境を構築するためのアシストを求めるべきである。勿論、日本にとっての勢力均衡には軍事的選択肢は含まれないから、あくまでも「法の下の支配」という国際ルールを武器とした勢力均衡がポイントであり、日本はこの争いから逃げるべきではない。積極的に勢力均衡の戦いを挑むべきである。

その時、アメリカに求めるアシストとは何かと言えば、日本が突きつける「法の下の支配」の土俵から中国が逃げようとする状況に、多くの審判団(国連)の主要メンバとして土俵に上がることを求めることである。さらに言えば、この「法の下の支配」を上手く逃げるための手法のひとつに、ワシントンを中心とするロビー活動が挙げられる。例えば、尖閣問題を例に取れば、現在日本が施政権をもつ状況を力により変更しようとする試みに対し、靖国問題や慰安婦問題を持ち出し「日本の帝国主義の象徴」と尖閣問題を絡めようとしたりする。一部の議員などはお金をもらってそれで良いのだろうが、大局的にはこの様なロビー活動は先の「究極の戦略」を骨抜きにするリスクを伴うのである。韓国のロビー活動も同様で、中国に対する勢力均衡に日本、韓国連合を期待したアメリカにとって、中国、韓国連合が日本を叩く状況を見れば、明らかに勢力均衡策は期待したような展開とはなっていない。

今回の池内氏の記事を見て思ったのは、オバマ大統領が本気でマキャベリストなのかどうかはともかくとして、現実にアメリカの世界戦略がその様な視点で動いている可能性があることを自覚するならば、その戦略が効果的に機能出来ない要因を精査し、それをアメリカに指摘することで日本にとっても有利になるような誘導を図ることが重要であるということである。特に中国、韓国のロビー活動は、この状況を大きく歪める原因となり得るから、マキャベリストたり得るためには中国、韓国の情報戦の火の消火をアメリカ政府が意識することが重要だと、日本版NSCはアメリカサイドに進言すべきだと思う。

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