前回、北大生が中東の過激派組織「イスラム国」に戦闘員として加わろうとして摘発を受けた事件についてコメントしたが、実はあのニュースは分からないことが多々あった。それが、その後の報道で少しづつ分かってきたところがあるので整理しておきたい。
まず、私の疑問は例えば下記の様なものである。
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Q1). あの求人広告の張り紙を出した依頼主は誰なのか?また、その依頼主と古書店主との関係は?
Q2). 1件目の求人は勤務地はシリアであったが、2件目は新疆ウイグルであった。職種は警備員で、暴力に対する耐性のある方と言う条件だったが、こちらは中国側の警備員なのかウイグル族側の警備員なのか?また、こちらへの応募はあったのか?
Q3). 古本屋の店主はイスラムに詳しい元大学教授を学生に紹介したというが、その大学教授とは何者で、イスラム国との関係はどうなっているのか?
Q4). NHKにボカシなしでインタビューに答えた若者は何者なのか?また、イスラム国に参加した背景はどの様なものか?
Q5). 古本屋の店主、元大学教授は北大生のシリアへの渡航を幇助した形だが、「私戦予備及び陰謀」の罪に問われることはないのか?また、既に参加して帰国したNHKインタビューの若者も、同じ罪に問われることはないのか?
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取りあえず、こんなところだろうか?この質問に対する答えの参考になる記事が幾つかあったので紹介する。
●Wedge Infinity 2014年10月9日「北大生支援の元教授インタビュー 公安の事情聴取を受けた中田考氏が語る『イスラム国』」
●中東・イスラーム学の風姿花伝 2014年10月9日「自由主義者の『イスラーム国』論~あるいは中田考『先輩』について」
●毎日新聞 2014年10月9日「シリア:戦闘に元自衛官 けがで帰国『政治・思想的信条なし』」
●朝日新聞Digital 2014年10月9日「元教授『イスラム国司令官に連絡』北大生の渡航計画」
●中田考への任意の聴取及び家宅捜索に対する弊社見解 株式会社カリフメディアミクス2014年10月9日
●NHK News Web 2014年10月7日「『イスラム国』渡航 古書店貼り紙で決める」
●弁護士ドットコムNews 2014年10月8日「『イスラム国』の戦闘員になりたかった!? 北大生の容疑『私戦予備・陰謀罪』とは?」
では、順番に分かっていること、分かっていないが推測されることを順番に書いていく。
A1). 依頼主が誰かについては正確なことは分っていないが、多分、報道でイスラム国の傭兵になれば月600ドルの給料が支払われると聞いた古書店主(ないしは関係者)が、勝手な思い込みで面白半分で求人広告を張り出したと言われる。店主側は多少なりともイスラムに関する興味があると見えて、その筋の元大学教授を紹介すれば何とかなると思っていた程度ではないかと言われている。
A2). この疑問に対しては情報がない。ただし、シリアの場合には、戦闘に巻き込まれて死ぬ可能性はあるが、戦闘員を希望して渡航するので何処かの軍事オタクの湯川遥菜氏の様に捕まって捕虜になる可能性は低い。しかし、新疆ウイグルに関しては中国政府の支配下にあり、反政府的な行動をとれば中国政府に国家反逆罪的な罪で逮捕され、死刑になる可能性は高いので、こちらは「犬死」になる可能性が高く、怖くて希望できないだろう。
A3). この大学教授は東京大学文学部イスラム学科の1期生の中田考氏で、同志社大学高等研究教育機構客員教授のイスラム学者である。カリフメディアミクスなる会社の代表取締役社長でもあるという。前回引用した東京大学先端科学技術研究センター准教授の池内恵氏もこの東京大学文学部イスラム学科の出身で、上述の記事では中田氏のことを「先輩」として遠い昔に面識が少しだけあったとしている。単なるイスラムの研究者ではなく、自身もイスラムに傾倒しているが、どうもイスラム国の熱狂的な支持者でもなければ、リクルートに積極的に協力する意思がある訳でもないらしい。中田氏によれば、イスラム国に捕まった湯川氏の裁判のために、「日本語とアラビア語の通訳が出来て、イスラムの知識がある人」という条件に合致したが故にイスラム国に招待された経験があるが、米軍の空爆のあおりを受けて湯川氏には会えていないという。ただ、実質的にはイスラム国と北大生の間の仲介役を買っていたのは事実である。
A4). 毎日新聞の記事では氏名から経歴まで明らかにされている。驚くことに元自衛官である。ただ、戦争への興味は小学校時代の虐めに原因があるようで、新聞では「自分の存在価値に悩んだ結果、『極限状況に身を置いて生きる意味を問いたい』と考えるようになった」と答えている。北大生についても「生きる意味が見つからず、戦場なら何かを見いだせると思ったのでは」として、極限状態に身を置くことで「生きる」実感を得るなどリアリティが希薄な感が否めない。
A5). 古書店主も中田氏も、可能性としては「私戦予備及び陰謀」に問われる可能性はあるが、あまり警察や検察はこの法律で怪しい輩を片っ端から牢屋に送ってやろうと考えている様ではない。実際の公判を維持できるかも怪しい部分があるので、ある程度は同様の考えの若者が続出しない様にするための抑止的な意味合いでニュース沙汰にした感がある。報道によれば、北大生にしても逮捕され身柄を拘束されたところまでは言っている訳でもなく、古書店主や中田氏も任意の事情聴取が行われたところまでという。今後、彼らが再度出国しようとしたどうなるか分からないが、大人しくしている限りにおいてはここまでで終わりとなる可能性は高い。しかし、国連の場でも各国がイスラム国に自国民が参加するのを取り締まることを要請されており、新たな池上氏のご指摘の様にこれから新たな法律を作ることが現実的でない日本の政治状況においては、シリアへの渡航を実際に企てようとした者を今後、本当に逮捕する事態が起きる可能性は高まっていると言える。ちなみに、「私戦予備及び陰謀」は予備行為に対する罪で、実行に移した場合に取り締まる法律はない。殺人予備や未遂が捕まって、殺人罪を取り締まる法律がないような状況である。実行行為は国外で行われるので、それは外国の法律で取り締まって頂くというスタンスなので、NHKのインタビューに答えた若者は、実行行為で捕まることはない。ただ、参加することを意図して渡航したのだから、こちらの方が「私戦予備及び陰謀」の構成要件を満たしている可能性は高い。ただ、法律家でないので分からないが、準備段階で逮捕せずに既に準備を解いた(目的を果たして帰国したので、現状では次の準備行為を行っていない)状態であるので、現行犯的な位置づけであるならば逮捕は出来ないかも知れない。
以上が上記の疑問への回答である。
北大生が報道陣に明かしている内容や、NHKで取り上げられた若者にしても、生と死のギリギリのところに身を置くゲーム感覚が強く、現実の戦場などに対するリアリティが感じられない。自殺すら、ゲームのリセットボタンの様な感覚で考えている節があり、バーチャルな世界とリアルな世界の境界が感覚として失われてきている感じである。まだ救われるのは政治的な思想が希薄であるために、徒党を組んで何かをする訳ではなく、社会的な影響力は小さそうだ。ただ、この辺も考えてみれば個人で行うゲーム感覚故の必然で、その前後の背景とは無縁ではなさそうである。
この意味では、若者たちがテレビで頻繁にイスラム国の訓練映像やリクルート用ビデオを見せられるのは好ましくない。自主規制的に使用の自粛をはかれないものかと個人的には感じている。
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まず、私の疑問は例えば下記の様なものである。
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Q1). あの求人広告の張り紙を出した依頼主は誰なのか?また、その依頼主と古書店主との関係は?
Q2). 1件目の求人は勤務地はシリアであったが、2件目は新疆ウイグルであった。職種は警備員で、暴力に対する耐性のある方と言う条件だったが、こちらは中国側の警備員なのかウイグル族側の警備員なのか?また、こちらへの応募はあったのか?
Q3). 古本屋の店主はイスラムに詳しい元大学教授を学生に紹介したというが、その大学教授とは何者で、イスラム国との関係はどうなっているのか?
Q4). NHKにボカシなしでインタビューに答えた若者は何者なのか?また、イスラム国に参加した背景はどの様なものか?
Q5). 古本屋の店主、元大学教授は北大生のシリアへの渡航を幇助した形だが、「私戦予備及び陰謀」の罪に問われることはないのか?また、既に参加して帰国したNHKインタビューの若者も、同じ罪に問われることはないのか?
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取りあえず、こんなところだろうか?この質問に対する答えの参考になる記事が幾つかあったので紹介する。
●Wedge Infinity 2014年10月9日「北大生支援の元教授インタビュー 公安の事情聴取を受けた中田考氏が語る『イスラム国』」
●中東・イスラーム学の風姿花伝 2014年10月9日「自由主義者の『イスラーム国』論~あるいは中田考『先輩』について」
●毎日新聞 2014年10月9日「シリア:戦闘に元自衛官 けがで帰国『政治・思想的信条なし』」
●朝日新聞Digital 2014年10月9日「元教授『イスラム国司令官に連絡』北大生の渡航計画」
●中田考への任意の聴取及び家宅捜索に対する弊社見解 株式会社カリフメディアミクス2014年10月9日
●NHK News Web 2014年10月7日「『イスラム国』渡航 古書店貼り紙で決める」
●弁護士ドットコムNews 2014年10月8日「『イスラム国』の戦闘員になりたかった!? 北大生の容疑『私戦予備・陰謀罪』とは?」
では、順番に分かっていること、分かっていないが推測されることを順番に書いていく。
A1). 依頼主が誰かについては正確なことは分っていないが、多分、報道でイスラム国の傭兵になれば月600ドルの給料が支払われると聞いた古書店主(ないしは関係者)が、勝手な思い込みで面白半分で求人広告を張り出したと言われる。店主側は多少なりともイスラムに関する興味があると見えて、その筋の元大学教授を紹介すれば何とかなると思っていた程度ではないかと言われている。
A2). この疑問に対しては情報がない。ただし、シリアの場合には、戦闘に巻き込まれて死ぬ可能性はあるが、戦闘員を希望して渡航するので何処かの軍事オタクの湯川遥菜氏の様に捕まって捕虜になる可能性は低い。しかし、新疆ウイグルに関しては中国政府の支配下にあり、反政府的な行動をとれば中国政府に国家反逆罪的な罪で逮捕され、死刑になる可能性は高いので、こちらは「犬死」になる可能性が高く、怖くて希望できないだろう。
A3). この大学教授は東京大学文学部イスラム学科の1期生の中田考氏で、同志社大学高等研究教育機構客員教授のイスラム学者である。カリフメディアミクスなる会社の代表取締役社長でもあるという。前回引用した東京大学先端科学技術研究センター准教授の池内恵氏もこの東京大学文学部イスラム学科の出身で、上述の記事では中田氏のことを「先輩」として遠い昔に面識が少しだけあったとしている。単なるイスラムの研究者ではなく、自身もイスラムに傾倒しているが、どうもイスラム国の熱狂的な支持者でもなければ、リクルートに積極的に協力する意思がある訳でもないらしい。中田氏によれば、イスラム国に捕まった湯川氏の裁判のために、「日本語とアラビア語の通訳が出来て、イスラムの知識がある人」という条件に合致したが故にイスラム国に招待された経験があるが、米軍の空爆のあおりを受けて湯川氏には会えていないという。ただ、実質的にはイスラム国と北大生の間の仲介役を買っていたのは事実である。
A4). 毎日新聞の記事では氏名から経歴まで明らかにされている。驚くことに元自衛官である。ただ、戦争への興味は小学校時代の虐めに原因があるようで、新聞では「自分の存在価値に悩んだ結果、『極限状況に身を置いて生きる意味を問いたい』と考えるようになった」と答えている。北大生についても「生きる意味が見つからず、戦場なら何かを見いだせると思ったのでは」として、極限状態に身を置くことで「生きる」実感を得るなどリアリティが希薄な感が否めない。
A5). 古書店主も中田氏も、可能性としては「私戦予備及び陰謀」に問われる可能性はあるが、あまり警察や検察はこの法律で怪しい輩を片っ端から牢屋に送ってやろうと考えている様ではない。実際の公判を維持できるかも怪しい部分があるので、ある程度は同様の考えの若者が続出しない様にするための抑止的な意味合いでニュース沙汰にした感がある。報道によれば、北大生にしても逮捕され身柄を拘束されたところまでは言っている訳でもなく、古書店主や中田氏も任意の事情聴取が行われたところまでという。今後、彼らが再度出国しようとしたどうなるか分からないが、大人しくしている限りにおいてはここまでで終わりとなる可能性は高い。しかし、国連の場でも各国がイスラム国に自国民が参加するのを取り締まることを要請されており、新たな池上氏のご指摘の様にこれから新たな法律を作ることが現実的でない日本の政治状況においては、シリアへの渡航を実際に企てようとした者を今後、本当に逮捕する事態が起きる可能性は高まっていると言える。ちなみに、「私戦予備及び陰謀」は予備行為に対する罪で、実行に移した場合に取り締まる法律はない。殺人予備や未遂が捕まって、殺人罪を取り締まる法律がないような状況である。実行行為は国外で行われるので、それは外国の法律で取り締まって頂くというスタンスなので、NHKのインタビューに答えた若者は、実行行為で捕まることはない。ただ、参加することを意図して渡航したのだから、こちらの方が「私戦予備及び陰謀」の構成要件を満たしている可能性は高い。ただ、法律家でないので分からないが、準備段階で逮捕せずに既に準備を解いた(目的を果たして帰国したので、現状では次の準備行為を行っていない)状態であるので、現行犯的な位置づけであるならば逮捕は出来ないかも知れない。
以上が上記の疑問への回答である。
北大生が報道陣に明かしている内容や、NHKで取り上げられた若者にしても、生と死のギリギリのところに身を置くゲーム感覚が強く、現実の戦場などに対するリアリティが感じられない。自殺すら、ゲームのリセットボタンの様な感覚で考えている節があり、バーチャルな世界とリアルな世界の境界が感覚として失われてきている感じである。まだ救われるのは政治的な思想が希薄であるために、徒党を組んで何かをする訳ではなく、社会的な影響力は小さそうだ。ただ、この辺も考えてみれば個人で行うゲーム感覚故の必然で、その前後の背景とは無縁ではなさそうである。
この意味では、若者たちがテレビで頻繁にイスラム国の訓練映像やリクルート用ビデオを見せられるのは好ましくない。自主規制的に使用の自粛をはかれないものかと個人的には感じている。
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